ケイケイの映画日記
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2008年11月13日(木) 「ブタがいた教室」




とっても素敵な作品です。星先生(妻夫木聡)が教師として未熟であるのがわかっているにの、こんな先生に担任して欲しいなぁと思わせるのが、素敵なのです。子供を三人育てた母親としては、描写に少し物足りない点もありますが(後述)、それを遥かに超える子供たちの豊かな感受性を受け取り、私まで瑞々しい心で満たされました。
監督は前田哲。

新しく6年2組の担任となった、新米教師の星先生。クラスの子供たちに、命の尊さをその恵を頂くことの意味を教えたくて、卒業まで生後間もない子ブタを飼育し、そして食べようと提案します。様々な困難が予想されましたが、理解ある校長先生(原田美枝子)の後押しもあり、実現。子供達はブタをPちゃんと名づけ、皆が平等に飼育に参加します。そして卒業間近となり、Pちゃんを当初の予定通り食べてしまうか、このまま飼育することにするか、クラスで意見が真っ二つに分かれます。

「コドモのコドモ」に主演していた、甘利はるなが出ているせいか、この作品と比較してしまいました。子供達の団結やクラスのまとまりを描くのに、決して奇をてらうことはないのだと、改めて実感します。甘利はるな演じる転校生花は、新しい学校に馴染めず、まだ以前の学校の制服を着て通学しています。クラスの子が受け入れないというより、花がやや拒絶しているように感じるのです。しかしPちゃんの飼育を通して、クラスが一つの目標に向かって団結して行く時、あることをきっかけに、花は前校の制服を脱ぐのです。それは如何にも子供らしい「嘘」がきっかけですが、そこには花を守りたいという同級生の気持ちが溢れています。

成長したPちゃんの行く末を熱く討論する子供達。このディベート場面だけでも、この作品は充分存在価値があるほど、素晴らしいです。手塩にかけたPちゃんを食べるのは忍びず、他の案を模索しようとする派、自分たちが手塩にかけて育てたからこそ、その責任の名において、Pちゃんは食べた方が良いという派。どちらも見事な意見の交換です。時には激こうしてケンカ腰になるものの、とても小学生らしい純粋さを感じさせるものから、大人顔負けに理路整然と自分の意見を述べる子など、私も参加しているかのように、どうすればいいのか、いっしょに考えてしましいました。

そして話し合いが進むにつれ、クラス全員の心の根っこには、Pちゃんの寿命を全うさせてやりたいのが本音だと、段々明らかになります。もうこの辺から私は号泣。観ればわかるのですが、本当にその純粋さに涙が止まらなくなります。大人として教師として、星先生は子供たちを見守り続けます。

彼自身、どうすればいいのか、心がぶれているのです。確かに教師としてもっとしっかり誘導して、子供達の不安で波立つ心を助けてあげるべきでしょう。しかしこの未熟さを一番知っているのは彼自身です。だから一生懸命手探りで、答えの出ない先を模索しているのです。子供達と一緒に悩みに悩む星先生。しかし子供たち皆が星先生を信頼し大好きなのは、未熟さを隠さず悩む姿をさらけ出し、星先生が自分たちといっしょに成長しているからではないでしょうか?そこにはしっかり、先生が自分たちを懸命に思う心を見出しているのでしょう。

Pちゃんの飼育に夢中になりすぎ、勉強がおろそかになると、苦言を呈しに母親数人が校長と星先生に談判に来ます。その時の校長の対応が本当にお見事。教師と生徒の間には、如何に信頼関係が大切か、そして親から見た良き先生と、生徒から見た良き先生に隔たりがある場合、我が子を信頼しなければならないと、痛感しました。教師とは、生徒と親に育てられるものだと思っていましたが、校長という指導者の存在を忘れていたなと、これまた教えてもらいました。

二人の父親が出てくるのですが、星先生の指導に理解があるのが印象的です。大局的に観る父親、目先に囚われる母親。でも両方があってこそ、バランスが取れるものですから、私は決して母親の言い分も間違っているとは思いません。

少しだけ苦言を呈せば、6年生というと、受験をする子が必ずいるものです。塾通いで忙しく、実際はブタの飼育どころではない子もいるでしょう。そういう子の寂しさや参加出来ない葛藤、他の子はどこで折り合いをつけるのか?その子を排他するのか?など、織り込めば、掛け値なしの傑作になっていたと思います。とはいえ、これでも充分ですが。

こういう機会を与えられた子供達が、本当に羨ましかったです。この手の葛藤は大人になればなるほど、出くわすものです。人の意見に左右されず、自分の頭で考え、人の前で臆することなく意見する。これは本当に貴重な経験です。Pちゃんの飼育を通して学ぶ生命の尊さを、本当の意味で完結させたのが、この討論だったと思います。

Pちゃんは結果どうなったのか?どうぞ作品をご覧になって、確かめて下さい。私には納得出来るものでした。生き物の恵を食し生きている人間。万物霊長類の長として、自然界に対して責任は大きいんだよなぁと、その点もつくづく感じました。ありがとう、Pちゃん。私からもお礼を言います。




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