ケイケイの映画日記
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2008年10月06日(月) 「トウキョウソナタ」




あぁ、もう!タダ券あるからって、観なきゃ良かった!これならぶちゃいくで太っちょの可愛い女の子を観に、「落下の王国」の方が絶対ましだったと思う。予告編で悪い予感がしてたんですよ(なら観るなよ)。キョンキョンが「誰か私を引っ張って…」というシーンね。亭主がリストラされてるのに、そんなこと言ってる場合かよ、と思いましてね。でもその予告編の方がずっと本編よりましだったんだから、どれだけ個人的にトンデモ家庭劇だったか、おわかりか?折角家族各々のキャラは、嫌悪も含めてリアルだったのに、そのリアルを、どうしようもない脚本の勉強不足と悪意で(そう悪意なのよ!)、ぺしゃんこにしちゃってます。多分「ありふれた家庭の、徐々に始まる崩壊を、ラストで見事に希望の光を与え再生させる、傑作ホームドラマ」なーんて感想が溢れると思いますがね、私は久々に怒りモード全開です。今回罵詈雑言モードで行きますんで、よろしく!監督は黒沢清。

タニタの総務部課長の竜平(香川照之)は会社をリストラされ、職探しをしています。長男貴(小柳友)は大学生ですが、昼夜逆転の生活をしており、突然アメリカの軍隊に入隊したいと言い出します。小学生の二男健二(井之脇海)は学校の先生とそりが合わず、父親にも不満があります。ある日思い切って以前から気になっていたピアノ塾の先生(井川遙)の元に、親に内緒で入塾を希望します。そして妻であり母である恵(小泉今日子)は、家族それぞれに秘密を抱えているだろうと察しながら見守っています。

馬鹿と阿呆の品評会ながら、家族四人の造形は、なかなかリアルです。竜平の小心者でいばりくさる親父なんか、本当にいそうですよ。特に自分より背丈が大きくなった長男には怒り心頭でも手を出さすに、小学生の健二には、ちょっと気に入らないだけで手を出す様子は、器の小ささ満開です。妻にリストラが言えない夫というのも、いるでしょうね。面接で「あなたは会社のために、何が出来ますか?」に答えが詰まる場面も印象深いです。竜平は46歳、与えられたことを一生懸命やっていく、そういう世代でしょう。時代が変わったのに、頭も心も追いつかない様子が、上手く出ていました。拾った金を盗めない小心な善人ぶりも良かったです。

恵の閉塞感もよくわかる。しかし好きなタイプの母親じゃないのね。息子二人の母にしては、いやに大人しい。私なんか息子三人は手も出す足も出すで、シバキ回して育てたので、朝帰りしといて「今から寝るから掃除機やめて」だの、グータラバカ息子のくせに、いきなりアメリカの軍隊に行くだのという息子なんぞ、うちなら夫と二人で100%座敷牢です。まぁだから息子たちが親を知っているので、こういうふざけたことは言わないわけなんですが。長男も嫌いだけど、如何にも今時の一部分の若者を描きましたって感じなんでしょう。ちなみに私が違和感を抱いた、「誰か私を・・・」は、あのシーンなら別段疑問はありませんでした。

突飛な行動をする次男の造形は、全く問題ありませんでした。担任とピアノの先生の描き方は気に入りませんでしたが。

ではどれだけ脚本が現実と乖離しているか、検証に入ります。ネタばれもりもりなので、ご注意を。

まずカッと来て会社を辞めた竜平の気持ちはわかりますよ。しかし何故速攻ホームレスのための炊き出しに並ぶ?タニタは体重計など健康関連の計測器を製造販売する実在の会社です。同じ境遇の黒須(津田寛治)に、畳掛けるように「退職金は?失業手当はどうした?」と聞かれますが、その時の竜兵の答えは、「お前、すごいな・・・まだ何も」。はぁ???こんな大きな会社の総務部の課長だったんでしょ?こんなこと、パートの契約社員だって真っ先にやります。この場合会社の温情で失業手当が後回しになる自己都合ではなく、早急に出る会社都合にしてもらう余地は、話し合いで充分あります。炊き出しに並ぶ前に、やることいっぱいでしょ?何度もいうけど、こんなボンクラで本当にタニタの課長やれたの?

長男のアメリカの軍隊に外国人が入隊する件は、まあ映画的創作と我慢しよう。何で唐突にアメリカが日本を守っているから、家族を守るために軍隊に入るんだよ!というのは、バカ息子だから見逃してやろう。しかしだね、入隊して一ヶ月か二か月で、ずぶの素人を戦地へ派兵するか?いくらアメリカもバカだからって、それはないでしょう。第一に戦力になりません。母親の恵が息子の幻を見たようですが、その時のセリフも「いっぱい人を殺したよ・・・」って、あんたバカ?自分のヘタレ息子が人を殺してトラウマに陥ってるってか?普通は殺される方を心配しないかね?

