ケイケイの映画日記
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2014年11月17日(月) 「紙の月」

このポスター、素敵でしょ?私は今年一番のポスターだと思います。射るようにも、助けを求めているようにも見える宮沢りえの表情に、期待値上げて観ましたが、残念ながらヒロインには共感出来ず。全体的に中途半端な作品に感じました。監督は吉田大八。

銀行の渉外担当の契約社員の梨花(宮沢りえ)。エリートの夫(田辺誠一)と二人暮らしです。顧客の平林(石橋蓮司)の大学生の孫光太(池松壮亮)から好意を寄せられ、二人は不倫関係に。光太が授業料を払うのに困窮していると知った梨花は、祖父である平林の預金を勝手に解約。次々と顧客の預金を横領していきます。

解説では冷えた夫婦関係となっていますが、夫、私には申し分ないように思えました。仲良く一緒に出社するし、出張にカルチェの時計をお土産に買うしで、妻に関心がないなんて、とんでもない。自分はエリート社員なんだからと、契約社員の妻をもっと小バカにする夫は、当時(20年前)もっといたはずです。なので、唐突に梨花が不倫に走るのに、まず納得いきません。

ずっと専業主婦で、パートから頑張って契約社員になった達成感はわかる。お給料が増えたので、今までより少し良い物を買うのも、自分への褒美なんでしょう。彼女の少女時代が回想され、人に尽くす事に歪な感覚を持っていたことがわかります。と言う事は、光太への「貢ぎ」は、若い男性の肉体に溺れてのではなく、可哀想な子だから、私が救ってあげなくちゃ的な感情だと、本人は解釈している。

でもそこで自分の貯金ではなく、横領と言う形はやはり歪。う〜ん。梨花は根本的には思考が成長しなかったと言う事?それじゃ社会生活に不適合な訳ありの人でしょう。そうでも解釈しないと、横領で得たお金で、三日の豪遊で150万使ったり、お洒落なマンションを光太に与えたりの暴走が理解できません。

作り手はそういうのを描きたかったのかなぁ・・・。違うと思うんですけど。普通の主婦が、簡単に横領に走った。それは「孤独」を託つ誰しも待ち受けている落とし穴だと、言いたかったと思います。でも私の目に映る梨花は、誰か愛(大きく間違っていますが)を与えなければ生きていけない、一種依存症的な特別な人です。ならば夫が買ってきた時計に対して、素直に喜べない彼女の気持ちも理解出来ます。時計は貰うのではなく買い与えたい女性なんですね、梨花は。

ならもっとピカレスクに走って作ればいいのに、お金の使い方も面白味がなく中途半端。光太への執着も薄く、年下男性へのドロドロした愛憎を描く事もない。もちろん良人である夫への詫びや葛藤も最後までない。何の罪科もないのに、こんな可哀想な旦那さんいませんよ。そんな特別な人の暴走を見せられても、爽快感も解放感もありません。何がきっかけだったのか、わからないのです。

面白かったのは、必死で偽装工作する梨花の様子です。なるほどと感心すると共に、何でこの智恵を全うな事に使えないのだろうと思います。他には銀行内部の様子も見られた事。普段知りえない部分ですから。

映画化の際に作った厳格で優秀なベテラン行員隅を演じた小林聡美が、キャラも彼女も出色。彼女の演技とセリフだけで、どんな人生を送ってきたか、独り暮らしの家まで透けて見える。隅もまた、女性としては恵まれぬ人生を送り、頑なで融通の利かない性格です。優秀でありながら敗北感や屈辱を受ける彼女は、梨花よりもっと孤独なはず。何故彼女は梨花にはならなかったのか?自分の弱点を知っていたからだと思います。二人が対峙する場面で、情けと素直な自分の心の吐露を語る隅の姿は、この作品で一番心に残り秀逸でした。小林聡美、やっぱり上手いなぁ。

ここからどうなるのか?ハラハラしていたら、げんなりする展開。名前を出すと結末がわかってしまうので伏せますが、銀行勤めだった某女性の犯罪を思い出しました。そして梨花の行動を暗に肯定しているような描き方にも疑問が湧きます。

宮沢りえが熱演ではなく、抑えた演技で好演していたのと、小林聡美のお蔭で何とか最後までそれなりに見られました。与えられるより、与える愛の方が幸せ、が座右の銘の梨花。子供がいないのが皮肉でした。我が子こそ与える愛の権化。時間も心もお金も、自分から全て詐取していくのに、それでも無条件に愛しいのは、私には我が子だけでした。彼女に子供がいたら、この犯罪は起こらなかったかも知れません。でもそれはそれで、別の犯罪に走っちゃうかも?いやだから、そういう女性を描きたかった作品では、ないと思います。


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