ケイケイの映画日記
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2010年01月20日(水) 「今度は愛妻家」




うん、まぁこんなもんかな?世評は高いみたいですが、描き方に奥行きがなく、描き込みも不足。要らないプロットもちらほら。でも主役のトヨエツ、薬師丸ひろ子、脇の石橋蓮司が好演しているので、それなりには楽しめました。監督は行定勲。

俊介(豊川悦史)は有名なカメラマンですが、最近は怠惰な生活を送り仕事をしていません。結婚10年の妻のさくら(薬師丸ひろ子)は、そんな夫に明るく甲斐甲斐しく尽くしています。しかし子供の欲しいさくらに対し、協力的ではない俊介は、さくらから離婚を切り出されます。

前半はこの二人を軸に、おかまの文ちゃん(石橋蓮司)、弟子の誠(濱田岳)、女優志願の蘭子(水川あさみ)が絡み、テンポよく進み笑わせてくれます。いつまでも新婚気分の妻の様子や、女にだらしなくて調子がいいけど、何となく憎めない夫の様子も自然に描けていて、楽しめます。

後半ある秘密がわかる展開です。その辺は、一年前と今では家の様子が違うこと、洋装店店主ゆり(井川遥)の様子が訝しげなこと、文ちゃんが俊介や誠の好物は持ってくるのに、さくらの分はなかったこと、さくらの服装がいつも同じ事、文ちゃんが蘭子と言い合いになった時のセリフなどなど、私はなんか変だなぁと思ってずっと観ていたので、なるほどと、腑に落ちました。

しかしですね、この後半からがもたつきます。長々引っ張り過ぎ。中年夫の妻恋しが描かれるのですが、やたらめたら甘いです。妻の方も離婚を切り出す理由に同情も同意も出来るのですが、それまでの描かれ方が結構楽しげなので、ぐっと胸に迫ってくるもんが薄いです。

夫の健康を心配して口やかましい妻に、夫が「俺の健康なんだから、お前に関係ないだろう」と言うと、妻が「私はあなたの健康に関係ないだ・・・」と寂しくつぶやくシーンは、とっても共感出来ました。うちの夫もそうですが、男って不用意に悪気なくモノを言うもんですよ。悪気がないから反省しない。あげくは過度に傷つくお前が悪い、ってなもんですよ(我が家参照)。例え子供がいなくても、こんな無神経なセリフを言わない夫であれば、さくらも離婚は考えなかったはずです。なのでこの辺の、「男と女の間には、深くて暗い川がある」を、もっときめ細やかに描き込んで欲しかったですね。

それと若い誠と蘭子の恋の行方なんですが、いつの時代ですか?と思うほど鉄板な展開。さくらの悩みとかけているのはわかります。蘭子のいでたちは、水商売でもロークラスを思わせますが、あばずれの純情を感じさせるには軽薄過ぎで、始終がなっているだけ。「純喫茶磯辺」の麻生久美子くらいの深味があれば、良かったのですが。誠も実に好青年なのですが、だからどうしてこれほど蘭子に入れ込むのかと疑問に思いますし、終盤の秘密の暴露も不要です。この二人のパートはなくして、夫婦二人だけに的を絞れば良かったかと思いました。

それでもトヨエツは「憎みきれないろくでなし」を演じて、相変わらずカッコ良くて上手いし、薬師丸ひろ子は皺も隠さず若づくりも無しなのに、本当に可愛いです。石橋連司の文ちゃんは哀愁も年輪も感じさせて秀逸だし、何だかんだ言いつつ、終盤はしっかり泣いてきました。

職場のお若い先輩方に聞くと、最近の旦那様方は、皆とっても優しいんだとか。これを観て反省し涙するのは、「言わなくてもわかるだろう」「妻の事は心から大事に思っているんだから、それでOK」の、昭和を引きずる年代の旦那様でしょうね。「今度は」は、ないんですよ。奥さんを大事にしてね。妻の方は、とっくに夫には期待しなくなってますから、この作品の嘆き悲しむトヨエツを観て、溜飲を下げて下さいませ。でもやっぱりちょっと可哀想かな?あの夫。


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