では次は二男ね。給食費をちょろまかして、ピアノの月謝に使っているという設定ですが、これもあり得ません。今は給食費は銀行引き落としです。もう大昔からですよ。全くないとは言えないでしょうが、ほとんどないはずです。担任の投げやりな様子も、現場で頑張っているたくさんの先生を知っている私は、これがリアルと言われるのには、大変遺憾ではありますが、まぁいるにはいるんでしょう。でも三か月滞納や早退盛り沢山なのに、親に連絡しないはあり得ません。一ヶ月滞納でも、払う払わないとは別に、学校は連絡するはず。そして今の学校は、欠席や早退した後はちゃんと担任から「○○くん、体の調子は如何ですか?」と連絡あるんですよ。あの担任意地悪そうでしたが、自分の立場を悪くする間抜けには見えませんでした。

井川遙のピアノの先生もダメダメ!子供がどう言い繕うが、小学生ですよ?お金が関係しているわけですし、一度も親が顔を見せなくて引き受けるというのは、幾らなんでも常識がなさすぎです。もしかしたら、常識知らずと表現したかったのか?子供相手に自分の離婚の話するし。やっぱバカなんだは、こいつも。

次男がバスに無賃乗車しようとして捕まる場面、あり得ません。どこから見ても中学生以下の子です。いくら黙秘権行使と言ったって、大人の犯罪者と同じ留置所に入れるか?翌朝不起訴で釈放?どこの国の話ですか?こんな場合は少年課の刑事さんとか来て、普通は家を聞きだして迎えに来てもらうでしょう?何するか分かんない子を野に放つなんぞ、よっぽど犯罪だぞ。監督、国家権力に恨みでもあるのかね?

キョンキョンと役所広司の件は、もう書くのもバカバカしいので割愛。あの出来事が閉塞的な恵の心を打ち破った出来事にしたいんですよね、はいはい。

私がもっとも怒ったのは、竜平がショッピングモールの清掃の仕事についた時の描き方です。あんなお店の死角でパンツ見せて着替えさせるモールが、どこにある?あんな品のないことをして、速攻客から苦情が出ます。そしてトイレ掃除。何故素手でさせる?家庭のトイレだって手袋を使うのに、手袋なしで公共の場を掃除する人なんて、私は観た事ありません。これって、清掃の仕事を恥ずかしくて卑しい、底辺の仕事だと表現したい、確信犯的脚本では?

これが悪意でなくてなんでしょう。現在の竜平はそんなに卑しいのか?今のご時世なりふり構わず、自分のため家族のため働いている人はごまんといますよ。その人たちは、これを観たらどう思います?もう絶対許せません。

ラストの健二の演奏場面も個人的には噴飯ものでした。お金の見通しもなく、中学から音大付属へ受験ですか?だいたいここの家、最初から裕福ではないのですよ。だってあんな電車のすぐそばの家、土地は安いはずです。隣は空き地って、そう表現したいんでしょ?恵が「ボーナスが出るまで買い替えは我慢ね」って言ってたストーブは、量販店で8000円くらいで買えます。普通ボーナスが出たらって表現なら、エアコンでしょう?私は生活苦を表現したいと思ったんですが、それも見事に外されました。先生曰く、「あなた(健二)には才能があります」とは言ってましたが、ほとんど練習場面も出てきてないし、家にもピアノないし、あんな短期間であんな見事に演奏なんかできるの?小さい頃からピアノやってる人、怒れ!もしかしたら天才なのかも知れませんが、「天才とは一分の才能と九分の汗」なんだぞ!誰か偉い人に言葉かも知れませんが、私がこの言葉を読んだのは小学生の時、山岸涼子の「アラベスク」のノンナのセリフでした。なので、明るい未来を予見させるシーンも、私には憤慨以外の何ものでもあらず。

とこう言う風に、個人的には愛嬌もへったくれもない、トンデモ作品でした。この作品が描く世界は私のテリトリーで、うちの夫もリストラ復活組です。上司とけんかして会社なんか辞めてやる!と辞表を叩きつけたあと、泣いて妻から懇願され、プライドぺしゃんこになって、頭を下げて復帰した御主人も知っているし、夜の八時に帰宅後、食事を取ってお風呂に入って、また10時から働きに出る御主人も知っています。夫のお給料が減ったので、自分が早朝の給食作りに出かけ、9時から事務の仕事をやっていた奥さんも知っています。その人たちの頑張りを知る私には、こんないい加減なアプローチでね、「リアルに現代の世相と家族を映した見事な作品」とは、絶対認められません。反論お待ちしております。今回の私、怖いなぁ(笑)。


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