ケイケイの映画日記
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2010年10月03日(日) 「ミレニアム2 火と戯れる女」&「ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士」




2と3と30分の休憩を挟んで、はしごしてきました。「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」の出来の良さに、待ち望んでいた続編公開ですが、う〜ん。「3」でかなり持ち直したものの、「2」は完全に「3」の繋ぎで、凡庸な出来でした。事前に知らなかったのですが、どうも監督がニールス・アンデル・オブレヴから、ダニエル・アルフレッドソンに代わったようです。物足りなさは残るものの、ノオミ・ラパス演じるリスベットの魅力は盤石で、それなりに色々感じる事は出来ました。

リスベット(ノオミ・ラパス)と共にヴァンゲルグ事件を解決したミカエル(ミカエル・ニクヴィスト)は、晴れて「ミレニアム」誌に復帰します。新進の若手ジャーナリストが追う少女売春を記事にしようと決まった矢先、そのジャーナリストと恋人が殺されます。殺害場所には、リスベットの指紋のついた拳銃が残され、彼女が重要参考人として手配されます。リスベットの無実を信じるミカエルですが、人と信頼関係が結べないリスベットは、独自で真犯人を捜索します。そこには彼女の忌まわしい過去の秘密が、隠されていました。

膨大な原作なので、脚色が大変なのは、未読でも観ていてもわかります。それが今回は裏目に出て、いっぱい要素を詰め込みながら、スピートアップしているはずなのに、何故か画面は冗長に感じます。テンポが悪いんですね。次々展開するんですが、盛り上げ方に工夫が薄く、まるで壮大なダイジェスト版を見せられているようでした。

後半で前作に出てくる、リスベットの少女時代の秘密が明かされます。この辺も、もっと非情で突き刺さる感覚が欲しいところです。「3」でとある人物がリスベットの背景に対し、「まるでギリシャ悲劇のようだな」と語ります。本当にそう。なのに画面から受ける印象は、唐突に秘密が明かされる韓国ドラマや、昔の大映テレビのドラマです。うーん、もったいない!

退屈だなぁ〜と思って気がついたのですが、今回ラストまでリスベットとミカエルの接触はなし。スリリングな凸凹コンビぶりが魅力だった二人ですが、今回は一度メールして、あとはラストにやっとです。この辺も物足りなさに拍車をかける。まぁこれは原作通りでしょうから、仕方ないかなぁ。

と言う思いを残し、30分休憩ののち、スクリーンを変えて「3」です。

リスベットは九死に一生を得て、今は病院に収監されています。彼女の背景には、実はスウェーデンを揺るがす秘密が隠されており、お話は国家規模にまで発展します。

動きが少ない「3」の方が、俄然盛り上がりました。過去の社会的背景はスウェーデンのことなので、イマイチ実感には乏しいのですが、何とか咀嚼は出来ます。それより嬉しかったのが、「3」では作り手が何が言いたいのかが、実感出来た事です。原題の「女を嫌う男たち」でもわかるように、スウェーデンのDVや売春は、社会問題として重要課題なのでしょう。今作でもリスベットを初め、容赦なく女たちが殴られなぶり者にされます。そして権力を持った者は、死が目前の老人であろうとも、その力を手放さそうとせず、他人を威嚇し誇示し死守することのみに盲執するという、醜態を見せます。

しかしここでサブキャラたちが大活躍。誠実で患者の事を第一に考えるリスベットの男性主治医。リスベットの過去を知り、弁護士としての正義感に燃えるミカエルの妹。リスベットのために頑張る、多分引きこもり気味であったろうリスベットの友人のハッカー。そしてリスベットを静かに見守る元上司。職務に忠実で優秀な公安などを配置し、一人一人の市井の民の気慨が、国を変えて行くのだと描いています。

そしてリスベット。裁判の場面の気合いの入ったゴスメイクと特上パンクないでたちは、彼女にとって正装なのです。私は前作では自分の心を隠す仮面だと感じていましたが、「3」で法廷へ向かう彼女の堂々とした姿は、武士で言えば鎧兜なんだと思う。思えば、こんなに殴られ血みどろになるヒロインは、かつてなかったでしょう。彼女の過去が暴かれるにつれ、その並はずれた逞しい生命力と、自分を見失わなかった太い精神は、本当に見上げたものだと感じます。たった一人で生きてきた彼女が、何度も口に出そうとしてためらった、他者への「ありがとう」の言葉。この言葉が、ついに彼女から発せられた時、私の胸にも温かいものが広がりました。

彼女に「感謝している」と答えたミカエルですが、その感謝の心は、編集長で恋人のエリカの、「仕事に命を賭けるの?」だったと思います。脅迫され、明確に安全を選ぶエリカに対し、ミカエルの心は真逆だったはず。社会正義を市民に伝達することに命を賭けるのが、ジャーナリストの使命だと決心したのでしょう。それは重く辛いリスベットの過去が、ミカエルを奮い立たせたのだと思います。

しかしノオミ・ラパスは素晴らしい。作品中で何度も容姿をコケにされますが、この貧相な容姿からは想像がつかない、スケールの大きな女優さんです。ハリウッドで出演作も決まっているそうですが、すんごく楽しみです。女優の流れを変えるかもしれない逸材だと書いたら、褒めすぎかな?「2」を観ないと「3」の流れがわからないのが痛いですが、リスベットファンなら、やはり観ておきたい作品ではあります。



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