ケイケイの映画日記
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2014年02月11日(火) 「ウルフ・オブ・ウォールストリート」




超面白い!怪作にして傑作。三時間が本当にあっという間でした。本年度アカデミー賞、監督・脚本・作品・主演男優・助演男優ノミネート作品。みんなあげちゃって下さい!作品賞で受賞したなら、オスカー会員の皆々様も見上げた気風の良さですが、この下品さではまず無理(笑)。監督はマーティン・スコセッシ。これも実在の人物、ジョーダン・ベルフォートの手記が元の作品です。

1980年のアメリカ・ウォール街。学歴なしコネなしのジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)。何とか一流投資銀行に入職したのに、トレーダーの資格を得たその日がブラック・マンデーと言う運の悪さ。銀行は破綻し、次に入った陳家な証券会社で、あっという間に頭角を現した彼は、26歳で会社を設立。全米1%の富裕層を狙い、巧みな話術を社員に伝授し、今では700人の従業員を抱え、年収49億円。当然不正もてんこ盛り。それを凝視しているFBI捜査官のデナム(カイル・チャンドラー)がいました。

苦労に苦労を重ねて起業するのかと思いきや、割とあっさりジョーダンは出世。考えてみれば、売り買いするもんは株なんだから、他人の褌で相撲取るようなもんですよね。舌先三寸で、あっと言う間の億万長者の描写は、株の本質を描いているのかも?

最初に入った会社の上司(マシュー・マコノヒー、「ダラス・バイヤーズクラブ」出演のため、激やせ中。通常の男ぶりが戻るか、非常に心配)が、とても強い印象を残します。曰くマスターベーションは日に2回、そして薬をやれだって。血液の循環を良くして脳を活性化させるためだとか(笑)。これって、常にハイテンションを維持しなければ、億単位のお金を動かすのが、怖くて出来ないからでは?良心や常識なんか蹴散らさなければ、ウォール街では、やっていけないと言う事でしょう。

なので、仕事しているシーンより多い狂乱の宴が、延々繰り広げられるのですが、妙に納得。一晩に接待260万、ジョーダンの独身サヨナラパーティーに2億円。会社に半裸の娼婦が大挙おでましで、薬物とアルコールの酒池肉林。そして糟糠の平凡の妻は捨て、再婚の妻ナオミ(マーゴット・ロビー)は、ブロンドでグラマラスな「プレイボーイ」風味の美女。だいたい2時間はこれだけ。しかしゲップが出そうかと言うと、さにあらず。超絶に楽しいのです。

男性ならきっと、まるで夢のようだとうっとりするはず。でも正直言うと、私も一万ドルくれるなら、坊主頭にしてもいいわ(笑)。ここまで楽しげに繰り広げられると、お金は無くても豊かな心、充実した人生とか、そんなもん、クソ食らえだと言われている気がする。年食って身の程を知り、日頃は清貧の賢者を目指しているワタクシなんですが(嘘です)、それはもう、お金には縁の無い人生だと、諦めているからなんだと痛感しました。やっぱりお金あった方がいいですよ。すごい真理だと思ったのは、「寄付だって潤沢に出来る」みたいなセリフ。震災の時、それこそ貧者の一灯で寄付したもんですが、今じゃさっぱり。ジョーダンくらいお金があれば、ドーン!と寄付するのになぁと、そんな事も考えたり。

毎日日替わりで薬をキメながら、娼婦を抱くジョーダン。まぁ馴染みの娼婦はいるかもしれないけど、ほとんどが一夜限り。この劇中で愛した女性は二人だけです。そして両方共妻になっている。これは意外でした。最初の妻とは離婚したけど、真面目で的確なアドバイスを夫に出す地味な前妻も、変貌していく夫には、多分付いて行けなくなっていたはず。そしてジョーダンは、あんなお金持ちになっても、常に妻には頭が上がらない。そして社員も大切にする。こういうの、すごく珍しいと思う。だいたいが、暴君になるんじゃないですかね?下衆だけど、決して悪党じゃないんですね。むしろ愛嬌がある。

