ケイケイの映画日記
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2008年05月16日(金) 「最高の人生の見つけ方」




ヘビーな作品が続いているので、かったるいかなぁと思いつつ観てきました。しかしジャンルが全く異なるため、別腹で楽しめました。ニコルソンとフリーマンの共演、監督がロブ・ライナーと言う事観ましたが、同じようなテーマは多いし、観る前は「良いだろうけど、普通の作品」の域は出ていないだろうと思っていましたが、鑑賞後は大幅にポイントを上乗せしたくなった作品です。

大富豪のエドワード(ジャック・ニコルソン)は一代で巨額の富を築くも、四回の結婚は全て離婚という、孤独な身の上。カーター(モーガン・フリーマン)は大学一年の頃にできちゃった結婚し、大学は退学。以来三人の子供のため、自動車修理工として、油まみれの45年間を送ってきた甲斐あり、妻や子供たち、孫に囲まれた暖かい家庭を築いています。二人は病院で同室となります。水と油の二人には共通点がありました。余命半年なのです。かつてカーターが大学生時代、恩師から教わったのが「棺おけリスト」なるもの。死ぬまでにしたいことを書きだすのです。面白がったエドワードは、それを実行すべく、二人で病院を抜け出し、世界中を旅しにに出ます。

予告編を観た人が感じる通りの作品です。想像通り予定調和でお話が進みますが、少し視点をずらして彩られた小技が利いて、味付けに新鮮さがあります。

確かに大富豪でも孤独なエドワードは、カーターにより友情のなんたるかを知り、お金儲けより充実した世界を知ります。しかしエドワードにその思いを抱かせたのは、お金の力もあるという描き方です。

私がこの作品を観ようと思ったのは、予告編でフリーマンが叫ぶ「45年間も油まみれで家族のために頑張ったんだ!好きにさせてくれ!」を観たから。この感覚は中年以降の主婦の専売特許だと思っていたのですが、考えてみれば、世のお父さん方の大半は、肯く言葉なのです。うちの夫もそうでしょう。私は自分だけが頑張っていたかのように、そのことを忘れていました。

もうすぐ亡くなる45年も連れ添った夫が、自分ではなく、つい昨日まで見ず知らずだった人といっしょに過ごすことを選ぶなど、妻としては大変心寂しいことです。妻のバージニアの気持ちがとってもよくわかる。でも私がカーターと同じ境遇なら?と考えた時、ものすごくカーターの気持ちもわかるのです。子供を育てるのに必死になり、ぎりぎりのお金でやりくりし、休日に休みたくても子供のためにと、試合の応援や遊びに連れていったり、あくせく動いていたはずのカーター。

貧しくとも暖かい家庭を手に入れて、妻は優しく子供たちは良い子に育ったのだから、これが幸せなんだと、思い込もうとしてたはずのカーター。本当の自分の人生は、他にあったんじゃないか?と考えたとして、当然だと思うのです。

しかしそんなカーターの気持ちを翻らせたのは、エドワードの孤独な身の上ではなく、彼の財力でした。アフリカで本物のライオンに囲まれて「ライオンは寝ている」をのんびり歌ったり、本物のレーサーのように車を走らせたり、スカイダイビングしたり、ピラミッドを観たりと、カーターの人生の辞書にはお金がかかり過ぎて、なかったことばかり。たっぷり楽しんだカーターは、絶景の景色を観る時、この景色を妻といっしょに観たなら、もっと楽しいのだろうなぁと、きっと感じたのだと思うのです。思い込もうとしたのではなく、自分の人生は本当に価値のある幸せなものだったのだと実感したのが、エドワードに向けての「君は僕を夫に戻してくれた」という、言葉だったのでしょう。

何よりこれは、エドワードの財力を肯定していることだと感じました。こうした設定では、「家庭の愛>お金」で描かれることが多く、私は常々お金が否定されがちなことに、疑問がありました。エドワードは16歳から働いている、と語ります。学歴のことも出ないし、そんな若い時から働きづめなのは、親と早くに別れたのでしょうか?そんなバックに何もない人が、たった一代で「大統領にも会える」人になるのは、いかばかりの苦労があったろうと思うのです。こんな立派な地位まで来た人が、たかが嫁や子供がいないくらいで、それまでの人生が否定されるのは、絶対におかしいって。全く境遇の違う二人の老人の人生を、両方肯定して描いているところに、私はとても好感が持てました。

後半大急ぎで実行される「棺おけリスト」のミッションですが、荘大だった前半と比べ、どれもこれも小ネタばかり。しかしそんな小ネタは、人生の辞書にはなかったはずのエドワードが、次々こなしていきます。彼もまたカーターのお陰で、日常の小さな事柄への、感謝の気持ちが芽生えた様子を映していたと思います。

私がもう一つ気に入っているのは、エドワードと秘書トマス(ジョーン・ヘイズ)の関係です。そうとう偏屈で強情だとわかるエドワードですが、そんな彼にトマスは、ユーモア交じりの憎まれ口叩いたり、皮肉を言ったりするのです。そしてトマスの進言には、何故か素直に従うエドワード。エドワードの周りには、同じく死が間近のカーター以外は、誰もそんな人はいません。トマスが雇われている以上の、エドワードへの暖かい感情を感じさせるのが、とても素敵です。

幾らでも盛り上げる事が出来るはずの、エドワードと別れた娘の再会場面は重要視せず、トマスの存在がいかにエドワードにとって大切であったかを感じさせるラストは、ひとひねりした仕掛けがあって、とても心に染みました。それは人生において、一番大切なのは必ずしも家族だけである必要はない、とも感じさせます。死がテーマなのに、全体にとても明るく温かく、ユーモアに満ちている点も良かったです。色でいうと、オレンジ色かな?

あんな両極端な人が、すぐ仲良くなれるのか?という疑問がありましょうが、親がガンだった、そして自分は子宮筋腫の手術を受けた、この私がお答え致しましょう。「同病相憐れむ」とは、本当の話です。同室の人とはすぐ仲良くなっちゃうし、母が入院している時は、病室の外で看病している者同士、何度泣いたかわかりません。入院・手術・がんというキーワードが出てきたら、もう誰とでもお話出来る私がいるわけ。それほど病気や死とは、人の心を弱らせ強くさせ、そして浄化もしてくれるものなんだというのが、私の感想です。

予定調和で終わったというご意見も大いに理解出来ますが、観て損するような類の作品ではありません。何を観るか迷ったら、どうぞこの作品をご覧下さいませ。


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