ケイケイの映画日記
目次過去未来


2013年06月20日(木) 「華麗なるギャツビー」




製作を聞いた時は全然興味なかったけど、予告編を観て、俄然楽しみになった作品。私の年代だと、レッドフォードの「華麗なるギャツビー」が印象深く(と言っても、ほとんど覚えちゃいない)、こちらは全然違うアプローチで描くならいいんじゃないかと予想したので。ゴージャスな宴と、レオに男の純情と、キャリーに女の狡猾さをたっぷりと見せてもらい、満足しました。

1920年代の好景気に沸くNY。宮殿のような豪邸で、毎夜豪華なパーティーが開かれるギャツビー(レオナルド・ディカプリオ)邸。しかし彼の素性は誰も知らず、大富豪の息子だ、いや殺し屋だと、囁かれています。小説家志望の隣人ニック(トビー・マグワイア)は、ギャツビーから招待状が来て、初めてパーティーに足を踏み入れます。彼が澱みなく話す完璧な経歴に、胡散臭いものを感じるニックですが、ギャツビーのミステリアスな人柄に惹かれ、二人は親しくなります。ある日ギャツビーは、ニックの従妹デイジー(キャリー・マリガン)とのお茶会のセッティングを頼みます。デイジーこそは、5年前ギャツビーが戦場に行ったため、別れてしまった恋人でした。デイジーはその後、トム(ジョエル・エドガートン)と結婚。現在社交界の華となっていますが、夫トムには愛人のマートル(アイラ・フィッシャー)がおり、夫婦は不仲でした。

レッドフォード版はテレビ放映の時観ましたが、もっと静かな印象でした。前半は同じくラーマンの「ムーラン・ルージュ」のノリで撮っていて、これでもか、これでもかのゴージャスなシーンが繰り広げられます。衣装や美術がすごく素敵で、あの時代に容易にトリップ出来ます。そして華やかなれど、ケバケバしい喧騒は、日本のバブル景気を思い出しちゃう。そして観ている時は楽しいけど、案外記憶には残りません。この空っぽさ。これがこれが好景気に踊らされる実態なんだと言っているよう。

若い頃のレッドフォードは端正な二枚目で、当時は美男子の代名詞でした。対するレオは童顔で、でも当第一の花形スターのオーラがいっぱい。そして秘密がありそうなギャツビーに、レッドフォードにはない、ピカレスクさも匂わせて、魅力があります。感心したのはキャリー・マリガン。ミア・ファローのデイジーは、キュートだけどハリウッド型のゴージャスな美人とは言い難い彼女は、世紀の二枚目のレッドフォードが生涯かけて追いかける女性には思えず、世が世ながらエリザベス・テイラーの役だったのにと言われていました。キャリーも正統派美女ではないので、前作の二の舞になるか?と危惧していました。でもこれがこれが、甘やかでグラマラスな美女に仕上げていました。ギャツビーの「夢の女」として愛され続けるのも納得でした。

自信満々だったギャツビーは、恋焦がれていたデイジーの前では、まるで初心。終始一貫全くぶれず、男の純情を貫きます。う〜ん、でも哀しいかな、彼の愛するデイジーは、幻なのですね。

本当のデイジーはとてもリアリスト。「娘は綺麗でバカに育って欲しいわ。それが幸せだから」と言うところを見ると、夫の浮気に苛まれている自分は、賢いと思っているのですね。でも賢くはないから、簡単に昔の男に肌を許す。子供のいる女は、例え夫がどうあろうと、簡単に浮気なんかしない。ましてや浮気相手に「一緒に逃げましょう」なんて、言わないよ。と言うかこの女、一切子供の事は頭にないのね。ゴージャスな社交界の華は、実は自己愛の塊です。同じ浮気女の下品なマートルが、あばずれの深情けを見せるのと対照的。処世術にたけ狡猾なのを、彼女は賢いと誤解しているのです。

ギャツビーが追いかけていたのは、本当はデイジーではなく、「良家の子女」だったのでしょう。どんなお金持ちになり、経歴を詐称しても、出自だけは決して消せない。ギャツビーは過去は取り戻せると言います。端的に言えば、金で買えると言う意味か?彼がデイジーに「この五年、トムを愛した事はなかっただろう?」と執拗に拘るのは、自分の出自も「無かった事」にしたかったからなんでしょうね。可哀想なギャツビーですが、ある意味デイジーとはお似合いです。

ギャツビーのお葬式に出席者をと、奔走するニック。しかし誰も来ない。あれだけ彼のお金を湯水の如く使った人達なのに。でも私は可哀想とは思いません。ギャツビーは食い物にされたのではなく、彼がそうしたかったから、人が集まっただけ。みんな本当の彼がどんな人が知らない。ギャツビーは最後まで「どこの馬の骨かわからない」人で終わってしまいました。ニックがギャツビーに心寄せたのは、ギャツビーが心を開き、本当の自分を見せたから。ギャツビーを追い詰めたのは、卑しい自分の出自が許せなかった、自分自身なんだと思います。私もお金で幸せは買えないと思います。

実は私が一番生々しく理解出来たのは、トム。お金持ちの俗物で女好き。お高いデイジーと下世話なマートルで、バランスを取っていたのでしょう。両方に不実なのに、彼なりに尊重してたつもりなのでしょう。だから自分の手からすり抜けそうになると、必死でしがみつくのは、わかるなぁ。悪漢ですが、彼の行動はよくわかります。

一部始終を冷静に見守っていたニック。冒頭でアルコール依存だと描かれますが、これも納得。これだけ人の心の裏側ばかり見せられたら、アルコールに逃げたくもなるでしょう。しかし原作者フィッツジェラルドを想起させるニックが、もがき苦しんだ後に書かれたギャツビーの伝記は、人間はひと皮剥けば皆いっしょ、貧富の差や身分の差など、その後の努力で挽回できるはずだ、と教えてくれます。最後に書いた「GREAT 」の文字は、ニックからギャツビーの人生への、最高の餞なのではないでしょうか。たった独りでも、ギャツビーを愛し理解してくれた人がいた事は、このお話を救いのあるものにしています。


ケイケイ |MAILHomePage