ケイケイの映画日記
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2012年06月14日(木) 「サニー 永遠の仲間たち」

ご覧になった映画友達の方々の、熱〜い感想に惹かれての予定外の鑑賞です。これがびっくりするほど面白い!意外性もなく繰り広げられる内容は、鉄板と言って良い予想出来るものなのに、とにかく笑って泣いて、また笑っては泣きの連続に大変満足しました。でもよくよく思い返してみると、ちゃんと風刺もメッセージも込めているのですよね。監督はカン・ヒョンチョル。

優しい夫、高校生の娘を持つ専業主婦のナミ。恵まれた生活だとは自覚していても、物足らなさを感じる日々です。ある日入院する母を見舞ったナミは、「サニー」と名付けた高校の時の仲良しグループのリーダー、チュナが入院しているのを見つけます。チュナを見舞ったミナは、彼女からガンで後二ヶ月の命だと知り愕然とします。ナミが何かして欲しいことは?と問うと、「サニーのメンバーに会いたい」と答えるチュナ。ここから25年ぶりの再会を目指し、ミナの奮闘が始まります。

冒頭、大都会ソウルでも裕福な暮らしだとわかるナミの日常が映ります。娘は思春期で、ちょっと扱いづらそうですが、夫は仕事が忙しくミナの母の見舞いにいけないのでと、代わりにバッグを買うよう妻にお金を渡します。普通に良い家庭ですが、どこか居心地が悪そうなナミ。

チュナは特別室に入院中。もう退院出来ない事を思えば、膨大な入院費が掛かるはずです。相当出世した模様。しかも独身で他に親兄弟の存在も見えない。出世した後知り合った人と違い、バカもやった、恥ずかしい事も知っている昔の親友ナミの出現は、孤独に死と向かい合っていたチュナにとって、どんなに救いになった事でしょう。

まずは自分たちの母校に向かうナミ。鮮やかに当時の回想と切り替わる場面は澱みなく、ここから現在と昔が交互に描かれます。手法は手際よく、どれもこれも鮮やかです。ナミが田舎からソウルにやってきた転校生だった事、対立する少女グループがいたこと。家庭が綿密に描かれるのは主人公のナミだけですが、他のメンバーのキャラも立っており、親の職業なども簡単に語られるのは、25年後に繋ぐためでしょう。親は教師だったり、やり手の裕福な美容師だったり、歯科医だったり。しかし現在の彼女たちの境遇は、その生い立ちからは想像し難いものです。平凡な家庭から裕福な主婦へとなったナミの例もあれば、その逆で転落の一途を辿った者、家庭にがんじがらめの者まで多様です。独り者のチュナしかり。親の庇護の元、ある意味横一線だった学生時代と違い、親元を巣立った後が本当の人生が始まるのだと感じます。特に女の子は、夫選びが人生を大きく左右するのは、これは日本も韓国も同じです。

当時の風俗や出来事なども描いています。当時政治的に過度期だった韓国で起こった学生運動。暴動場面に嘴の青い少女たちの乱闘場面をユーモラスに挿入したのも、女子高生たちには、知ったこっちゃないを表現しているのでしょう。あの当時を描くと、どうしても暗く重たくなりがちですが、こんな楽しくお気楽な青春も実際はあったのだと、観客に思い出して欲しいのだと思います。

女子高生ですから、もちろん恋愛もあり。サニーはどうも硬派な女子高生たちのようで、煙草はOK、でもシンナーは御法度、恋愛の扱いも仄かなものです。当時も発展家の女子高生はいたでしょうが、やはり初恋の扱いは、この方が甘酸っぱい。サニーたち憧れの君が、当時の感じをよく表現した好青年だったのも良かったです。この子、名前はわからないのですが、とてもノーブルなハンサム君です。チャン・グンソクより10倍は良いと思うので、これから出演増えればいいなぁ。

どれもこれも秀逸なエピソードなのですが、気になる箇所が二つ。サニーたちが、イジメを受けるナミの娘を救う場面ですが、救急車送りの者を出して、あの仕舞い方は如何なものか?ナミの夫はエリートだし、学校関係もあれでは済まないのでは?もう少し練って欲しかったです。これ以上に気になったのが、上記のシンナーのせいでサニーから除外された少女の事。演じた少女の好演もあって、この子の背景やその後を知りたく思いました。あのまま救済がないのは、ちょっと冷たくはないか?ナミがデッサンを手渡すシーンは、私は要らないと思ったので、そこはぶいて、この子の行く末を描いて欲しかったです。

この作品が韓国で大きな観客動員を生んだのは、女性開放の祈りが込められているからでしょう。顔を整形しただけではなく、性格まで猫を被って変えたメンバーのジニは、ひとえに玉の輿に乗りたかったからでしょうね。恵まれすぎていると感じるナミは、夫の甲斐性に感謝を通り越して引け目すら感じているようです。家庭を守らなければ申し訳ない、そのため長い間、自分の人生の主役は夫と子供になっています。

夫の浮気に、すったもんだしたあげく目をつぶるジニに、メンバーの一人チュンミは「韓国の女は結局は男に従うんだよ」と言い、独身のチュナの葬儀は「独身だと寂しいもんだわ。だからあんた、離婚しないの?」と、ジニに言います。並みの男以上の出世をしたチュナは、人に言われぬ苦労の連続だったはず。しかしチュナの死を心から哀しむ親友とて、無意識にこんな言葉を吐くのです。これが韓国の現状なのでしょう。

それを鮮やかに救ったのがチュナの遺言です。サニーのリーダーだった彼女は、友情を永遠に誓い、メンバーの苦境には駆けつけると約束していました。頑張っても頑張っても、陰ではあれこれ言われたろうチュナの人生の、私は一世一代の女の意地が、あの遺言だったのではと思います。

同じような筋書きのドラマの連続にブーイングの入院中のお婆ちゃんたちや、敵対グループのリーダーに言わせる言葉などに表現されるように、この作品は確信犯的にベタな展開を狙っているのでしょう。しかし挿入される数々のエピソードには、全てメッセージや当時の風刺が入っているのは、丁寧で知的な演出だと思いました。なので本当に上記二つの疑問が惜しい!

ラストのオバサンたちのサニーをBGMに踊る姿は、とにかく号泣します。オバサンだって踊っていいのよ。自分の人生の主役は自分なんだから。葬儀の前の、ナミが出張の夫を空港まで出迎えるシーンが好きです。夫を労い娘に父親を立てる事を教えています。今まで自信のなかったナミが、夫に対して引け目ではなく感謝の心を表しています。同じ事をしているようで、彼女の気持ちの中で対等になったのですね。これもチュナからの贈物だと思います。昔を懐かしむのは、今を元気に生きるため。そうでなきゃ。オバサンだって大志を抱け。オジサンもね。


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