ケイケイの映画日記
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2011年10月09日(日) 「猿の惑星・ジェネシス」




画像は「主役」のチンパンジー、シーザーです。CGですが、パフォーマンス・キャプチャーに「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラムや「キングコング」に出演している第一人者アンディー・サーキスを起用。観てください、この物憂げなシーザーの表情。サーキスの功労で、望んでもいないのに優秀なDNAを持たされたシーザーの葛藤に、とても共感が出来ます。他のこのシリーズ同様突飛な設定ですが、生きとし生けるものの幸せとは?とまで踏み込んで描いており、堂々とした王道の娯楽作となっています。監督はルパート・ワイアット。

製薬会社でアルツハイマーの新薬の研究をしている科学者ウィル(ジェームズ・フランコ)。新薬を投与したチンパンジーに、飛躍的な効果が見られます。早速上司に報告しプレゼンをしている最中に、そのチンパンジーが突然暴れ出し、警備員に射殺されます。そのため研究は台無しとなり、白紙に戻ります。しかし猿が暴れたのは妊娠していたためで、出産した母親は子供を守りたかったのです。仕方なくその赤ちゃん猿を家に連れて帰るウィル。家にはアルツハイマーを患う父(ジョン・リスゴー)がおり、ウィルはどうしても新薬開発を目指したいのです。数日だけのつもりが、猿に愛着の湧いたウィルと父は、チンパンジーにシーザー(アンディ・サーキス)と名付け、飼うことに。やがて新薬を投薬された母から生まれたシーザーは、驚異的な知能の発育と感情表現を見せ始めます。

設定としてはシリーズのビギニング的な扱いです。元作及びティム・バートン版の猿は、全て人間のメイキャップでしたが、今作は完全CGです。とにかく動きが滑らか克つ俊敏で、実写から全く浮いていません。上にも書きましたが、サーキスの素晴らいし演技で表現される、苦悩や葛藤、怒り喜び絶望、その表情や仕草をチンパンジーであるシーザーのものとしてスクリーンに表しています。

動物実験の様子は居た堪れない気持ちにさせます。よく動物愛護団体が、新薬開発の動物実験は虐待だと抗議していますが、その気持ちも理解出来る描写です。しかしウィルは決して功名心からではなく、父のためという思いがひしひし伝わるので、仕方ないかと言う気分に。それこそ人間の傲慢さなのでしょう。金儲け主義のオーナーの存在がそう表しています。

高度な知能と感情を持ち、自分のアイデンティティに悩むシーザー。人間とは違う、しかし他の猿とも違う。ウィルや彼の父に対して純真な愛情を感じても、乗り越えられない一線も自覚しており、ある意味異形である哀しみに満ちています。

ある出来事のため、シーザーはウィルと引き離されて隔離施設に入ってしまいます。そこでは飼育員の虐待や、野生育ちの猿達の手痛い洗礼も受けます。屈辱と絶望にまみれるシーザーが、ウィルへの愛は残しながら、反乱を起こすのは納得です。ここからの猿たちの反乱の様子が圧巻。猿の身体能力に人間並みの頭脳が加わるのですから、人間なんかひとたまりもありません。人間VS猿の様子は、見慣れたアクションとは一味も二味も違いを見せ、新鮮でした。

ウィルの家は父と息子だけの家族でした。二人のシーザーへの思い入れの深さは、家庭に愛情という潤いを求めていたのでしょう。親思いの息子キャラが定着しつつあるフランコは、シーザーの父としての自負と、親に対する思いから、冷徹な科学者の側面も捨てきれないウィルの複雑なキャラを、猿たちに負けない存在感で演じていました。彼の育ちの良い雰囲気も生きていました。父は病気を得る前は、さぞ教養豊かな良い父親だったのでしょうね、だから息子にこんなに慕われるのでしょう。リスゴーの老いを味方に付けた誠実な演技もとても良かったです。

他にはドラコ@トム・フェルトン。「ハリポタ」卒業後の初仕事がこれかい?と言う汚れキャラ。確かに悪党づらに成長してしまったので、二枚目は無理かもですが、芝居は出来るので、味のある悪役に成長して欲しいと思いました。

ウィルの恋人の獣医キャロライン(フリーダ・ピント)は、「今の暮らしはシーザーのためにならない」と語ります。どんなに慈しまれようと、自分の本能や本来の居場所でない所で暮らすのは不幸なのです。文明や科学の発展のため、実験台になっていく動物たち。ウィルの「みんな僕が悪い」の言葉は、安易な文明批判や否定ではなく、人間はその労に報いる事を決して忘れちゃいけないなと感じさせます。ウィルの言葉は、父やシーザーへの、愛情ある執着から解き放たれた時に出た言葉で、とても重みがありました。

ラストがあんまり爽やかなんで、えぇぇ!せっかくここまで良かったのに台無しじゃないの!と思っていましたが、少しの間を置いて、ふんふんそう来るか、これなら納得の本当のラストが待っていました。映画史上に残る第一作のラストに、手堅く繋げていました。

シリーズを全く未見の方でも楽しめるように作ってあり、万人向けの優秀な娯楽作でした。


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