ケイケイの映画日記
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2013年05月11日(土) 「セデック・バレ 第一部 太陽旗」




ぶっ飛びました。観ながら血湧き肉踊るとは、これなのだと感じます。とにかく躍動感が素晴らしい!日本が台湾を統治していた時代での、先住民セデック族による抗日暴動・霧社事件を描いています。抗日の時代を描いていますが、私は決して「反日」を訴える作品ではなく、滅んでゆく「野蛮の誇り」を描いた作品だと、強く感じました。監督は台湾のウェイ・ダーション。美術監督に日本から種田陽平、アクション監督に韓国からヤン・ギルヨン、制作に香港からジョン・ウーを招き、アジア大結集の作品です。一部を観た限りでは、掛け値なしの傑作です。

1895年、日本が日清戦争に勝利し、台湾を統治するようになり、その力は山岳地帯に暮らす狩猟民族セデック族の集落にまで及び、彼らの平穏な暮らしも奪われて行きます。それから35年、セデックの一集落の頭目モーナ・ルダオ(リン・チンタイ)は、自分の集落の者と日本人警官が衝突した事を契機に、セデック族を思い、集落の者たちを耐え忍ばせていた感情を爆発。暴動を指揮します。

冒頭は険しい渓谷の中での、目を見張るアクションが繰り広げられます。セデック族は6つの社(集落)に分かれて暮らしており、それぞれに頭目がおり反目しあっているようです。首狩りが習わしであり、敵の首を狩った者が大人として見なされ、顔に刺青が許されます。冒頭ではそれを端的に見せてくれます。以降アクション場面では、あんたたち、獣ですか?と言うくらい、セデックの若者たちは身体能力抜群で、かつ獰猛な精悍さを撒き散らしています。おまけにみんな眼光鋭く超イケメン。プロの俳優は少なく、ほとんどが素人で、原住民の血を引く若者だちと聞くと、ここでも「血」と言うものを感じます。

これが若き日のモーナを演じるダーチン。彼もズブの素人ですが、出色の存在感で、前半を引っ張ります。セデック族は裸足が当たり前だったので、険しい渓谷での撮影は生傷が絶えず、発熱まで及ぶ怪我もあったとか。その甲斐あって、映画は最後まで熱気に包まれています。

後半では一転、抑圧されるセデック族が描かれ、日本からも安藤政信、木村祐一らが警官として出演。村は切り開かれ、郵便局や学校など整備が整い、文明の足音が聞こえるまでになっています。しかその恩恵を受けるのは、その地に住む多くの日本人だけであり、セデック族はわずかばかりの賃金で過酷な仕事をさせられ、日本人との格差は広がるばかり。セデック族の文化は踏みにじられ、差別や性的・暴力的な虐待も日常茶飯事でした。

屈強なセデックの若者たちが、何故もっと早くに反乱を起こさないのかと不思議でしたが、そこには類まれな求心力を誇るモーナの存在が。彼ら頭目は本土に招かれ、如何に日本が武力や文明に長けているかを見せつけられています。集落の存続を考えれば、耐えるしかないと、賢ければ賢いほど思うでしょう。壮年のモーナ役のリン・チンタイは、本職は何と現役の牧師さん!強面のいかつい容姿から、腕力と聡明さを兼ね備える人物としてのオーラが出まくりです。

私が反日映画ではないと感じたのは、蛮行を働く日本人警官や教師は、みんな貧相で卑屈な印象を受け、正に虎の威を借りる狐のように感じました。安藤政信演じる警官は、他の警官と違い現地語を話し、温厚で誠実な印象を受け、暴力で弾圧しようとしません。モーナにも「本土の日本人は、ここでの日本人のように卑劣ではない」と語らせます。これは自分の力でもないのに、高慢・高圧になる権力者側の人間の性を描いていたのかと思います。白人VS黒人、インディアンVS白人や、諸外国でも皆そうだったと思います。私は公平に描いていると思いました。その証拠に、暴動時の残虐性は、セデック族の方が数段上なのです。その前に耐え忍ぶ彼らを見せているので、確かに胸はすきますがね。

この戦いはセデックの敗北に終わると、観る者は知っています。彼らの伝統も首狩りと言う野蛮なもので、時代の波と共にいずれは滅んでいくのは、今の感覚では承知出来るものです。しかし刺青の意味、勇者としての心得、集落を守る強い気概など、彼らの文化を丹念に描いているので、モーナの「文明に屈服するのか、野蛮の誇りを持ち続けるのか」と言うセリフが、民族の誇りの意味を理解させ、深く心に刻まれるのです。

その他、日本人に帰化したセデック族の青年警官たちの葛藤、他の集落の頭目たちの、それぞれの集落を守る考えの違いを映し出し、単に統治する日本人とセデック族の戦いにせず、ドラマに厚みを与えています。

撮影はジャングルのような渓谷や滝も多く、荘厳な雰囲気を醸し出しています。モーナと亡くなった幻の父親との輪唱場面が、幻想的で力強く、かつ非常に美しく、もう一度聞きたいです。

一部は霧社での暴動で終わりました。後半は安藤政信の良心ある警官がキーパーソンになると予想していますが、どうかな?二部は14日に観る予定です。あぁ早く観たい観たい!この作品は反日映画とされ、公開が危惧されていたそうですが、毎年行われている大阪でのアジアン映画祭では、観客賞を取ったとか。内容を誤解せず公開に尽力して下さった方々に、心より敬意を表したいです。日本人の民度の高さをも表す劇場公開です。


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