ケイケイの映画日記
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2013年02月16日(土) 「ムーンライズ・キングダム」




12歳の子供の恋の逃避行がお話の軸ですが、それ以外にも、真面目な大人たちの何気ない描写に、人生の機微を感じさせる秀作です。とっても愛せる作品。監督はウェス・アンダーソン。

1965年、アメリカのニューグランド沖に浮かぶ小さな島。所属するボーイスカウトのキャンプに訪れていたサム(ジャレット・ギルマン)と、弁護士の両親(ビル・マーレーとフランシス・マクドーマンド)を持つ島に住む少女スージー(カーラ・ヘイワード)は、一年前より文通を続け愛情を深め、二人で駆け落ちします。慌てたボーイスカウトウォード隊長(エドワード・ノートン)は、島のシャープ警部(ブルース・ウィリス)に捜索を依頼。スージーの両親と共に、島ぐるみで二人を探します。

冒頭から何なんだ、この家はと言う感じで、横の空間ばかり映す家の中が楽しく、キッチュでボップな雰囲気がいっぱい。田舎とは言え、時代が60年代のアメリカなもんで、私が小さい頃テレビドラマでいっぱい観ていた、憧れのアメリカのおうちが再現されています。


サムは両親が事故死して養子に出されるものの、里親とは上手くいかず、家では浮いた状態。キャンプが終わっても帰ってくるなと言われる始末。一方スージーも、一風変わった子で、親は扱いに苦慮しています。お互い家庭で居場所のない二人。そして友達もいない。誰にもわかってもらえない自分を受け入れてくれた異性に対して、「結婚」の二文字が浮かぶのは当然で、愛→即結婚に結びつく様子は、12歳ならではの純粋さ。これが後二つ三つ年上だと、結婚は現実的に無理だとわかりますから。

年齢より幼い風貌のサムは、だけどとてもジェントルマンで、常にスージーを守ろうとします(弱いけど)。待ち合わせ場所に向かう途中、スージーに花束なんか作っちゃって、グッときちゃった。スージーはちょっと大人びた子で、可愛い容姿と年齢に似つかわしくないメイク姿。これゴスっ娘@60年代仕様かしら?このメイクはとても雄弁に彼女の孤独を物語ります。

追跡劇がゆるゆるで楽しいなぁ〜と思っていたら、いきなり流血騒ぎが出てきてびっくり。でもびっくりするけど、何故か笑える。多分サムもスージーも、こう言う事をしでかして、現代だと時間をかけてカウンセリングだと思うんですね。でも昔なんで、福祉局の人(ティルダ・スウィントン)は電気ショックを使うなんて、聞き捨てならない事を言う。もう昔は一か十しかなかったんですね。それを思うと、ドールハウスのような愛らしい風景に騙されてはいけない、「昔」の恐ろしさ・厳しさを感じます。

愛らしい子供たちの逃避行に隠れ見え隠れるする、大人たちの憂鬱の見せ方が秀逸。隊長は間が抜けて頼りないので、善良さが霞みまくり。警部は昔はひと方の人みたいですが、ずっと独身で今じゃスージーのママと不倫。もうこのまま人生を終わってもいいや感たっぷり。スージーが手を焼く子になったのは、多分両親の不仲が原因。抑圧的(には見えなかったけど)なパパに、ママは不満がいっぱいなのでしょう。表面を取り繕っていますが、不倫を心の拠り所としています。妻の浮気を知ってか知らずか、時々爆発してガス抜きするパパの姿が、おかしくも切ない。そしてもっと胸に染み入ったのが、二人のベッドでの会話で、妻から「子供たちの親として生活しましょう」的な言葉が発せられ、「それだけか?」と落胆&絶望気味なパパの様子を描くも、夫婦は変わろうとしないのです。

娘の駆け落ちの原因を多分解っているはずなのに、自分たちを変えず娘を変えようとしている。しかし娘を心から愛し心配しているのもわかる。このどうにもならない感、とても現実的です。それを否定ではなく、もの哀しい切なさに感じさせるところが、私はとても気に入りました。

でもそれじゃ〜、先が見えない!この愛し子たちを救わなきゃ!と言う訳で、監督から駆り出されたのが隊長と警部。一大事に別人の如くの活躍を見せる隊長、決死の場面での警部の申し出など、ホロホロさせてくれます。警部はこのまま終わろうと思っていた人生で、やり残した事が見つかったんじゃないかなぁ。あれはサムのためではなく、自分のためでもあるでしょう。これできっとスージーのママとは別れると思うので、間接的にあの夫婦も変わらずにはいられないでしょう。

腕のある役者が豪華絢爛に出ている割には、とても軽妙な風味です。だから余計に大人たちの悲哀が浮き彫りになるのでしょう。ノートンが半ズボン姿がとても似合っていてびっくり!。育ちの良さを感じさせるも、裏にきっと何かあるぞ〜的な役柄が多い彼ですが、今回徹頭徹尾おぼっちゃまの心意気を見せてくれて、とても楽しいです。アクション抜きのウィリスは、初老の男性の憂いをいい味出して演じていて、今後この手の作品にもっと出て欲しいと思います。

忘れちゃならない主役の二人は、今回デビューの新人だそうですが、絶対名前は覚えて置こうと思います。サムの死を覚悟した場面での、「僕と結婚してくれてありがとう」のセリフには、オバちゃん惚れました。スージーの役柄も、ほとんど無表情、笑顔なしで難しかったと思うけど、こちらにスージーの気持ちがとても良く届きました。

と色々書きましたが、美術やストーリー内容に演出と、この愛らしさは出色です。それだけでもOKの作品。だって可愛いは正義だもん。


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