詐欺まがいの不良債券を売りさばくのに、何故悪党に見えないか?それは買う方だって欲に目が眩んでいるから。年寄りの虎の子を奪うのではなく、富裕層の余ったお金だもん。だから観ていてこちらの胸はちっとも痛まない。所詮ジョーダンたちと顧客は、同じ穴の狢って事ですかね。

永遠にこの日々が続くはずはなく。やっぱり悪い事してたら、目立つのはいけない。「アメリカン・ギャングスター」で、デンゼル様も言ってたでしょ?。ようやく事態を虎視眈々と見守っていたFBIさん登場。これが実に颯爽としていて、カッコ良かったのですね。年収49億円の大金持に対して、臆することなく年収600万の国家公務員が、ジョーダンから賄賂を見え隠れされても、バンと撥ね退ける。やっぱりね、正義はお金じゃ買えないのよ!(もうコロコロ気持ちが変わる)。この時のジョーダンの演出も良かったです。「こんな大きなクルーザーの上では、僕は007の悪役のようだ。あっはっは」と、大物気取りなのですが、ちょっとFBIに挑発されると、もう激昂。子供じみています。面白かったけどね。

ジョーダンと言う人は、頭の回転も良いし切れるのですが、隙もいっぱいなわけ。上記のシーンもそうだし、お縄になるよりは社長を引退して、片腕のドニー(ジョナ・ヒル)に譲ると言う案を飲んだはずなのに、社員を前に引退の演説していて気持ちが高ぶり、あえなく撤回。先は読めているはずなのに、売られた喧嘩は買うと言うか、負けが見えても勝負するのが男だと思っていると言うか(笑)。金の計算はするけど、人生の計算は度外視しているんですね。その割に変わり身も早く、危険を察知すると自分を一番大切にします。

ジョーダンを見続けていると、男性の本質って、これなのだなと感じます。とにかく本能に忠実です。それを突き抜けて描き続けるから、道徳感はガン無視、こんなに下品で猥雑、感動や成長も描かないのに、正直だから爽快で痛快なんだと思い当たりました。計算高い小賢しい男より、チャーミングですよね。

実はね、若い時は何度も同じ事を繰り返し、私を激怒させた夫なんですが、その時々に、本心から「悪かった」と思っていたのだと、ジョーダンを観て思いました。あれは忘れるのが早かっただけなのだと(笑)。素早い立ち直りに、何も反省してないじゃねーか!と、責め立てたもんですが、多分半日、いや一時間くらいは本当に反省してたんだと、やっと今納得しています。ジョーダンも前妻と別れて三日目にナオミと暮らし始めていますが、まるまる一日くらいは、猛反省したと思われます(笑)。

身から出た錆と、仕事の出来るFBIさんのお蔭で、ジョーダンの末路は想像通り。しかしあなた、ここでもすぐ立ち直る。印象的な「このペンを売ってみてくれ」のシーンが二回あります。それがどこで出てくるか、お楽しみに。ジョーダンの非凡なところは、反省すれども学習せず、ではなく、反省しなくて学習するところですかね?ただじゃ起きないぞと言うラストは、妙に元気が出て、嬉しくなりました。

とにかくレオが出色の出来!オスカーは大スターに厳しくて、古くはレッドフォード、現在ならジョニデやブラピなど、オスカーと縁のない俳優はたくさんいます。大スターの中でも、レオは作品の出来でも演技でも、常に抜きん出ています。作品選びの目利きも上手。愛嬌たっぷりに演じてくれたから、あんなキュートでチャーミングなジョーダンになったと思います。

助演ノミニーのジョナ・ヒルは全然悪くないですが、、個人的にはマコノヒーかチャンドラーだと思います。マコノヒーは主演でノミニーだから外れたんでしょうね。チャンドラーの宴の終わりの複雑な物思う表情が、作品を面白いだけではなく、引き締めていました。

原作もこんな感じなのかしら?スコセッシの最近の作品は全て観ていますが、どれも風格は感じても、私はあんまり面白い作品はなかったです。そんな自分の作品にイライラしていたのは、実はスコセッシ自身だったのかも?この生臭い男の一代記を読み、眠っていた男の本能が戻ってきたんですかねぇ。

もっと色々書きたいんですが、この辺で。オスカー発表がとっても楽しみです。


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