ケイケイの映画日記
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2011年12月23日(金) 「リアル・スティール」




うわ〜、もう素晴らしい!これこそ私の大好きなハリウッド映画です!ろくでないしのダメ親父が、自分の息子によって再生される話なんて、いつの時代でも作られているけど、面白くて感動出来る作品なら、平凡な内容だって毎年観たいわ。真冬に体がポカポカ熱くなる作品です。監督はショーン・レヴィ。

2020年のアメリカ。人間がロボットを捜査して格闘技をする時代、元ボクサーのチャーリー(ヒュー・ジャックマン)もその一人。現在使用中のロボットが試合で破壊され、次のロボットを買うにも金銭的に窮している時、別れた妻が急死したため、赤ちゃんの時以来会っていなかった11歳の息子マックス(ダコタ・ゴヨ)と、ひと夏過ごす事になります。試合のため旅に出るチャーリーは、マックスをジムの経営者ベイリー(エヴァンジェリー・リリー)にあずけようとしますが、ロボット格闘技が好きなマックスは強引についてきます。マックスはある廃棄場所で、ポンコツの旧型ロボットを見つけます。名前は「ATOM」。二人はこのロボットを使って、試合の旅に出ることにします。

試合では惨敗、同業者の借金取りの追われ、人生どん底で四面楚歌のチャーリー。別れたと言えば聞こえは良いですが、要するに出産直後の妻子を捨てたのです。マックスも引き取りたくて引き取った訳ではなく、元妻の姉デブラ(ホープ・デイヴィス)に親権を譲る際、デブラの裕福な夫を半ば揺するよにして、お金をせしめるためです。愛情なんてからっきしの本当のどうしようもない男。

しかしこの設定は良かった。誰も育てる人がおらず、親戚をたらい回しだったら、マックスが可哀そう過ぎです。実の親父はろくでなしですが、叔母とその夫は善き人たちで本当にマックスを愛しています。そしてそのろくでなしを見栄えが良く底辺でも品の良いジャックマンが演じる事によって、本当はこんな人じゃないのよと、観客も思えます。

気が強くて頑固、一発勝負で大儲けしたいチャーリー。最初こそ父親に「コツコツ稼いで、こことおさらばしようよ」と言っていた賢いマックスですが、ATOMを引き連れての戦いからは、まるで自分の親父とそっくりで、とっても微笑ましい。離れていてもやっぱり親子を表現してるのでしょう。

ATOMは旧型ですが、それ故自分の目にした物を真似る機能がついています。自分と同じ動作をするATOMに、父親と打ち解けられないマックスが愛着を感じ、慈しむ様が切なくってね。ATOMを愛することで、自分の無聊を慰めているのです。

ATOMによって勝つと言う同じ目標を持った事で、急接近する二人。この辺の展開は鉄板なんですが、観ていて気持ちがとても良いです。捻りなんて必要なし。ダメ親父も颯爽としてきて、真っ当に。息子の方が口が立つし度胸があるしで、どちらが親なんだかわからんよと苦笑していたら、チャーリーはいい加減に生きていた時のツケを、払わされることになります。息子も危険な目に合わせたことで、マックスに取って何が一番幸せなのか?と、初めて息子の身になって自問します。

チャーリーの人としての変貌、父親としての成長は、息子を世話する、一緒に暮らして初めて芽生えたものです。ここに血だけではない、親子の本質があります。妻子を捨てたことは卑怯で許し難い事ですが、これからちゃんとするなら、許してあげたくなります。

離れそうになる二人の絆をまた結んでくれたのもATOM。どの試合も熱くなりましたが、最強ロボットとの対戦は、私も思わず叫んで応援しそうになって、止めるのに必死。それで疲れちゃったくらい。それくらい臨場感たっぷりで、本当にこっちも熱くなりました。ATOMには人間の心を認知する機能は付いていません。しかし相手の目を見て反応する様子は、心があるように感じて、遠隔操作だけの無機質なロボットと違い、観客が応援するのに適していたし、チャーリーが元ボクサーと言う特性も活かせており、とても良い設定だと感じました。

出演者はダコタ・ゴヨ君が出色。向っ気は強いのだけど、ませたところのない素直なマックスをとても好演。父親と打ち解けたいのだけれど出来ないもどかしさも、上手く表現出来ていました。ATOMと一緒にダンスする入場シーンもクールで良かったし、これはもう一度観たいくらい。敵に塩を送るシーンの血管切れそうな絶叫も良かったなぁ。とにかく私は大好きになりました。オスカーの助演男優賞にノミネートされないかしら?

ヒュー・ジャックマンも素敵な上腕筋と胸板が生かされた役で、薄汚くなりがちな役どころを、綺麗にまとめていたと思います。もう一人好きだったのが、エヴァンジェリー・りりー。二人を見守る女性の役ですが、温かみがあり、健康的なセクシーさのある女性で、包容力のある優しさが素敵でした。控えめな存在感で、作品を支えていたと思います。

封切りは早めでしたが、お正月映画です。ファミリー映画として出色の出来なので、吹き替え版も用意して欲しかったな。そしたら小学校の低学年の子も観られるのに。マックスはきっとこれから、どんな境遇でも、チャーリーを父親として認めてくれるでしょう。いつの時代にだってダメな親はいるもんです。そういう親を持つと一生恨みたくなる。でも親を許すのは親のためじゃない、自分のためなの。自分の苦しさから解放されるためです。父と息子の二人の笑顔のラストに、そんなことを考えていました。


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