ケイケイの映画日記
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2009年04月02日(木) 「ウォッチメン」




面白かった!予告編で想像していたようなブラックユーモアは皆無で、ひたすらシニカルでダークな世界観が繰り広げられる、ヒーローものの怪作。難しく哲学的な会話も多く、血みどろで暴力的な画面を引き締め、意味を与えます。オチだけはちょっと引っかかりましたが。監督はザック・スナイダー。

1985年頃の、米ソが冷戦真っただ中のアメリカ。かつて「ウォッチメン」として、世界の悪を監視し平和を守っていると称賛されたヒーローたちは、彼らの活動停止を定めたキーン条礼の発動後、それぞれの道を歩いていました。その中のメンバーの一人、コメディアン(ジェフリー・ディーン・モーガン)は、政府の裏の活動に携わっていましたが、自宅で惨殺されます。仲間だったロール・シャッハ(ジャッキー・アール・ヘイリー)は、これは「ヒーロー狩り」だと確信します。

まずボブ・ディランの曲をバックに、長いオープニングが秀逸。ウォッチメンの元となる「ミニッツメン」なる、コスチュームや覆面で変装した自警団の衰勢を描きながら、並行して第二次大戦から1985年頃のアメリカの歴史が映し出されます。それにはケネディ暗殺あり、ベトナム戦争あり、フラワーチルドレンを思わす人々ありで、時代のうねりや華やかな喧噪を感じさせながら、とっても詩的に流れる画面に、まずうっとり。導入からしてやられました。

ヒーローと言っても、不幸な事故で身につけた能力のため、人間以上神未満となったDR・マンハッタン(ビリー・クラダップ)以外は、超能力者や異星人であるわけではなく、ただ身体能力や腕力が人より秀でているに過ぎず、「正義」の御旗の元、自分なりの哲学を持って、行動に移しているわけです。そしてその正義への道も、一つではないのだと感じさせるのが斬新です。己の信じる正義へのためなら、人殺しだってやってしまうロール・シャッハや、コメディアンに至っては、女はレイプするわ、ベトナムや街角で罪もない人まで殺してしまうわ、やりたい放題。オジマンディアス(マシュー・グード)は自らの過去を公表、金儲けに余念がなく、普通の穏健派ヒーローのナイトオウル(パトリック・ウィルソン)は、ヒーローではなくなった精彩無い自分を受け入れつつ、過去の栄光も忘れられずと、まるで「MR・インクレディブル」氏な訳です。そんな中、紅一点のシルクスペクター(マリン・アッカーマン)だけが、本名のローリーに馴染み、普通の女の幸せを望んでいる姿が印象的。

彼らの生い立ちを時間をかけて再生する手法が効果的。嫌悪感を持っても仕方ない様な彼らの内面を描き、正義の華やかさに陶酔するのと引き換えに、恐怖や孤独を抱えながら生きているのがわかるのです。その葛藤の表現が、セックスだったり暴力だったりする点が、私にはとても人間臭く感じられ、ぐっと心に入ってきました。今までのヒーローものの葛藤が、ちょっと甘ちゃんに感じられるほど。

彼らが己よりも大切にする正義。このオチのつけかたはどうよ?という気はします。これって、アメリカが原爆を日本に落としたのは、戦争を終結させるために必要だった、という言い分と、同じじゃないの?これに反抗する者、いっしょに罪を被るもの。冷戦時代の姿を借りて、今のアメリカの混迷ぶりを表現しているんでしょうか?でも私は「泣いた赤鬼」の話は好きじゃないな。

ビリー・クラダップが終始あんな姿で出てくるとは思わなかったんで、びっくらしました。もっとも神に近いという設定ですが、変身後に若い女に入れ上げて、糟糠の古女房を捨てたり、忙しいからとセックスに分身を使って、本体は仕事をしていてなど、全く持ってデリカシーのない男っぷり。見かけによらず、生身のと男の匂いプンプンでした。なので彼の口から出る禅問答のような言葉は、私には壮大なんだか陳腐なんだかよくわかりませんでした。言葉より、中身は安っぽかった気がするなぁ。

そこへ行くとエロと暴力の限りを尽くしながら、恐れに涙するコメディアンは、よく理解できました。名前の如くマスクが心模様を映すロール・シャッハのカッコ良さも印象的。「リトル・チルドレン」のヘーリーは上手かったけど、「がんばれ!ベアーズ」の彼を知る私には、時の流れの残酷さも感じましたが、今回見違えるような精悍さ。青春スターだった頃の彼が好きだった人は、安心して観て下さい。パトリック・ウィルソンも、いつの間に中年親父になったんだ?と、ちょっと落胆したけど、インポテンツになったり復活したりの過程は、私は非常に愛せます。平凡な誠実さも私好み。なので一押しキャラは彼です。

オジマンディアスは、もうちょっと酷薄さが感じられる方が良かったかな?ローリーは懐かしの「ワンダーウーマン」を彷彿させる容姿で、素直な女心も理解出来たし、私には好ましかったです。

この作品の背景になった事柄は、私には記憶の深い出来事ですが、そうではない方は、ちょっと予備知識を入れてもいいかも。決して過去のことを描いているだけではなく、現代の平和観にも通じるものがある作品です。


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