ケイケイの映画日記
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2011年06月18日(土) 「127時間」




いや〜良かった!素晴らしい!私はアウトドアは全くで、子供たちが小さい頃、キャンプには行っていたくらい。そんな私でも、きちんと主人公アーロンと同化して観ることができ、様々な彼の感情を共有しました。こんなワンアイディアの作品で、感動させて元気も勇気も貰えるなんて、ほんと素晴らしいわ。監督はダニー・ボイル。ちなみに実話です。

ロッククライミングが趣味の青年アーロン(ジェームズ・フランコ)。いつもの週末のように、ブルー・ジョン・キャニオンに向かいました。荘厳な自然を満喫する彼でしたが、谷底を渡っている時落石があり、右手が挟まれて抜けなくなってしまいます。様々な作を巡らし、試みるアーロンでしたが、一向に状況は好転しません。

軽快で馳走感のあるオープニングが良いです。親兄弟に連絡そっちのけで、趣味に走っているのをサラっと描いて、自然を独り占めして満喫する様子を、若々しく撮っています。しかし、これが落とし穴の始まりです。

アーロンは身体能力やロッククライミングの技術に優れているようで、険しい場所に臨むのに、軽装です。危険な場所なのに慣れているから大丈夫とばかり、親兄弟や友人にも場所を告げていません。落とし穴2。

自然は容赦なくアーロンを襲い、何度も彼を絶望の淵に立たせます。そこで観る幻覚や夢。手を変え品を変え頑張っても、一向に変わらぬ状況に焦るアーロン。時の止まったような状況に、自分の日常を振り返ります。親兄弟には不義理し、恋人は趣味の邪魔とばかりに別離。自然の素晴らしさを教えてくれたのは父なのに、自分を励ますための趣味のビデオ撮りは、元は子供の頃母が贈ってくれたのが始まりなのに。そして恋人は自分を愛してくれたのに。アーロンは愛情に恵まれた日常に感謝する事を忘れて、自分一人で生きているように錯覚していた事を、後悔します。

アーロンに慢心はあっても傲慢じゃない。間違った選択はあっても、悪いことはしていません。自由であっても奔放ではない。むしろ一般的には好青年の部類です。彼を傲慢だとか自分勝手だと言うのは、言い過ぎだと思うのです。彼の後悔や慢心は、実は誰しもに心当たりのある類のものです。観客は死を目の当たりにするアーロンから、自分も如何に雑に生き、周りに感謝する心を忘れているか、思い知るわけです。

私はハリウッドの若手ではフランコが一番好きです。理由は伸びやかで自由な雰囲気、ガツガツしない感じに育ちの良さを感じるからです。そんなフランコのイメージは、両親に愛情いっぱい育てられたアーロンに重なり、絶妙のキャスティングだと思います。落ち込んだ自分を奮い立たせたり、錯乱したりやつれ果てたり、全編ほとんどフランコ一人芝居の感じですが、エネルギッシュに繊細に、見事に演じています。

もうあちこちでネタバレしている行く末ですが、だいぶ凄惨です。私はこの手の描写は全然大丈夫なのですが、ホラーやサスペンスではない作品、おまけに実話ということで、今回はかなり痛かったです。その後の展開は壮絶な開放感と共に、決して孤独を愛するなどと、嘯いてはいけないと思いました。一人が好きと、孤独を愛するは違うんだなぁ。

「今の状況は自分が招いた」と吐露するアーロン。荘厳で美しい自然が、彼に教えてくれたのでしょう。エンディングでの現在のアーロンの様子を観ると、失ったもの以上に得た物がたくさん。これはアーロンが自然に愛されていたということなのかな?

ほとんどが動きのない岩場のシーンなのに退屈する間の無い、あっという間の94分でした。美談仕立てにありがちなあざとさはなく、愛情と感謝の言葉の意味の深さを反芻し、清々しさと共にたくさん明日に希望の湧く作品です。閉塞的な今の世の中には、打ってつけの作品と思います。


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