ケイケイの映画日記
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2007年10月09日(火) 「サウスバウンド」




今年70本目の作品。普通の人に比べれば遥かに多い鑑賞数ですが、こういう映画の感想文サイトの管理人としては、少し物足らない本数です。しかし月7〜8本ペースというのは、人が思うほど手当たり次第と言う訳ではなく、自分なりに厳選して観ているもので、そのせいか今年はあまり外した作品はありません。この作品も当初は観る気満々、しかし伝え聞く評判の悪さに止めようと思っていました。でももしかして面白いかも?私にはイケるかも?という想いはぬぐい切れず、結局久々のギャンブル気分で観ました。監督は玉石ごろごろ、何が出てくるかわからない森田芳光。

東京は浅草に住む小学校六年生の上原二郎(田辺修斗)。父一郎(豊川悦史)母さくら(天海祐希)姉洋子(北川景子)妹桃子(松本梨菜)の五人暮らし。父一郎は元学生運動の過激派で、現在は無職。母さくらの営む喫茶店で生計を立てています。一郎は社会制度に対して反骨心旺盛、常に破天荒な言動で、思春期の二郎を悩まします。とある暴力事件に二郎がかかわり、そのことが原因で都会生活にいやけがさしたさくらの提案で、家族は成人した洋子を残し、一郎の故郷・沖縄の西表島に移住することにします。

前半の東京パートは全然OK。最初二郎の先生(村井美樹)が、あまりにわざとらしいフリと笑顔なのが、こんな先生いるかよ!と気持ち悪かった以外は、楽しく観られました。確かに一郎の言動は常識からはみ出していますが、観ていて少々痛快です。「年金なんか払うか!」と一喝しますが、時節柄年金払ってくれとやってくる方が非常識なんじゃないの?と思うし、修学旅行の積立金に、学校と旅行会社の癒着を感じると学校へ乗り込む姿はカッコイイです。確かに子供たちにははた迷惑な父親だとは思いますが、しっかり妻子を愛しているのが感じられるのがポイント高し。ある意味頼りがいもあり、これなら妻が喜んでついていくのもわかります。無職というのはミソをつけますが、これだって夫婦で納得済みならいいんじゃないでしょうか?ヒモ夫が困るのは、妻が働いて欲しいと思っているの、にぐうたらしているケースだと思います。

体格にも差があって、本当に子供っぽい子から二郎の様に少年に移行している子など様々なんですが、いちように思春期に入り、色気づきはじめる少年少女たちの描写が楽しく微笑ましいです。そしていじめの描写が生々しい。中学生の子が小学生の子を手下にして恐喝したりは、私も聞いたことのある事実です。父親に知れると大ごとになるとわかっている二郎はさておき、他の子たちも誰も親にも先生にも相談しません。事後にのこのこ出てくる校長(平田満)などの全く的外れの指導の仕方を見ると、これは助けを求めても無駄だと思ってるんだとわかります。今時「母子家庭=問題ありの家庭」なんて、他の父兄の前で言う教師なんかいるか?親として大人として本当に情けない気持ちになりますが、でも実際はあんなんじゃありません。マスコミにデカデカと連日困った教師の記事が出ますが、現役中三生の母の私の実感としては、圧倒的に生徒のために頑張る先生の方が多いです。この辺は父一郎の反骨心を正当化するため、教師=体制側として、わからずやに描いているのでしょうが、子どもたちの日常の描き方のリアリティに比べて、これでは少々不満が残りました。

まずまずだった東京パートですが、これが西表島に移住するところから、個人的に違和感がくすぶってきます。二郎のごたごたが原因で、母の提案での沖縄行きです。父一郎の故郷ということで、辻妻は合いますが、正直実際に子育てしている身からすると、これくらいで?という気がします。もっと葛藤があったり、周囲の人との衝突の描き方に工夫がなければ、周囲と自分たち夫婦の意見が合わないから、さっさと沖縄に逃げたように私は感じました。この描き方では親として幼稚です。

実際幼稚だったのでしょう。移住するには無計画過ぎて、色々揉め事が起こります。自分の生まれ育った土地を大切に守りたい気持ちはわかりますが、あの描き方では無理がある気がします。ここでも土地を買収する人たちや法律を、体制側=悪と決め付けて描いているので、ここも違和感を増大させます。何でもかんでも体制側が悪じゃなぁ。西表島の風景は美しく、島の人々はみんな優しく、生活はのどかで心が洗われる様ですが、どうもいいとこばっかし映して、生の生活感がありません。島での上原一家の生活ぶりが上滑りなので、そこで一生暮らしていくという気概より、都会の生活に疲れた人が一時癒しに来ているように感じてなりませんでした。

そしてオチで決定的に私は大噴火。以下ネタバレ(ネタバレ以降にも開けて文章ありなので、読んでね)














子供を置いて夫婦で逃亡するって、あれは何?ちょっとの間だけ我慢してまた闘争すればいいじゃん。父ちゃんだけ逃げれば?母ちゃんは子供たちと残って、「後のことは任せて」ならば私はこんなに怒ったりしません。むしろそれが内助の功ってもんでしょ?それとも牢屋の中から闘争する方が、もっと子供に自分たちの生き様が見せられるじゃん?その方がカッコイイよ。何も全て社会制度に迎合することが良いわけじゃないし、こんな不器用に自分のスタンスを貫く人がいても全然かまわないと思います。しかしこんなに軽やかにファンタジーっぽく、子育て放棄を肯定的に描くことには、私は納得出来ません。結局この夫婦は、一見ポリシーがあるようで、中身なく反社会的に生きることだけが目的だったように感じました。学生運動に身を投じていた人たちは、結局この二人のようなもんだったんだなと観客に思われたら、かつて本当に国を憂いて闘っていた人たちが浮かばれません。















ネタばれ終わり。

主要人物は総じて良かったですが、子役の素人臭さはまぁ見過ごすとして、西表での現地の人々は、学芸会以下の演技でびっくり。何故普通の役者をつかわなかったのか疑問です。ここは本当の現地の人に拘らなくても全然大丈夫だと思いました。

他の役者は総じて好演。トヨエツは破天荒な父ちゃんをチャーミングに演じていました。元々土着の大阪人ですから、こういう演技をするのは好きなんでしょうね。「いらっしゃ〜い♪」の間合いは良かったなぁ。彼は同世代なのですが、子供の頃はきっと毎週吉本新喜劇見ていたはずです。天海祐希は普通の奥さんが案外似合う人で、イメージよりずっと器用な人だと思います。田辺君は現在は下手ですが(!)、ルックスを含めてなかなか将来性はありとみた。桃子役の梨菜ちゃんはほんとに笑顔が可愛くて、この子の愛らしさと、巧みに沖縄の方言のイントネーションを使いこなす警官役の、松山コウイチの気弱な好青年ぶりが出色でした。後はお姉ちゃんか。彼女は印象に残っていません。普通でした。

私的にネタバレ部分でぶち壊された作品でした。それが気にならない方は、緩いコメディとして、それなりに楽しめるのではないかと思います。


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