ケイケイの映画日記
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2009年07月20日(月) 「アマルフィ 女神の報酬」




・・・。前評判が良かったので観てきました。フジテレビ50周年記念作品だそうで。それで織田祐二ね、はいはい。「全編オールイタリアロケ。日本映画を超えた、圧倒的なスケール」「こんなかっこいい織田祐二、観たことない!」などなど、宣伝だけではなく、一般人の評判も良いみたい。大作にありがちな美辞麗句を信じるほど、私はうぶな映画ファンじゃないんですけど、監督が「容疑者Xの献身」の西谷弘だったので、もしかしたら・・・と、期待した私がバカでした。前半それなりに観られたけど、後半グタグタ。期首改編時の特番で充分の出来で、映画館にまで足を運ぶほどのもんじゃなかったです。

外交官黒田康平(織田祐二)の今度の赴任先はイタリア。来伊予定の外務大臣川越(平田満)の安全を守るのが、今の一番の目的です。そんなとき観光旅行に来ていた矢上紗江子(天海祐希)の娘まどかが、何者かに誘拐されます。犯人からの電話に出てしまった事から、黒田はこの事件に巻き込まれることに。難航する捜査に業を煮やした黒田は、自分なりに事件の糸口を見つけようとします。

一般人のレビュー、ネタバレは外して読みましたけど、概ね好評でした。皆さん大きな嘘をおつきになって。前半は天海祐希の好演もあって、子供を失うかも知れない母の心情が深く伝わってきたし、「謎解き」の謎の出し方も、なかなか上手くてそそられました。私ははは〜ん、子供はこうやって連れ出したな、というのはわかりましたが、その方法がわからず。

犯人の要求と並行して映されるイタリアの風景もまずまず。でも私が印象に残ったのは、名所と言われる場所ではなく、生活感のにじみ出た街並の風景の方でした。イタリアの国を余すところなく映そうと、そう言う場所も抜かりなく撮影した気配りには好感が持てました。

しかし肝心のサスペンス部分がなぁ。内容をスケールアップしたかったのはわかりますが、あんな行き当たりばったりの計画で、成功するわけないですよ。いきなり素人が拳銃持って、それを誰も取り押さえられなかったシーンでは、思い切り脱力。そもそもこの場面だって、綿密な計画を立てたわけじゃなく、思いつきとしか思えん。だって解決して行ったのは黒田ですよ。この人の存在こそ予定外でしょ?イタリア警察がバカだっていうのは、犯人の計算にはいってなかったの?いや私がバカだと言ったんじゃ無いですよ!映画がそう描いてるんです。

黒田は外交官なんですが、ミラクル黒田と呼びたいほどのスーパーマンぶり。刑事以外の人が越権行為であれこれ捜査するのは、似たようなプロットの作品もあるけど、一応この人冷徹なその道のプロという設定なんですよね?出世を棒に振ってまで、子供探しに奔走するかね?紗江子とロマンスが芽生えた訳でもなく、母としての彼女に痛みに心を動かされたという描写も希薄。好意を持っている、というくらいで、やり手が前面に出ている黒田が、あそこまでするかなぁ?彼の背景がわかりづらいので、中途半端な造形になっています。

この作品は最後の方に向かって社会問題に提議しており、私は「相棒」を思い起こしました。が!!!先に問題提議ありの、志が高かった「相棒」とは違い、大作なんだからね、ちょっとスケール大きくしなくちゃね、と、こじつけ感たっぷりのこの作品では、感動の度合いが雲泥の差。「相棒」もね、稚雑な箇所はたくさんありました。それでも私は心から泣けたんです。

映画ファンなんてね、感動させてくれたり、感心させてくれたら、ストーリーに粗があろうが、サスペンスの辻褄が合わなかろうが、そんなもんあんまり気にしないと思うんですよ。大事なのは良い作品にしたい、観客に楽しんで欲しい、このメッセージを伝えたいという、作り手の思いが伝わるかどうかだと思うんです。全編イタリアロケしようが、サラ・ブライトマンに歌ってもらおうが、肝心の映画の内容が適当に作ったような印象を受けたので、私は興ざめでした。

「相棒」もこの作品の犯人も、気持ちはとってもわかります。でも「あなたの言う事は正しい。でもやり方が間違っている」と、西田敏行に向かって断言した水谷豊からは、観客も西田敏行も救われたでしょう。しかしこの作品での黒田の決めゼリフ、「法人を守る。それが外交官の仕事だ」って、誰が納得出来るの?

この作品で一番光っていたのは、風光明媚なイタリアのロケ地より、天海祐希でした。子供を誘拐され狼狽し、勝ち気で猛々しいだけの母だった彼女が、少し落ち着き周りを見渡し、黒田を始め、たくさんの人に迷惑をかけているのだと、自覚しはじめての演技の変化の仕方などとても自然で、紗江子という女性の母性の確かさと誠実さが的確に浮かび上がります。母は強しを感じさせながら、女性としてのか弱さを感じさせる演技も上手かったです。

この作品で一番褒めてあげられるのは、紗江子と黒田や佐藤浩市演じる男性と、恋仲にしなかったこと。娘が誘拐されているのに、そんな展開になったら、わたしゃ「大奥」の天英院並に罵詈雑言浴びせたかも?

でもヒットするんだろーな。私が観た回もまずまずの入りでしたしお金をかけた、お手軽でお安い作品でした。


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