ケイケイの映画日記
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2011年10月03日(月) 「ゴースト・ライター」




久方のロマン・ポランスキー作品です。彼の最高傑作との評価はちと眉唾ですが、何かモヤモヤしたものが残り、そこも含めて上質のミステリーでした。

ゴーストライターの彼(ユアン・マクレガー)は、元英国首相のアダム・ラング(ピアース・ブロスナン)の自叙伝の執筆を依頼されます。前任者は自殺という曰く付きの仕事ゆえ、あまり気乗りはしないのですが、破格の金額を提示され引き受けます。早速ラングが滞在するアメリカの孤島に出向きます。折しもラングとアメリカ政府の癒着が浮かび上がり、出版社はタイムリーだと大乗り気で、執筆期間を二週間にしろと言ってきます。しかしそこには、様々な疑惑が彼を待っていました。

感想を書こうと思って、初めてユアンの役柄に名前がないのに気付きました。謎解きをしてくれる主役なんですから、存在感はちゃんとあるのに、最後まで気づきませんでした。そう言えばラングと初対面の時、「君は?」と問われて、「ゴーストです」と答えていました。ゴーストライターと言う「職業」を象徴した演出なんでしょう。

薄暗い空、荒涼とした風景、人気のない海。そしてモダンで趣味は良いけれど、冷たい空気が漂うラングの屋敷。ユアンに対して礼節は保っているけど、フレンドリーな気配はない人々。ラングを巡る秘書アメリア(キム・キャトラル)とラングの妻ルース(オリヴィア・ウィリアムズ)との確執。その中で社交的で陽気な雰囲気をただ一人醸し出すラング。この役はブレア元首相がモデルなんだそうです。なるほどなぁ、確かに人たらしな風情です。

最初は仕事熱心なため、そのうちに段々好奇心に駆られ、そしていつしか取り付かれたように疑惑の渦に自ら飛び込んでいくユアン。この辺よどみがなく、たくさんの人々のインタビューから原稿を起こして来た経験から、ラングのインタビューに疑念を抱き始めるなど、やはりゴーストライターと言う職業が生かされています。

不穏な空気と様々なエピソードが静かに交錯する中、ユアンは真相に近づいて行き、知らぬ間に観客も目が離せなくなります。そこまでの秘密を暴露するのに、現代社会を席巻するデジタル機器と、如何にも昔なアナクロリズムが交差して描かれていて、そのクラシックな部分が王道ミステリーの郷愁を誘い、重厚さを感じました。

ユアンは売れっ子スター俳優なのに、私は頬のほくろのせいか、何故かちょっと田舎くさい印象を持っています。主役を演じても突出したオーラを感じさせない持ち味が、今回の役柄にマッチ。重たい演技をされると、返って背景の暗さが埋没してしまうもんですが、上手に演じて観客をリードしてくれています。とても良かったです。

ブロスナンは私好みのスマートさで大好きな人です。荒唐無稽なボンドなら、彼の軽さは絶妙にマッチするんですが、元首相役なんて???と思っていましたが、軽薄手前の軽妙さとエレガントなハンサムぶりが、国民に絶大な人気だったカリスマ性を感じさせて意外な適役でした。裏に隠された顔を見え隠れさせるところも、ちゃんと演じています。

キム・キャトラルの仕事がマックスに出来るのに、隠せぬ色気が溢れている秘書ももちろん良かったし、ウィリアムズの、政治に熱心な硬質な人妻が見せる意外性のある女の部分や、それを超えた怖さも良かったです。とにかくキャスティングのアンサンブルがとても良かったです。

ラストは私は予想出来ませんでした。色々アメリカが絡むけど、取り敢えず悪者にしとこうと言う感じで、私はそれほど批判的には感じませんでした。新鮮味があると言う感じではありませんが、80代を迎えたポランスキー監督の年輪を感じさせる、芳醇でコクのあるミステリーだと思います。


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