ケイケイの映画日記
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2009年08月30日(日) 「96時間」




いやー、びっくりした。リーアム・ニーソンが、あんなにアクション出来るとは。遠めの大がかりなアクションはスタントでしょうが、「ボーンシリーズ」風素手での格闘は、確かにニーソンが演じていました。大物演技派俳優のニーソンが演じていることで、グンと作品に説得力と厚みが増しました。監督はピエール・モレル。

かつてアメリカの有能な諜報部員として活躍していたブライアン(リーアム・ニーソン)。家庭を顧みない仕事ぶりから、妻子とは離婚。妻レノーア(ファムケ・ヤンセン)は一人娘キム(マギー・グレイス)を連れ、大富豪と再婚。今のブライアンは一人娘の成長だけを楽しみに隠居生活を送っています。ある日キムがパリ旅行を認めて欲しいと父ブライアンに頼みにきます。危険であると最初は反対するブライアンですが、自分のアドレスを登録した携帯電話を渡し、渋々承諾します。しかしブライアンの懸念通り、パリに着いたその日、キムは人身売買組織に誘拐されてしまいます。

実はこの作品、夫と観ようと思っていました。近場のラインシネマで上映だし、時間も一時間半のアクションなので、お手軽でしょ?しかし主演がニーソンだと言うと、「どんな作品に出てるねん?」と聞かれ、咄嗟に「『シンドラーのリスト』のシンドラーの人」と、まぁ一番わかり易い作品を挙げたわけですよ。そうすると「いらんわ」との答え。まー、そーくるかなー(夫の今の一番のお気に入りは、セガール先生を抜いてジェイソン・ステイサム)。映画好きには「おぉ!ニーソンがアクションに!」と、興味津々なわけですが、一般的には彼の知名度はその程度なのかも。でも大昔にサム・ライミの、「ダークマン」にも出ていたわけなんですが。面白かったんですよ。相手役もフランシス・マクドーマンドでね、今じゃ考えられないキャスティングでした。

前半は別れた娘を思う父心を、哀愁を帯びた演出で結構丹念に描いています。仕事にために愛する娘と別れなければならなかったブライアン。引退したのは、きっと妻子への贖罪の気持ちだったのでしょう。娘のキムがまた素直な良い子で、愚かさも可愛げもハイティーンならでは。不満もあったでしょう別れた父を、ちゃんと受け入れている姿が好感が持てます。この辺の演出が効いているので、後半の父の無茶苦茶ぶりも全然許せます。演じるグレイスの容姿が健康的ながらも平凡なのも、感情移入し易い要素です。

キムが誘拐されると知るや、ちょこっと元諜報部員の片鱗を見せただけの前半とは打って変わり、ブライアンは元スパイの実力を発揮しまくり。携帯を初めとする通信機器の扱いや、鍵なしでの車の盗み方(←おい!)、家の侵入の仕方や証拠の集め方、果ては以前は「外部委託」していたそうな拷問や、超強引なゲロの吐かせ方まで、娘のためならエンヤコラ、ノンストップで彼がさぞ優秀なスパイであったろう様子が披露されます。

警察に駆け込んでも無駄だという理由も明かされます。わくわくしながら画面を見ながら、隙間に我に返ると、あれ?これはおかしいんじゃないの?という場面も出てきますが、とにかく悪い奴は全部やられるので、大変気持ちがいいです。約一名、罪のない善良なご婦人が巻き込まれますが、夫のした事を思えば、致し方なし(あくまでブライアン定義)。でも私はこのシーンが結構お気に入りでね。アメリカの正義の御旗の元、守るべき妻子はほったらかしにしていたブライアンが、善か悪かではなく、一人の父親として、例え罪を犯したって娘を救いたいと言う執念が、「ここまでやるか」の、このシーンに集約されていたと思います。これは彼が離婚後、何が一番自分にとって大切か?と、学んだ証拠ではないかと思います。

追い詰めるばっかりではなく、その逆もあり。最後が予想されるのも、この手の作品のお約束通り。私が大変微笑ましく思ったのは、キムが人身売買組織に誘拐されたのに、純潔が守られていたことです。お父さん的には、娘の命と同等くらいに大事なものなんでしょうね。ご都合主義的な脚本も、ブライアンの奮闘に免じて許したくなります。

ブライアン役が、ハリソン・フォードやブルース・ウィリスだったら、この作品がこれほど面白く観られたか?答えはノーだと思います。知的で落ち着いた雰囲気を強く漂わすニーソンが演じたからこそ、お約束の展開にも観客は意外性を感じ、ハラハラ度と共感度が増したのだと思います。この作品は50半ばにして新境地を開拓した、ニーソンの頑張りに尽きる作品かと思います。不慮の事故で奥様のナターシャ・リチャードソンが亡くなったばかりですが、同じ俳優だった奥様のためにも、これからもニーソンの活躍に期待したいです。


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