ケイケイの映画日記
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2008年01月06日(日) 「ヒルズ・ハブ・アイズ」




面白い!初日の昨日、3時20分からの初回を観てきました。東京方面から上出来のホラーだと聞こえていたので、そんなに宣伝していないのに、劇場は大阪のスキモノ映画好き(←褒めてます)で満員でした。それでもおばちゃん一人客は珍しかったけど。席もおとなしそうな映画青年の横で、首尾よく端っこをゲット。大阪は一週間だけ、それも二回上映だけなんて、本当にもったいない!細々上映していたら、絶対口コミでヒットする作品だと思います。

25年刑事を務めたカーターは、妻との銀婚式と定年のお祝いを兼ねて、次女ブレンダ、長男ボビー、結婚している長女のリンと娘婿のダグと孫のキャサリン、そして愛犬のビューティとビーストを連れ、トレーラーでカリフォルニアまで旅行に出かけます。しかしその道中、核実験のために、突然変異で生まれた食人のフリークスたちが、罠をしかけて待ち受けていたのです。

冒頭いきなり殺戮場面が出ますが、それより効いているのは、のんびりした50年代のポップスが流れる中、核実験により吹き飛ばされたり廃墟と化した町、そして実験の傷跡にような姿で生まれでた子供や胎児の姿を映すオープニングです。60年代から70年代に日本で放送されたアメリカのドラマでよく目にした、健全で明るいアメリカの後ろには、恥部として隠されていた部分があるのだと思い知ります。

前半登場人物ひとりひとりのキャラを、手短ですが丁寧に描いているのがいいです。普通この手の作品では、そういうことをされると鬱陶しいもんですが、この演出はのちのちの展開に、とても上手く繋がっていました。子供たちはいやいやですが、親孝行だと思いついてくる姿に、昔観た健康的なアメリカのホームドラマが重なります。

小見出にじわじわ怖がらせた後、満を持して襲いかかるフリークスたち。超人的な力を感じるので、フリークスというより、ミュータントという感じもします。こういう作品は、最後に誰が残るかも予想するもんですが(するでしょ?)、襲われた残骸に、キューピー人形やぬいぐるみがあるので、赤ちゃんだって予断を許さないぞという気になります。

舅から生っちろく、使えない男だと嫌われていたダグですが、生死を賭けた生き残りの中で、暴力に目覚めたような力を発揮します。観ていてペキンパーの「わらの犬」のダスティン・ホフマンを思い出しました。男の本能であるのか、ダグ自身の本性であるのかはわかりません。しかしスプラッタというけれんを使いながら、人に潜む暴力性を浮かび上がらせるのは、凡百のホラーとは一味も二味も違う、格上を感じさせます。

血みどろの戦いの様子は、私はホラーやスプラッタには慣れているので、特別目新しいことはありませんでした。怖さよりも上手さが勝る感じです。しかし廃墟のような核実験下の家々に飾られたマネキンには、心が痛みました。カーター一家のような平凡で平和な生活を営む権利を奪われた彼らの心情を、薄気味悪くも色々考えさせる演出でした。

この作品は私は未見ですが、ウェス・クレイヴンの「サランドラ」のリメイクです。元作でも同じ名前だったビューティとビーストという犬の名前は、「美女と野獣」という意味でいいのかな?このワンコがね、とっても大活躍するんです。私は動物が苦手なんですが、飼うならやっぱり犬だなと深く思ったほど。砂漠で助けを探すダグが、うんざりしながら歌う「夢のカリフォルニア」には同情しました。随所にこの手の小技の演出が効いていて、それも作品の出来を底上げしていました。いくら物見遊山のホラーでも、観た後の満足感は、案外こういうところが左右されますから。

監督は「ハイテンション」のフランスのアレクサンドル・アジャ。「ハイテンション」は高評価でしたが、私的には説明がつかない部分がやたら多く、オチも早々にわかってしまったため、目新しい気はしましたが、そんなに面白くはなかったです。しかしハリウッドに渡ってのこの作品は、キワモノなりの格調高さも感じさせて上々の出来だと思います。目新しさよりしばらくは、しっかりした脚本の、オーソドックスな作風で行く方が良い気がします。


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