ケイケイの映画日記
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2012年06月03日(日) 「ミッドナイト・イン・パリ」




ぐずぐずしていたら、観てから一週間近く経ってしまいました。本年度アカデミー賞脚本賞受賞作にして、アメリカでウディ・アレン作品一番のヒットとなった作品。ウディの作品はそれほど観ているわけじゃないですが、思い起こせば嫌いな作品はなかったな。この作品は彼の集大成的な作品ではなく、メッセージがわかり易い作品で、とにかく楽しい作品です。

脚本家のギル(オーウェン・ウィルソン)は、婚約者のイネズ(レイチェル・マクアダムス)の両親が仕事でパリに来ているのに便乗して、二人して旅行中。価値観の違いからギクシャクする二人の間に、イネズの憧れの君ポール(マイケル・シーン)の登場で、ますます気鬱なギル。ある日真夜中のパリをギルがさ迷っていると、何と1920年代のパリにタイムトリップしてしまいます。

冒頭、朝な夕なのパリの情景が映し出されます。晴天だったり雨だったり、その時々に活動的だったり憂いがあったりの風景が楽しい。私は出不精で,映画館以外はあまり出歩かないのですが、それは映画館で色んな場所を毎週のように巡るからなんだと、改めて再認識させてもらいました。

真っ暗なスクリーンから二人の会話が流れますが、まるで水と油。ロマンチストで人付き合いが苦手なギルと、現実的で社交的なイネズ。これ以降もロマンチックは風景などまるでない二人は、まるで気弱な亭主を尻に敷く女房のようです。でも恋とはこうしたものよのぉ。何故だか自分の理想とはかけ離れた相手を愛してしまうものです。

自分を否定され、鬱々していた時に飛び込んできた昔のパリの情景は、ギルが愛して止まない時代です。ヘミングウェイやフイッツジェラルド夫婦、ピカソ、ゴーギャン、ゴヤ、ダリ。夢が目の前に現れたギルの生き生きした様子が楽しい。現代では存在感の希薄な彼が、まるで水を得た魚のようです。憧れの彼らとの交流が楽しく描かれます。

そこで美しいアドリアナ(マリオン・コティヤール)と出会うギル。自分に好意を示してくれる彼女に夢中になるギル。しかし彼にとってアドリアナは「夢の女」だと痛烈に感じさせる出来事が起きます。「昔は良かった」と過去にすがったり、憧れたりしても、それは詮無い事。結局人は、今を精一杯生きる事が肝要なのだ・・・が、結論として描かれます。

こう書くと、な〜んだ、それだけかと思うでしょ?でもここに持ってくるまでが、本当に楽しく描かれているので飽きません。ウディの化身のように描かれる、頼りなく気弱なギルは愛すべき人です。演じるオーウェンは、たくさん出演作があるのに、今までイマイチ私は印象に残っていませんでした。今回は飄々とコミカルに演じていましたが、観客に好感を持って迎えられたのは、ひとえに彼の好演あってこそだと思います。20年代の再現も華やかです。

そして何といっても女性陣がチャーミング!マクアダムスは快活で気の強いイネズを彼女の持ち味の延長で演じています。ファッションが素敵で、たくさんお着替えしていますが、ディナー、買い物、美術館とTPOに応じた服装は、皆上品で彼女にとても似合っていました。母親と買い物に行く時、背の高い母親役の人と同じくスラッと見えるように、彼女の靴の方がヒールが高いのを見つけました。私はすごーく監督の愛情を感じたんだけどなぁ。多分今回のアレンのいち押しはレイチェルですよ。

マリオンもクラシックな美女がお似合いで、当時あんなに足を見せる服があったのかしら?と、そこはちと疑問ですが、今でも参考になりそうなファッションだったので良しとしよう。そして「現実の女」ガブリエル役のレア・セドゥーのパリジェンヌ姿もセンス良し。美しくない中年女性に描かれることが多いキャシー・ベイツのサロンの女主人ぶりは、貫禄と懐の広さを感じさせて良かったし、さりげなく女性を美しく敬意を持って描くところは、齢80歳になっても変わらずで、そこも嬉しく感じ入りました。

唯一サルコジ嫁のカーラ・ブルーニだけは、イマイチ魅力が足りなかったかな?アレンの好みじゃなかったのかしら?その他時間はいつものアレンタイムの95分。私は映画はこのくらいの時間が絶対好み。無駄がなく観ている間、ずっと楽しめる作品です。


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