ケイケイの映画日記
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2008年06月29日(日) 「ザ・マジックアワー」




金曜日に観ました。今日「インディ」も観たので、サクサク大急ぎで書かなくっちゃ!結論から言うと、めでたさも小くらい。脚本が練っているようで粗いのですね。それでもそれなりに笑えたのは、ひとえに役者さんたちの頑張りがあったればこそのような気がします。監督・脚本は三谷幸喜。


とある港町・守加護。町を牛耳るギャングの天塩(西田敏行)の情婦マリ(深津絵里)との情事がばれたクラブ「赤い靴」の支配人の備後(妻夫木聡)は、天塩から、伝説の殺し屋デラ富樫を連れてくれば、命は助けてやると言いわれます。口から出まかせでデラとは友人と言っていた備後ですが、アテなどありません。そこで彼が思いついたのは、映画を撮ると偽って、売れない俳優を連れてきて、デラに仕立てるということ。白羽の矢が立ったのが、大部屋生活の長い村田(佐藤浩市)。備後は映画監督と偽って村田を口説き落とし、守加護に連れてきます。

前半は正直言って退屈でした。あんなプロットの連続で、騙し続けられるのが相当不思議。コメディなんだから、堅いこと言いなさんなと言われればそうなんですが、こういう作品でこの手の疑問が湧いてしまうと、かなり辛いもんです。

「黒い10人の女」や「カサブランカ」へのオマージュとも言えるプロットもありますが、これってオマージュなのかなぁー。どんなにこの作品たちが素敵だったのかを、もっと感じさせなくていいんでしょうか?唐沢寿明のプロットは「蒲田行進曲」の銀ちゃんみたいで、この辺は村田の気持ちを考えて、ちょっと胸が疼きました。でも前半は、なんかどうも監督の「僕って映画がほんとーに好きなんです!」という、思い込みに付き合わされているだけのような気がしました。

それを救ってくれたのが、上にも書いた役者さんたちの頑張りです。佐藤浩市は過剰に臭い演技で、こりゃ売れない俳優だわと実感させてくれて、さすがーと感じました。やくざの情婦なんて出来るのか?と思っていた深津絵里は、グラマラスなファムファタールを、艶っぽく好演してびっくり。悪女なんですが、どこか悲しげな元踊り子はとても魅力的でした。

西田敏行はそれこそいつもの過剰な芝居は鳴りを潜め、凋落気味のボスを、貫禄と哀愁たっぷりに見せ、こちらもさすがーと感嘆。その他寺島進、綾瀬はるか、小日向文世、伊吹吾郎、戸田恵子みんなみんなとっても上手かったので、まぁなんとか前半は乗り越えました。唯一妻夫木聡だけは、気に入らん。好青年の名残が残っているのがダメ。もっとお調子者っぽく演じなければ面白くないと思います。

後半になると、徐々に本当に映画への愛情が感じられるシーンの連続で、私の気持ちも高揚しはじめ、なかなか良い調子です。特に偶然映画館のスクリーンに映った、晴れの主役の自分の姿に涙する村田や、美術さんをはじめ、裏方さんと大部屋俳優であろう村田の深い繋がりは、日の当たらない人たちの、縁の下の力持ちがあってこその映画製作なんだと感じさせ、監督のまなざしの温かさも感じます。

ラストの本物のデラ富樫との対決もとっても楽しかったです。でもあの人が富樫なんて、なんか伏線がありましたっけ?意外な人が富樫なのはまぁいいんですが、せっかく劇画顔した、このハリボテの守加護に一番ぴったりの伊吹吾郎も出ているんですから、彼にももっと役を振って欲しかったなぁ。クラブのバーテンは世を忍ぶ仮の姿で、本当はデラ富樫以上の凄腕のスナイパーだったとかね。

ラストのマリの決断も心に染みるし、老いた村田のヒーロー・柳澤真一の語る「マジックアワー」のお話にも、ジーンと来ました。なので前半は帳消しには出来ないけど、それなりには楽しめました。でも長い!あと20分は切れます。そうすると、ぐっと締まって、私の文句も大幅に減ったかも?)(偉そうな)。それとぬぐい切れない、この安っぽさは何故?こんな豪華キャストなのに。確かにセットはハリボテで、無国籍風を醸し出していますが、B級テイストを狙っているなら中途半端です。何というか、味わいに欠ける気がするのです。

私的には三谷幸喜には脚本に専念して、監督は別の人に撮ってもらう方がいいんじゃないかと思います。才能は溢れるほどあるのはわかるのですが、あんまり器用な人じゃないみたい。その方が絶対傑作を撮っても貰える気がします。


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