ケイケイの映画日記
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2010年12月04日(土) 「行きずりの街」

坂本順治って、やっぱりいい人なんだなぁと、しみじみ感じる作品。正直あちこちで綻びがあり、筋書きは破綻寸前。お世辞にも完成度は高いとは言えませんが、好きか嫌いかと問われたら、私はこの作品が好きです。

今は兵庫県の丹波で塾の講師をしている波多野(中村トオル)。かつて東京の女子高で教鞭を取っており、教え子の雅子(小西真奈美)との恋愛がスキャンダルとなり、結婚後すぐに離婚した過去があります。それが失踪した塾の生徒だったゆかり(南奈央)を探す為、再び東京へ足を踏み入れます。

原作は「このミステリーがすごい!」の一位に輝いた志水辰夫の作品(私は未読む)。多分複雑に入り込んだストーリーや登場人物の描き込みも、小説なら陰影に富んで読み応えがあるのでしょう。その片鱗は映画でも伺えます。

如何せん映画は二時間ほど。その中にこれだけの登場人物は少々辛い。監督の人徳あってか、脇の脇まで芸達者を揃えたキャストでした。それでも短いセリフと場面では、登場人物の行動は謎ばかり。そのせいか、展開もご都合主義が満載です。脚本は丸山昇一。あまり観てはいませんが私の好きな脚本家さんです。今回はストーリー全部をまとめるのに必死な感じで、もっと大胆に原作を刈り込んで、登場人物を削っていい気がしました。

学校事務員の佐藤恵梨子と元同僚杉本哲太は、中途半端に両方使わず、サトエリだけをキーパーソンにすれば、彼女の波多野への憧れも、もっと描き込めて波多野の人物像がくっきりすると思います。雅子の母(江波京子)を出すのはいいけど、あのプロットなしで、単に雅子の母として波多野と対面させるべし。石橋蓮司の執念深さの元も、動機が薄弱。あれでは「女は無条件に敬うべきだ!」というセリフも陳腐です。菅田俊の「俺は死ぬまで社長の兵隊ですから!」というセリフも、菅田俊が言うので泣かせるのですが、社長の石橋蓮司にオーラがないので、あんたバカですか?という気分になります。どれもこれも、描き込み不足。

それでも私が好きなのは、ひとえに主役二人のお陰です。特に中村トオル。とうへんぼくで鈍感で無粋で木偶の坊で、女心がちっともわからない、でも誠実で正直で一途な男を演じると、彼の右に出る人はいません。と言うか、これしか出来ないのね、多分(失礼な・・・)。そんな中村トオルのキャラと、今回の波多野は絶妙にマッチ。なので塾の講師とは言え、過去に雅子を幸せに出来なかった贖罪として、ゆかりを救いたいと言う設定には納得出来ました。

白眉は元妻雅子の家で、雨に濡れてシャワーを浴びた後のシーンです。頓珍漢な勘違いの後、雅子に激怒され指摘され意気消沈で謝罪し帰ろうとする姿、無駄な善良さがいっぱいでね。これは良い演出だったなぁ。波多野と言う男の全てが凝縮されていますよ。さぁここは雅子を抱きすくめろ、待ってるじゃないか、早くしろ!と、もう私はイライラ。この手の男性は自分に自信がないんですね(男前なのに自覚がない)。先に雅子が感情を爆発させた後の展開は、非常に安堵しましてね、ここが一番盛り上がりました(ということは、ミステリーじゃないね)。

雅子の母は「19だって雅子は女だったのよ。何故もっと女心をわかろうとしなかったの!」と言います。母として詰りたいのはすごくわかる。でも30くらいの男が女心をわかるとしたら、それは相当の女遊びしている男ですよ。わからないのは、真面目であった証拠です。長年バーのママさんをしていたなら、ここは娘にその事を伝えて欲しいところですが、実の子には客観的にはなれませんね。

小西真奈美は大人っぽく綺麗になってて、びっくりしました。少女時代の恋愛の傷を引きずりながら気丈に生きる雅子を好演。情念まで感じさせて、すごく良かったです。ただ絡みのシーンは上半身脱いだ方が良かったです。バストトップは見せなくても、あんな濃厚な演出でタンクトップ姿はないでしょう。裸の背中くらい見せなきゃ。

他はインテリジェンスのある裏の男・窪塚洋介が良かったです。こうやって出る作品で結果を出して行ったら、また主役に返り咲く日も遠くない気がします。気の利いたセリフも随所にあり、楽しませてもらいました。ミステリーというより、傷ついた元夫婦の再生物語として心に残ったので、私は観て良かったです。


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