ケイケイの映画日記
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2012年02月04日(土) 「J・エドガー」

面白かった!最初は全然期待していませんでした。当方FBIの話なんぞ、あんまり興味ないし、第一知識が乏しい。あのエリオット・ネスを、デ・パルマの「アンタッチャブル」を観るまで、FBIのビッグネームだと信じておったくらいですから。イーストウッドが監督しているし、しゃ〜ないなぁ〜くらいの気持ちでしたが、これがあなた、通俗的(←この場合良い意味)でわかり易い人間ドラマでした。アメリカの社会史のお勉強にもなります。

初代FBI長官J・エドガー・フ−ヴァー(レオナルド・ディカプリオ)の生涯を描いています。人生の終盤に差し掛かったでフーパーは口述で自分の伝記を作らせています。その時の回想と現在が交互に挿入される構成です。

1919年、司法局に勤務していたフーヴァーは、若くして初代FBIの長官に任命されます。その後の数々の事件やエピソードを通じて、フーヴァーの人格や人生を浮き彫りにしています。事件の数々なんですが、リンドバーグの赤ちゃんの誘拐事件、レッドパージ、ルーズベルトのスキャンダル、キング牧師のノーベル平和賞についてなど。捜査されるギャングの方は、有名なアル・カポネやデリンジャー、政治家はケネディ家やニクソン他、「アメリカ史」として少しは知っていたり記憶にある人が出てきます。それらのエピソードが虚実綯交ぜで描かれ、これが上手く出来た再現ドラマのようで、興味津々で観られました。

フーパーについては全く名前も知りませんでした。。指紋を元にした捜査や犯行現場の確保、プロファイリングなど、現代的な捜査の元を築いたのも彼でした。しかし強引で独裁的、差別主義者で逮捕のためには手段を選びません。そして野心家で自己顕示欲が非常に強く、当時の政治家や時の大統領まで、当時禁止されていた盗聴を使い、自分の利益のため脅迫までします。

もう人格的にはケチョンケチョン。良いとこなて、まるでありません。しかし不思議と嫌悪感が湧かないのです。もちろん愛すべき人とか、憎めない人なのではなく、観ていて彼に対して理解と同情が湧いてきます。それはフーヴァーのプライバシーにも焦点を当てているからでしょう。

溺愛される母(ジュディ・デンチ)から、「あなたはアメリカで一番の人になるのよ」と、洗脳気味に言われた事への強迫観念。「一番じゃないとダメ!」なのですね。そして重大な個性として同性愛者だったことです。私は全然知らなかったので、生涯公私共フーヴァーのパートナーとなるトルソン(アーミー・ハマー)登場シーンが、あまりにテカテカで、お花や星が降り注いでいるかの印象を持ったので、?????だったのですが、のちに仕事の片腕となるようフーヴァーが要請した際のトルソンの返答が、「お願いがある。ずっと昼食か夕食を共にしてくれ」と言うシーンで確信。いやすっごいですね御大、これくらいでわからせるなんて。

母の呪縛、当時は許されない性癖に、フーヴァー自身ものすごく葛藤があったと思います。特にゲイであることをひた隠しにするため、超タカ派の愛国者で、人から見上げられる存在で有り続けることで、その心を相殺していたのだと思います。実際はどうか知りませんが、偽装結婚を考えていたり、一度もクラウドに愛の言葉を言えなかったりで、彼らの間柄はプラトニックだと映画では思わせます。その辺がまた、切なくってね〜さすが御大。それ以外でも女装癖もあったと噂されるフーヴァーを表現する場面が、これがまた泣けるのです。さすが(以下省略)。こういうイーストウッドの「趣味的部分」の陰影が、堅くなりがちな社会派作品を、柔らかく娯楽色豊かに見せていたと思いました。

フーヴァーは母とクラウド以外に、秘書として終生彼に忠実だったヘレン(ナオミ・ワッツ)がいます。フーヴァーを影のように支える姿は、クラウド以上に「夫婦」でした。自分は信じられる人間がいない、と嘆き続けてきたフーヴァーですが、母、クラウド、ヘレンと、人生で三人もいたとは、私は恵まれた人だと思います。痛々しい孤独の中にいる彼だけを描いていたら、彼への理解も生まれ難かったと思います。

現在は当時と比べたら、アメリカも日本も信じられないくらい自由でリベラル、個人が尊重されています。しかし、アメリカの右翼化が懸念される中、もう一度近代史をおさらいしてみましょう、的な意味合いで作られたのかな?と、個人的には思いました。そこにフーヴァーの公的な功績も描き、理解出来るように描いたのは、監督の公平な視線だったと感じました。

レオは相変わらず上手いです。本当に安定しています。「グレート・ギャツビー」のリメイクが楽しみです(私的にはキャリー・マリガン嬢の相手役には?)。ハマーは純情可憐な雰囲気が素敵でした(褒めてます)。クラシック映画、いけそうですね。デンチおばさんは相変わらず怖くて上手いし、ワッツは上手く存在感を消しながら、返って存在の大きさを浮き彫りにさせると言う高等演技で、やっぱり安定感抜群でした。

職場のお若い常勤さんに、子供の頃新聞やニュースで初めて知った現在のアメリカ大統領は誰だったか?と尋ねたら、「クリントンですね」とのお答えに、まぁついこの前じゃございませんか?と、ワタクシ苦笑い。お若い方には馴染みのないお話でしょうから、少し下調べして観ても良いかも?ちなみに私は小学生の頃でニクソンです。この作品でもちらっと名前が出てきます。お若い方は下調べしてから。そうでない方は、何も知らなくても充分楽しめますので、安心してご覧下さい。


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