ケイケイの映画日記
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2013年05月19日(日) 「ヒステリア」




今では大人の玩具として知られている、電動バイブレーターの出来るまでを描いた作品。扇情的なムードは皆無で、キュートで上品なコメディに仕上がっています。私が目を見張ったのは、その愛らしさの中に、女性の暗黒史をさりげなく織り込んでいた事です。秀逸なフェミニズム作品です。監督はターニャ・ウェクスラー。

19世紀ヴィクトリア朝花盛りのロンドン。未だ古い医療知識がまかり通る現実に苛立つ若き医師モーティマー。彼の新しい医療体制への主張は通らず、勤務先を転々としています。今度の勤務先はダリンプル医師(ジョナサン・プライス)が経営する産婦人科。鬱状態や感情の起伏の浮き沈みの激しさを訴える患者を「ヒステリー状態」と定義し、マッサージで性的な満足感を与えると言う治療を施していました。診療所は忙しく、早速モーティマーも治療にあたります。ハンサムな彼はたちまち患者を増やし、大盛況。そんな彼にダリンプルは診療所を継がせ、愛らしい彼の次女エミリー(フェリシティ・ジョーンズ)との結婚を持ちかけます。順風満帆のような日々でしたが、ダンプリルの長女で、女性の地位向上や貧しい人々の為に社会運動しているシャーロット(マギー・ギレンホール)の存在が、気になりだします。彼女は父の治療を、女性の不満を断片的に見ているだけだと、糾弾していました。

冒頭では、優雅で美しく着飾った紳士淑女の様子が出ます。階段の前に靴底をこそげるバーがありますが、あれは馬があちこち糞を落とすので、それを踏んづけた時に始末するものなのですねぇ。へぇ〜、あんなのがあったのかぁと、その落差にチラリと皮肉を感じます。

診療所での治療の様子がもうおかしくて。治療なんてものではなく、今で言う「性感マッサージ」のようなもんですよ。これを堂々と医師が治療と称して施術していたなんて。保険なんかないだろうし、治療を受けられるのはハイソなお金持ち女性ばかり。底辺の女性たちは体を売っている人も多かったはず。笑いながら自分の生息する階級によって、こんなにも女性の性に違いがあるのかと、考えてしまいます。

そして皮肉なもので、短期間に病院を転々としていたモーティマーは、医師として患者ときちんと向かい合った事がないので、女性たちに感謝される日々に充実感を覚えます。この辺も高い志を持つ彼であると知っているので、何だか切なくなります。

シャーロットは貧しい人々に勉強や寝食を提供する施設の所長です。豊かな医師令嬢としては、当時としては異端だったでしょう。愛らしく従順な妹エミリーは、父親から「天使」と呼ばれますが、これは自分に都合の良い娘だからでしょうね。もちろん悪意があるわけではなく、当時の価値観では、それが相互の愛情と思われていたのでしょう。当然ダリンプル医師の悩みの種は、いう事を聞かないシャーロットです。しかし医師に悩みを告げるハイソ女性たちと比較して、彼女は生き生き元気いっぱいなのです。

私がとても印象に残ったのは、モーティマーのせっかく医師令嬢に生まれて、今の貧しい生活は辛くないか?と言う問いに、笑顔いっぱいで、「全然。私が施しているのではなく、彼らからいっぱい(元気)を貰っているの」と言う台詞でした。彼女は人として、貧しい人と自分を対等だと思っているからこその、この言葉なのです。今の時代にも通じる尊い思いだと痛感しました。

治療に勤しみ過ぎたモーティマーは、商売道具の右手が使い物にならなくなり、あえなく診療所はお払い箱。エミリーとの婚約もなしとなります。その時のエミリーの様子もなぁ。反抗なく笑顔(少し寂しげだったけど)で、モーティマーを見送る様子に、残念な思いがいっぱいの私。女子は親の言いなりが幸せと信じられていた描写に、恐怖すら感じます。

で、登場するのが、モーティマーの親友にして発明マニアのエドモンド(ルパート・エヴェレット)。彼が開発したバイブレーターが大ヒット作となります。この様子が超ユーモラスに大真面目に描かれて、楽しいです。このバイブレーター今では大人のオモチャ扱いですが、当時は立派な健康器具だったそうで、へぇぇぇぇ!とびっくりです。

私が戦慄したのは、当時の気が強かったり、反体制的であったりする女性は、裁判にかけられて「病名・ヒステリー」と判定されると、そのヒステリーの根源であるとされる子宮が、強制的に摘出される事でした。そして判定するのは全て男性。私は「女は子宮でものを考える」と言う思考が大嫌いですが、その根底には、このような女性性への蹂躙があるのだと感じました。女の人も、この言葉が好きな人いますよねぇ。私は友だちになりたくないわ。

マギーは良い女優さんだと思っていましたが、今回は出色の存在感!シャーロットは気が強く、人としての未熟さも感じさせながら、スケールの大きな女性像を輝くように演じていました。ダンシーは時代から半歩進んだ思考を持つモーティマーを、小ぶりながらこちらも好演でした。フェリシティは愛らしいエミリーの善良な無知さと、自我に目覚めかける様子を素直に演じて、好感が持てます。そして私が大好きなエヴェレット!何か久しぶりで当たりな役を観た気がします。モーティマーのパトロンとして、気を使わせない大らかさと変人ぶりが、上手に共存していました。

はてさて、最後はどうなるのか?私が感激した人しての対等感が炸裂して、とても素敵なエンディングでした。女性の地位向上には、良識ある男性の存在は欠かせぬものですよね。男性にも観やすく作っており、賢い作りだと感じました。

エンディングでは、電動バイブレーターの歴史が映され、開発当時から現在までの様々な器具が映されます。ワタクシ、幸か不幸か、この手のモノは手にした事がございませんので、とても興味深く観ました(笑)。冒頭で「この作品は史実を元に作った作品です」の直後、ダメ押しみたいに「事実です」と出るのですね。愛らしくユーモラスな小品を装いながら、ズシンと深く思考や想起もできる作品です。ウェクスラー監督の次作に、とても期待します。


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