ケイケイの映画日記
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2010年03月19日(金) 「フィリップ、君を愛してる!」



思わず腐女子デビューしたくなった作品。もう本当に危ないわ。芸達者はこれだからもう〜。一途なんだけど、こんなふざけたお話しが実話だとは、あな恐ろしや。笑って、ときめいて、しんみりして。あっ!と驚き、またニヤニヤしてと、とっても楽しい作品です。監督はグレン・フィカーラ。

妻子とともに平凡に幸せに暮らしていたスティーブン(ジム・キャリー)。警官を辞した後の事業も成功、何の不満もない生活に観えたのですが、実は彼は隠れゲイ。妻子に内緒でゲイライフを楽しんでいたのですが、運悪く交通事故で急死に一生を得ます。それを機会に、嘘の暮らしは辞めようと思ったスティーブンは、妻子にゲイ宣言し、美男子のジミー(ロドリゴ・サントロ)という恋人も得ます。しかし理想のゲイライフには、潤沢なお金が必要で、スティーブンはIQ169の頭脳を生かし、詐欺を働いてお金を得ていました。しかし年貢の納め時が来て、彼は御用に。しかし留置所生活で彼を待っていたのは、運命の人フィリップ(ユアン・マクレガー)でした。以降、スティーブンの人生は、フィリップに捧げるものとなるのです。

とにかく主役二人がとってもいいです。ジム・キャリーは、「暑苦しいよ」の一歩手前の怪演で、とっても楽しんでやっているのが観ていてわかります。チラシに、プロデューサーとして出資しても出たい作品として、「トゥルーマン・ショー」、「エターナル・サンシャイン」と並んで、この作品も入っていますが、どれもこれも私が大好きなキャリーの作品なので、まんざらリップサービスではないと思います。張り切ってヌードも満載です。

そしてユアン・マクレガー!可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い!ワタクシ萌えまくりました。お人好しで純粋で正直で。男子たるもの、絶対守ってあげなくては!(あれ???)。スティーブンを追いかけ、内股で一生懸命、それも自分の大嫌いな運動場を走り抜け、「愛してるよ!」と絶叫するんですよ。フィリップは近頃の女性が失った美しき心映えを、とにかくいっぱい持っている訳です。それをあなた、誰が演じるかってユアン・マクレガーですよ、「トレスポ」ですよ、オビ=ワン・ケノービですよ、40前のおっさんですよ?心底感心&驚愕しました。この作品、出資はフランスでフランス映画なんですが、それだってオスカーにノミネート出来たと思うんですよ。やっぱオスカー会員はゲイに偏見あるんでしょうか?心優しきオム・ファタール(運命の男)ぶりに、すっかり魅了されてしまいました。

スティーブンがゲイである自分を偽って、警官までして模範的な人生を送ってきた裏には、実の母親に捨てられたことが起因しているのだと思います。自分が養子だとわかった日から、誰よりもいい子になろうと頑張ってきたのに、探し当てた実母からは冷たくあしらわれ、家の中では血を分けた兄弟のバースデーパーティーです。自分だけが蚊帳の外。ライトに笑わせていますが、スティーブンの胸中の無念さ切なさは、いかばかりであったろうと思うのです。心はいつもいつも、幸せな家庭を切望していたと思います。

だからゲイを隠して結婚。元妻も良い人で、別れてからも良好な関係を結べたのは、元妻の寛大さと、妻子が自分の「家庭」であるという気持ちが、スティーブンにあったからでしょう。

あぁでもね、その感謝の気持ちを表現するのが、スティーブンの場合、お金なんだよなぁ。素敵なゲイライフを送るには、お金がしこたま必要と思っているのはスティーブンだけで、前彼のジミー(ロドリゴ・サントロ@少し美貌が衰えたけど、彼も好演)もフィリップも、そのままのスティーブンが傍にいてくれることを望んでいました。お金がなきゃ、愛する人を守れないと思い込んでいるのは、スティーブンだけなのです。例えそれが詐欺で得たお金であっても。「僕に何か隠していること、ない?」と、疑心暗鬼の愛するフィリップにも嘘をつくスティーブン。

これも母親に捨てられた、愛されなかったという自縛が、彼の心から終生離れなかったからでしょう。自信のなさはお金に換えて、お金と詐欺が、スティーブンの愛情表現だったのですね。本当に罪作りな親ですよ。あの手この手の詐欺の手口は一種爽快です。こんなに頭いいんなら、別で使えば真っ当にでもお金持ちになれるのに、とも思われるでしょうが、だから別モンなんですよ。詐欺を成功させる事が、スティーブンの自信回復なんだなと感じました。

「本当の君が知りたいんだ。僕には嘘をつかないでくれ」というフィリップ。でも本当の自分なんて、スティーブンにもわからない。真実なのは、フィリップを心から愛しているということだけです。それでいいんだと思う。愛は求め合い奪い合うものですが、私は一番大事だと思うのは、何があっても相手を丸ごと受け入れることだと思っています。だから「私を愛しているなら、××は止めて!」は、ちょっと違うんだよなぁとは、私もこの年になってようやくわかることです。

しかし別に爽やかでも大してイケメンでも渋くもない50前(キャリー)と40前のオッサン二人の純愛に、私は何度切なくて涙ぐんだことか。もうね、病院での二人の電話の会話なんてね、私は号泣しましたよ。しかしその後、目が点になる展開に。すっかり私も騙されちゃった。でも痛快だったです。

脱獄と詐欺を繰り返した本物のスティーブンは、現在禁固167年。殺人などない軽犯罪では、異例の重さの量刑です。23時間は監視付きの生活ですが、また脱獄してくれないかしら?と、不謹慎なこと考えているのは、私だけではありますまいて。


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