ケイケイの映画日記
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2015年05月20日(水) 「駆込み女と賭出し男」



可もなく不可もなくの大泉洋主演の時代劇かぁ、と食指が湧かなかったのですが、原案井上ひさし、監督原田真人と読んで、俄然興味津々。キャストも腕のある俳優さんが揃っている。初日に観てきましたが、これが大当たり。女の業や哀しさが充満しているはずの駆け込み寺が舞台なのに、情の濃さは残しながら、粋でとても清々しい作品です。

江戸時代の末期。夫からの離縁は容易なのに、妻から離縁は認められていなかった時代。東慶寺と言う縁切り寺で二年過ごせば、晴れて夫から三行半が貰えると言う幕府公認の制度がありました。女たちは、まず御用宿に預けられ、そこで聞き取り調査が行われます。御用宿の主・柏屋源兵衛(樹木希林)の甥で、戯作者志望で医師の信次郎(大泉洋)が江戸を追われて、聞き取り見習いとして、柏谷で働く事になりました。そこで放蕩三昧の夫(武田真治)から暴力を振るわれている、鉄練のごじょ(戸田恵梨香)と、豪商堀切屋(堤真一)の妾・お吟(満島ひかり)が駆け込んできます。

夫から命からがら逃げてきた女たちが主役ですもの、そりゃ切ない話が盛りだくさん。でも被害者意識一辺倒で描くのではなく、ごじょを中心にして彼女たちを理解し、しなやかに生き生き成長していく過程を、温かく見守っているのが良いです。お吟の堀切屋と別れる理由の女の美学も天晴れだし、想像妊娠してしまうおゆき(神野美鈴)の哀しみと愛しさもいい。あれは、信次郎とごじょの逢瀬に、恋しい男を思い出したんでしょうね。恐るべし女性ホルモン(笑)。

出てくる男が、バカばっかりでないところもポイント高し。ごじょの夫は、鉄練の腕が自分より上の女房に嫉妬し卑屈になっていたのでしょう。火脹れで醜くなった妻を「人三化け七」とあざ笑い、浮気する事で自分を慰める卑小な人物です。この夫が最後の最後にどうしたか?暴力振るうより、ずっとずっと男らしいのは、素直に自分の心が語れることです。武田真治の流す涙は、とても綺麗でした。そして妻の妹を遊郭から足抜けさせるため、自分は間抜け呼ばわりされる覚悟の夫も出てくる。男尊女卑の時代に、愛する妻の願いの為ならと言う男性も、ちゃんと居たと言う事です。とっても男らしいぞ!

大泉洋は、「馬面のひょっとこ」だの「きつみと渋みが足りない」とか、そりゃ散々な言われ方です(笑)。でも当時としては珍しいはずのリベラルで気弱な男性を愛嬌たっぷりに好演。落語張りの長台詞もこなしています。びっくりしたのは女性陣。満島ひかりが艶やかでもぉ〜。所作のひとつを取っても、とにかく粋。これが江戸前の色気なのかと感嘆しました。そして戸田恵梨香。決して上手い演技とは思いませんでしたが、ごじょと言う女性の田舎出の泥臭さの中の、芯の強さや心映えの美しさがきちんと感じられました。火傷が治ってからの素顔の美しさも印象的。

「いつまでも妹。べったべった、だんだん」の場面には、号泣。女の友情も捨てたもんじゃないと、この二人には泣かされました。キャストはベテラン揃いなので安定感があり、とても良かったです。ただ一つ気になったのは、東慶寺門跡の法秀尼の陽月華。決して彼女が悪かったとは思いませんが、尼僧姿は化粧も出来ず地味すぎるくらい地味なので、存在感が大事。申し訳ないけど、顔が思い出せないのです。整った美人顔でしたが、印象が薄い。大事な役なので、ここは名の知れた人でやって欲しかったなぁ。

ちょっとエピソード盛り込み過ぎで、収拾が雑なものもあったけど、作り手の気合を感じるので、良しとしよう。江戸の風俗や風習もお勉強できて、得した気分です。笑って泣いてほのぼのして。とっても優秀な娯楽作です。秀逸なフェミニズム映画でもあると思います。


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