ケイケイの映画日記
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2011年07月22日(金) 「大鹿村騒動記」を観て思うこと

前回の日記に感想を書いた「大鹿村騒動記」の主演俳優、原田芳雄が亡くなりました。舞台挨拶を観て、その心意気に感動し初日に観ましたが、こんなに早く亡くなるなんて。私は原田芳雄は俳優として好きだけど、特別ファンではありません。そんな一介の映画好きが、亡くなったと聞いた時、とても胸に込み上げる事があったので、書いておこうと思います。

原田芳雄は、私が子供の頃から映画にテレビに売れっ子でした。数多くの映画主演作もありますが、私は未見もいっぱいです。若い時って、異性の俳優に対しては、過分に好みのタイプで好き嫌いがあるでしょう?私は子供の頃から一貫して、育ちの良い爽やかな優男(優男が最優先)タイプが好きでした。だからもうこんな人、有り得ないわけ。↓



ワイルド、男臭い、粗野、汚い、ぎらついている、全部ダメです。だいたいお風呂に入ってなさそうでしょ?、この頃の原田芳雄。それが絶対毎日お風呂に入っている風に見えたうちの夫が、結婚当初二日くらいお風呂に入らなくても平気なのを知り、男ってそういうもんなんだと初めて知りました。清潔第一で脱毛したり、体臭を異常に気にする今の男子には考えられない「昔の男の人たち」。

それが中年期に入り、ぎらつき感がマイルドになり、豪快な風貌はそのまま、お茶目な少年ぽさも醸し出しながら、この人は少しずつ変貌していきます。私が良い俳優さんだと認識するようになったのは、この頃から。

特に熟年期に入り、今迄共演は考えられなかった人たちと共演して、違和感ないのには感心していました。それもビッグな存在感はそのままなのに。彼がずっと使われ続けていたのは、脇に回って作り手の要求する存在感も出しながら、決して他の人を食うようなお芝居をしなかったからかも知れません。

「大鹿村」の原田芳雄は、いつものチョイ悪親父で豪快で、でもお茶目で本当は温かい優しい人でした。それ以上でもそれ以下でもありません。「いつものように素敵な原田芳雄」、それだけです。私は亡くなったと聞いた時、それが心底すごい事だと思ったんです。名のある俳優さんの遺作は、渾身の力演を見せたり、死の影がちらつく場合も多いけど、本当にいつもの原田芳雄でした。聞けば撮影は二週間の大急ぎ、撮影の合間は、かなりの疲労が彼を襲っていたそうです。それを平常に見えるように演じていたわけです。

病み衰えた舞台挨拶の彼は、でもとても綺麗な目をしていました。失礼ながら病の71才の人の目ではなく、少年のような澄んだ眼差しでした。私は素人レビュアーの末端の人間で、自己満足で映画の感想を書くようになって7年です。もし彼が亡くなってから観たら、映画の感想が割増になるかもしれない。そんなことはしちゃいけない、一介の映画ファンが、この大俳優が渾身の力を振り絞って舞台挨拶に立つ、その事に報いるには、初日に真摯に観て、一生懸命感想を書く、それしかありませんでした。

制作事情も色々あったようですが、自分の感想を読み返してみると、それなりにキャスト・スタッフの思いを、私は受け取れたのではないかと自負しています。今日は仕事がお昼からだったので、ネットでたくさん彼の映像を観てました。涙が出なかったのは、この人には、涙が似合わないからでしょう。「大鹿村」は、決して傑作でも名作でもありませんが、楽しく温かい作品であることは間違いありません。どうぞ皆さん、劇場で映画俳優原田芳雄のラストを楽しんで下さい。

原田さん、映画やテレビでたくさん楽しませてもらって、本当にありがとうございました。私が一番好きなあなたの作品は「父と暮せば」です。これから追悼上映もあるでしょうし、また再見したいと思います。ご冥福をお祈り致します。


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