ケイケイの映画日記
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2011年12月05日(月) 「50/50 フィフティ・フィフティ」




タイトルはガンに侵された27歳の主人公の五年後生存率を表したもの。本作の脚本を書いたウィル・ライザーの実体験が元になっています。私の母もガンで亡くなっており、あぁこんなだったなぁと、悲痛や悲愴ばかりではないガン生活の悲喜交々を、思い出しました。監督はジョナサン・レヴィン。

27歳のラジオ局に勤めるアダム(ジョセフ・ゴードン・レヴィット)は、突然脊髄のガンだと告知されます。恋人のレイチェル(ブライズ・ダラス・ハワード)や母(アンジェリカ・ヒューストン)は、温かく励ましてはくれますが、腫れ物にさわるようです。唯一親友のカイル(セス・ローゲン)だけはいつものまま。主治医からセラピーを促されたカイルは、新米セラピスト・キャサリン(アナ・ケンドリクス)の元に通い始めます。

きちんと整理された家、清潔好き、免許は事故の確率が高いから持たない。アダムは良く言えば繊細で優しく、悪く言えば小心者で神経質。しかし決して他人に自分の主義を押し付けようとはせず、私は前者に見えました。

「僕は今まで通り恋人でいたいけど、君が今去っても仕方ない」と、ガンの事をレイチェルに話す姿も、素直で自然体です。でも今まで精神的にも生活面でもアダムに頼りきっていた彼女には、今後の事は荷が重いはず。それはレイチェル自身が一番知っていました。しかし一度愛した人です、今ここでどうして別れられる?傍目から観たら当たり前の気配りでも、彼女には懸命の献身であったでしょう。あの成り行きは、やはりガンのせいだと思います。

私が些かショックを受けたのは、何くれとなく息子の世話を焼きたがる母に対して、息子が過保護だと思い込んで鬱陶しがること。あれくらい当たり前ですよ。私ならあれ以上構うかも。そして認知症の夫を抱える母に、「お母さんは僕の世話よりお父さんを大切にして」と言うセリフが、個人的には非常に切なく響きます。母も二の句が告げられない。あぁこれが結婚せずとも、子供が親から自立したと言うことなんだと、正直涙が出ました。早く出て行けと息子たちを急かしている私ですが、どうも出ていけば出ていったで、せいせいするばかりじゃないみたいね。

唯一自然体で接するカイル。後述のセリフから、高校の時からの友人だとわかります。高校から職場まで一緒とは、よほど縁があるのですね。ナイーブなアダムに対し、豪放磊落な感じのカイル。まるで水と油のようですが、お互い自分にない相手の長所を尊重しあっているようです。

笑えたのは、「ガンがお前の売りだ!」と、カイルがアダムを連れ出しナンパに出かける事です。絶妙のタイミングで丸坊主の頭を出し、女性たちの気を惹きます。これも実際に監督が経験した事なんだとか。そうですよね、ガンだと言われちゃ、何とか励ましてあげなくちゃと、誰だって思いますから。しかし守備良くベッドに入っても、体調のせいで上手くいかない様子が、もどかしくて切ないです。

新米セラピストのキャサリンは、アダムが三人目の患者なので、最初は教科書丸写しの接し方です。がっかりするアダム。アメリカの医療は日本と違い、主治医はガンを、メンタル面は精神科医がと分業のようで、最初アダムに機械的に告知する主治医の姿に、とても違和感がありました。私の大好きだった「ER」でも、日本より分業は進んでいると思いましたが、あれほどじゃなかったな。主治医にはまだメンタル面のケアも、それなりに望まれていたはず。今はアメリカ全部の医療がそうなんでしょうか?

新米キャサリンより、老いた「抗がん剤仲間」の方が、ずっとアダムを癒やします。正に同病相哀れむ。これは介護する方もそうで、私も母に付き添っていたとき、他の部屋の身内の方とあれこれお話して、お互い励ましあったものでした。

キャサリンとアダムが急速に近づいたのも、お互い似通ったプライバシーを持ったから。これもわかるなぁ。その状況、立場になった者しかわからない事はありますから。自分だけじゃないが、どれほど気持ちの支えになるか、そういう経験は誰もがもつはずです。

ずっと自分を自制していたアダムが、感情を爆発させる手術前。告知されても実感は薄いのです。しかし心の底に黒く重い澱が常にあるのも事実。その相手がカイルです。無神経で無頓着に見えた彼が、本当はどんなに心配していたかがわかるシーンがさりげなくて良いです。月並みですが友情の麗しさを感じます。

ユーモラスに闘病の様子を描きながらも、要所に死を滲まなせながら、お話は水彩画の如く淡々と進みます。演出の強弱が上手く、何気ない励ましや母の涙、様々なアダムの感情が表現されると、本当に平凡な演出なのに、とても胸に染みます。これはあれですよ、名選手は何気なく難しい球を捕球するので、ファインプレーに思えないって言うでしょ?どんな手を掛けた演出よりも、素晴らしい効果がありました。

レヴィットはこれが必ず代表作になるはず。隣にいる好青年の日常を演じながら、彼の俳優としての才能を充分に発揮しています。ローゲンは実際にもライザーの友人だそうで、それほど気になる俳優じゃなかったですけど、とても好きになりました。アナは抜けてる新米キャリア女性をさせれば、天下一品です。ヒューストンは、彼女が演じたので、役柄以上に猛母に感じたのかな?ならキャスティングは大成功です。

アダムの50/50はどうなったのか?このコップには水が半分しかないと焦るより、まだ半分もあるのだと思う方が、ガンに打ち勝つ一つの意識なんだと思います。






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