ケイケイの映画日記
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2010年09月20日(月) 「シークレット」




「夫は妻を愛していても浮気する」というのは、拙掲示板で親しくさせていただいている、愛妻家のお友達が語って下さったお言葉です。丸めこまれたのでも何でもなく、私もこの年になると、そんなもんだろうなぁと、納得出来てしまうわけですが、その言葉がぐるぐる頭を駆けずりまくる作品です。ミステリーとしては、終盤ドタバタしてしまい、雑になってしまったのが残念ですが、浮気夫の妻への心からの贖罪の気持ちと純愛が炸裂、その部分が気に入ったので、大いに楽しめた作品です。監督はユン・ジェグ。

刑事のソンヨル(チャ・スンヨン)は、駆けつけた殺人現場で、自分の妻ジョン(ソン・ユナ)の物と思しき物品を見つけます。咄嗟に証拠隠滅を図るソンヨル。悪い事に被害者は裏社会の大物ジャッカル(リュ・スンニョン)の弟です。問い詰めても真実を語ろうとしないジョン。警察からもジャッカルからも追われるジョンを、ソンヨルは命懸けで守ろうとします。

フラッシュバックを使って、現在のソンヨルとジョンの不仲の理由が語られます。ソンヨルは飲酒運転で事故を起こし、同乗していた一人娘を死なせてしまったのです。そこまではジョンの知るところですが、実はもう一つ、それには不倫が絡んでいることは、まだ妻に話せていません。

ヨンソルの実直な証言が元で、停職処分を喰らっていたチェ刑事(パク・ウォンサン)の存在や、人情家の主任、ヤク中の証言者、デッチ上げられた犯人など、それぞれ人物描写もぬかりなく、それと妻の謎とを絡め、前半はテンポよく進みます。

特に出色だったのは、ジャッカルを演じるリュ・スンニョン。劇画風の風貌から醸し出す凶暴な匂いは、貫録と狂気を感じ、作品に抜群のスパイスを与えています。ジャッカルが主のスパイスなら、隠し味はチェ刑事。恋人を暴行した犯人を、過剰防衛で射殺した角で停職になりました。その経験が挙動不審のヨンソルの行動を見抜くきっかけとなり、こちらは隠し味的なスパイスになっています。

しかし後半を過ぎると、段々ああ妻の秘密はこれだな。黒幕はこいつだよ、と段々わかってきます。ただわかってきても、その過程がわからない。これはどうやって説明するんだろう?と楽しみにしていたら、畳みかけるように二転三転するんですが、これが結果ありきの辻褄合わせっぽく、少々雑です。土俵際で踏ん張っているので破たんはしていませんが、もう少しプロットを削って、幾重にも展開するエピソードは、的を絞ってドンデン返しは一つにする方が良かったかも。

しかしミステリーで消化不足でも、ひたすら妻を守る夫の純愛度は抜群です。妻に負い目があるヨンソルは、どんなに妻に冷たく当たられ、一切口を割らなくても平身低頭、逆ギレなんか致しません。それどころか、両方の組織に狙われる妻を守るのに、滑稽なほど策を施し、身体を張って命懸けです。「夫は妻を愛していても浮気する」。この言葉の裏返しのような妻への贖罪と献身ぶりです。私なんぞ、すっかりほだされてしまいました。

実は妻は夫への憎悪を募らせ、ある計画を企てていました。夫婦で会話するシーンで、「どこか別の場所でやり直そう。子供はまた作ればいい」とのセリフで、何故妻が猛烈な侮蔑と憎しみの目を自分に向けるか、夫にはわからないでしょう。妻は子供が欲しいのではないのです。別の子などいるはずはなく、失くした子が忘れられずに、壮絶な苦しみに身を置いているわけです。

このセリフがあったので、妻の計画には私も納得。しかしよくよく考えてみれば、あっさり別れた方が簡単なのに、この企ては妻が夫を愛しているいる証拠のようにも感じます。男って本当に取り返しのつかないような、無神経な言葉を発するもんです。しかしプロの妻たるもの、そんな言葉に振り回されていたら、神経がもたんのだよ。ソンヨルが偉かったのは、その事実を知っても妻への愛を貫き通したことです。本当に反省していたんですね。

ソンヨルを演じるチャ・スンヨンは、洗練された雰囲気と身のこなしが、良い意味でモデル上がりを感じさせ、バリバリ押し出しが利く俳優が演じるより、ソフトな印象の彼が演じる事で、観客の共感と同情心を呼んだと思います。妻役のソン・ユナはクラシカルな美貌と楚々とした雰囲気が、美しい良妻賢母の雰囲気にぴったり。大人しさの底の芯の強さも感じさせ、こちらも絶妙なキャスティングでした。ちなみにソル・ギョング夫人です。

最後の最後まで、やや蛇足の展開がありますが、ソンヨルはこれで凍りつくほど、自分の不倫を後悔したはずです。不満な部分も少々あり、終わりに連れて失速しますが、最後まで「面白かった」の気分は持続させてくれます。
まずまずの出来かな?これも夫婦ものとして観る方が印象に残る作品です。


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