ケイケイの映画日記
目次過去未来


2007年07月29日(日) 「私たちの幸せな時間」



韓国のベストセラー小説をあの蓮池薫さんが翻訳、その映画化作品だと、だいぶ前に聞き、是非観たいと興味を引いた作品です。公開間近になり、監督は私の大好きな「パイラン」「力道山」のソン・ヘソンと知りました。細かいところで出したカードの説明がなかったり、映画的策儀が過ぎたりと、作り込み不足のところがあって、もうちょっとで傑作だったのになぁと残念ですが、これでも充分深々と感動させてもらいました。監督との相性は大切だぁ。

裕福な家庭に育ったユジョン(イ・ナヨン)は、つい最近人生で三回目の自殺未遂をしています。かつては成功した歌手でもあるユジョン。そんな彼女を心配する伯母のシスター・モニカ(ユン・ヨジョン)は、ユジョンを彼女に会いたいというある死刑囚の慰問に連れて行きます。その死刑囚ユンス(カン・ドンウォン)は、強盗殺人で三人を殺害していました。最初最悪の対面であった二人ですが、成り行きで毎週木曜日ユジョンのユンスへの慰問が始まります。

死刑囚と交流を深めていく女性が題材というと、「デッドマン・ウォーキング」が連想されますが、あちらも素晴らしい作品でしたが、テーマは死刑制度の是非を問うものでした。この作品も確かに死刑制度についても考えさせられますが、それ以上に人を支えるということ、愛を与えるということの意味や意義を感じさせる作品です。

最初頑なに早く死刑をと望み、シスターモニカやイ主任(カン・シニル)の善意も受け入れないユンス。乱暴者でふてぶてしく観えた彼が、殺した遺族に罵倒され涙を流し謝る姿は、いやに素直に謝るなぁとも思えましたが、何かその奥に理由があるのだと感じさせ、生来のワルではないユンスの人柄を垣間見せます。これ以降母親に反抗し続けるユジョンの姿や、何故彼女が何度も自殺しようとするのか、ユンスが何故ユジョンに会いたかったのか、謎が明らかにされていきます。。その説明の挿入の仕方やタイミングが的確で、素直に心を揺さぶります。

シスターモニカは、二人は似ていると言います。誰にも打ち明けられない辛い秘密を持ち、孤独と孤立を噛みしめる日々を送る二人。経済的には大変な落差を持つ二人の苦悩は、人生の苦さはお金だけでは解消されないとも、控えめに教えてくれます。

ユンスの心を理解出来るようになったユジョンは、彼の信頼を得たいため、人生で一番哀しく屈辱的な出来事を、ユンスに告白します。このエピソードは大変心を打たれます。心に傷を持つ人を癒すには、やはり腹を割り自分の傷を告白することではないかと思うのです。心を裸にした時、人は必ずその相手を受け入れるはずです。お互い違う苦しさですが、壮絶な傷は人生を絶望するのに充分で、二人は急速に接近します。

こうして毎週木曜日の10時から1時まで、「私たちの幸せな時間」が繰り返され、段々人間らしい豊かな感情を取り戻すユンス。塀の外に行けないユンスのため、代わりに彼の行きたい場所の写真を撮り、毎回見せるユジョン。それまでのささくれだった彼女からは想像も出来ない生き生きした表情は、ユンスを思う心が、いつしか彼女の心を癒しているのだと感じさせます。

娘の反抗に手を焼くユジョンの母は、娘に見合いを勧めます。「女は愛されて暮らすのが幸せよ」と言いますが、そうでしょうか?愛されることを望むのは、相手に求めることです。ユジョンは愛されたかった母に愛されず自殺未遂を繰り返しました。愛するということは、心や時間を相手に与えることだと、私は思います。愛されることに裏切られたユジョンを救ったのは、自分と似ているユンスの心を救いたいという「愛する」行為にあったはずです。愛すると言う感情は、自分を裏切りません。私も愛されるより愛する方が幸せだと思います。

この作品には「赦す」という言葉も重要なキーワードです。二人の人が喉の奥が焼けつくような気持ちを振り絞りながら、心の底から憎い相手に「赦す」と伝えます。「赦す」という言葉は相手のためではなく、自分を慰める癒す言葉なのだと感じるのです。

「この作品の刑法上の表現は、フィクションです」と、エンディングに出てきますが、死刑囚が独房ではなく雑居房にいたり、囚人たちのあまりのいい人ぶりには、ちょっと疑問が残ります。ユンスの彼女も、あれからどうしちゃったの?刑務所の中で、やすりを使ったのがばれたのに、何故怒られないのか?ユジョンの母の扱いも、あれではただのモンスターめいた、娘を支配するだけの人に観えます。もう少しこの母の背景を語り、母親への作り手の弁護があれば、ユジョンの変貌がもっと感動的になり、作品にぐ〜んと深みが増したと思うので、残念です。

カン・ドンウォンは初めて観ました。青春スターのイメージしかなかったのですが、なかなかの好演で良かったです。案外任侠ものなんかも似合うかも。イ・ナヨンは、ちょっとキツメの美貌の持ち主で、ユジョンの複雑な心の変遷を、こちらも好演でした。「恋愛睡眠のすすめ」でも感じましたが、主役の相性はとても大切です。

シスターモニカの、「私は伝道に来たのではないの。宗教なんかわからなくてもいいの。あなたが安らいだ心にさえなれば」という言葉が、とても印象的です。教義に振り回されず、相手のためをまず第一に考える立派なシスターに巡り合えたのも、それもユンスの運命だったのでしょうね。「安らかに逝く」、ということの意味を深く考えさせられました。


ケイケイ |MAILHomePage