ケイケイの映画日記
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2012年06月07日(木) 「私が、生きる肌」




帰ってきたド変態。もちろん今作の監督ペドロ・アルモドバルの事です。近年巨匠にお成りやそばして、円熟味たっぷりの貫禄の演出で、コンスタントに秀作を送り出す監督。しかし大昔の変態でヘンテコで、でも純粋で、人間って滑稽だけど愛しいわと言う作品群を知る私には、少々寂しく物足りなさもありました。が!今作に置かれましては、昔のパワーが蘇っております。今回アントニオ・バンデラスとは20年ぶりのコラボだそうで、そう言えば私はその前作「アタメ」が一番好きなアルモドバル作品です。バンちゃんが眠っていた監督の変態を起こしたのよね、うんうん。人を選ぶ作品ですが、私は大満足でした。

スペインの形成外科医ロベル(アントニオ・バンデラス)。人工皮膚に関して権威ある医師です。今は独身の彼ですが、妻も娘も自殺するという哀しい過去があり、大邸宅に数人の使用人と暮らしています。その一人、メイド長のマリリア(マリサ・パレデス)は、子供の時からロベルの世話をしています。しかしこの邸宅には秘密があって、全身の肌を保護する風変わりな衣服を着せられたベラ(エラナ・アナヤ)と言う美女が監禁されていました。

何も書けません。今回ね、筋に関しては何を書いてもネタバレになり、ミステリー(なのか?)としての魅力が損なわれるのでね、その手の感想はなしです。

要するにバンちゃん演じるロベルはね、「アホ」だと私は思うんです。妻にはあんな事され、娘には〇〇魔と間違われ、それでも尚赦し愛して止まない。まぁ娘に関してはアホと言うより鈍感ですが、妻に関しては、それでも純粋過ぎてイタい愛を注ぐわけでね。多分このイタさ、妻に取ったら日々気持ち悪かったんでしょうね。それがあんな事した原因なんでしょう。これは後半の展開で立証されわけで。

アホで鈍感なのは、マリリアとの関係にも及びます。普通わかるで、あれくらい使用人からズケズケ物を言われたら。まぁズケズケ言う方も言う方なんですが、ご主人様は威厳はあるのにマリリアを嗜めることもせず。しかし大らかな人にも見えん。でもロベルがものすごーく、生真面目な人だとはわかります。そして純粋。監禁しているベラは大層美しく、監禁している方の彼がベラの虜になり、心は支配されているのがわかります。そりゃ自己満足の結晶ですもの。では何故普通の恋人として接しないのか?

ジャ〜ン!ここに変態の変態たる由縁あり。まぁロベルにしたら、一石二鳥なわけですね。そして二つの内の一つ、一途な純愛に比重が置かれるのですね。しかし純愛って・・・。いやいや大層哀しいお話なのですが、考えれば考えるほど、頭おかし〜くなるのです。しかしこの感覚こそ、私が求めていたアルモドバルでありまして。年月を経て蘇った変態は、巨匠になった分以前より格調高く上品で、大真面目にやればやるほど、爆笑と哀しさを誘うという、比類なき力強さに満ちています(いやほんまに)。しかしこんな脚本、よくも思い付くよなぁ。取りあえずコレ、コメディではなく真面目なドラマですから。真面目にきちんと作っているのがすごい!

バンちゃんはもう50歳回りましたが、かつてのマチズモ的魅力から、上手く油の抜けた熟年紳士にシフト。バンちゃんてね、私生活も良い人なんですよ。私は彼の嫁(メラニー・グリフィス)の話題が出てくる度に、浮気もせず支えて、なんていい人かしらと思っています。そんな彼ですから、ロベルの心情は深く理解出来たのかも?

エレナは大変美しく、惜しげなくスリムな肢体も披露。画像の服、とても官能的かつ上品で、ちゃんと胸のところなど透けないように作ってあります。上品な悪趣味テイストのデザインはジャン・ポール・ゴルチエ。冒頭のヨガのシーンなんか、裸より官能的です。そんな上品な官能的魅力をふりまく彼女、怒りに任せ服をビリビリに引き裂くシーンがあり、そこは大股で別人なんですね。う〜ん、芸が細かいと感心しました(観れば意味がわかる)。

そして数々の作品で、「僕はマザコンよ」を表明している監督、今回も片時も息子を忘れないお母さん達が登場。子供に美味しい食事を作る、それがお母さんだと言いたいんですね。きっと監督のお母さんは料理自慢なのでしょう。ラストはその気持ちに報いるように描いています。まっ、この後色々あるでしょうが。

相変わらず美術は凝っており、色彩も綺麗。それも見どころです。書けるのはこれくらい。とにかく情報を入れないで観るのがベストの作品です。還暦過ぎて、ますますのご活躍を祈っていますね、監督。


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