ケイケイの映画日記
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2011年09月26日(月) 「スリーデイズ」

快作「この愛のために撃て」のフィリップ・カヴァイエ監督のデビュー作、「すべて彼女のために」のリメイク作。私は元作が未見で比べる事は出来ませんが、この作品は充分に楽しめました。監督はポール・ハギス。

大学教員のジョン(ラッセル・クロウ)は、妻ララ(エリザベス・バンクス)と一人息子ルークと共に、幸せな家庭を築いていました。しかし突然ララが上司殺害の容疑で逮捕され、幸せは一転。三年間ジョンはルークを男手で育てながら、ララの容疑を晴らすため、再審請求に奔走しています。しかし再審が棄却され有罪は確実に。絶望するララは自殺未遂を起こします。この一件で腹が決まったジョンは、ララを脱獄させようと決心します。

「この愛〜」でもそうでしたが、とにかく妻を一心に信ずる夫の姿に、まず心打たれます。仕事や子育てに忙しくても、妻への面会は欠かさず励ます事を忘れない。その事に対して感謝はしても、「冤罪」なので妻からの謝罪の言葉はありません。当たり前なんですが、冒頭に気が強くすぐに手の出るララの様子が描かれており、本当に誤認逮捕なのかどうなのか、曖昧に演出してあります。なので夫婦の諍いの後、「俺が無実だと信じているから、君は無実なんだ!」と言い切るジョンの姿が、とても頼もしいです。

日の当たらぬ裏道など歩いた事のないジョンが、妻のため闇の世界に足を踏み込む様子も、痛切な夫の愛情を感じます。男の中の男や、したたかな大物の役が多いラッソーに、こんな小市民的善人の役なんて似合うのかしら?と思っていましたが、さすがはオスカー受賞の演技派、何の問題もなくこなしています。特にゴロツキにやられた後の情けなくも辛さいっぱいの表情を、見事に「背中」で演じていたのは、すっかり感心してしまいました。

夫婦愛だけのお話かと思ったら、疎遠である父(ブライアン・デネヒー)とジョン、息子が幼い時収監されたので、なかなか心を紡げないララと息子の様子も挿入。当然の描写のようですが、夫婦がテーマの時、案外これらを行き届いて描くことは少なく、あるのとないのでは、鑑賞後のコクが断然違います。

特に印象に残ったのは、息子の決断を知った時の父、息子あっての夫婦・家族であると、決死の行動を見せるララのシーンです。親と言うものは、どんなに子供が心配でも、いずれは手を離さなくてはいけない時がやってきます。その反対に、絶対に掴んで離してはいけないときもあり。離す時は父親の判断、掴むときは母親の判断が正しいのかもなぁと、色々考えさせられました。私は特にジョンの父親が印象深く、「告発のとき」同様、ハギスは父と息子の描き方が秀逸だと思いました。元作はどうだったんでしょう?

逃亡シーンも元作はフランス映画で、どうだったんでしょうか?目まぐるしく変わるシーンに息も尽かせません。この辺は手練た演出で、さすがはハリウッド製だと感じます。韓国映画によくある警察の間抜け感もなく、手強い相手からすり抜けるのには、運も味方に付けることなんだと感じ、無理がありません。相反する夫婦の和解も、ボディランゲージで表現させるのは上手い演出だと感じました。

ただ逃亡シーンになると、ラッソー起用が裏目に感じます。誠実なれどひ弱かった夫が、妻を一心に愛する事で段々と逞しくなって行くように見せるはずが、元々逞しく見えちゃう。画像のような様子なので、アナタに付いて行けば大丈夫と感じてしまい、サスペンスフルなはずの展開に、妙な安心感が出てしまいます。やはり元作の主役ヴァンサン・ランドンのような、普通のオジサンが演じていた方が良かったかも知れません。

ララの方も、最初は美しいブロンドでしたが、収監中に地毛の赤毛と半々になり、やがて全て地毛に。歳月を感じさせる演出は良かったのに、必死の逃亡中に美しくウェーブがかかっている。何故?ギリアムの「12モンキーズ」も、黒髪のマデリン・ストウが逃亡のためにブロンドに染めるシーンがあったけど、ちゃんと描写があったし、時間もありました。今作では刻一刻と時が迫り、時間的に無理です。その他は無理のない展開だったので、非常に気になりました。

とは言え、夫婦愛+家族の絆、サスペンスと、荒唐無稽なはずの内容を、ハラハラドキドキ、感動までさせてしまうのですから、お見事でした。ララの真実もラストに描写、喉元に引っかかった骨も取ってくれます。是非元作も観たく思いました。


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