ケイケイの映画日記
目次過去未来


2007年02月26日(月) 「幸せのちから」


延び延びになっていた作品、日曜日に友達と観て来ました。上映から一ヶ月ほど経つので、もうだいぶ空いているだろうとゆっくりお喋りして劇場に入ったら、超満員でびっくり!人気のウィル・スミスの作品ですが、彼はアクションの印象が強く、こんな地味な作品でも神通力が効くのかと意外でしたが、どうもこれには画像のスミスの実の息子の、ジェイデン・クリストファー・サイアス・スミスの力が強い模様。実話が元の作品です。

医療機器のセールスマンのクリス(ウィル・スミス)は、妻リンダ(タンディ・ニュートン)と息子のクリストファー(ジェイデン・クリストファー・サイアス・スミス)の三人暮らし。一攫千金を夢見て、有り金をはたいて購入した医療機器はほとんど売れず、クリストファーを中国人街の無認可の保育所に預けて、リンダは一日16時間も働き家計を支えますが、毎日の生活費にも事欠くありさまです。方向転換して大手の証券会社への研修生になる足がかりが出来るクリスですが、皮肉なことに妻が彼に愛想をつかして出て行きます。研修生活中半年は無給。家賃も払えずアパートを追い出されたクリスは、息子を抱えながらホームレスまがいの生活をしながら、正社員への道を目指します。

このお話、チラシや予告編が壮大なネタばれでしょう?妻に出ていかれ、幼い息子を抱えたホームレス同然の男が、やがてアメリカンドリームを掴むまでというお話なのは、散々あちこちで読んでしまいました。なのでクリスがどんなに頑張っていわゆる下流から這い上がるのかと思っていたら、この辺はちと中途半端です。

若く美しい妻は、化粧もせず所帯やつれが隠せません。対する夫は信用が第一のセールスマンなので仕方ないですが、パリっとまでは行かなくても、スーツを着てのお仕事で、汗まみれの彼女とは対照的。昼の仕事で稼げないなら、夜寝ないで働けよ、と思った私は鬼嫁か?息子を預けている保育所にいちゃもんをつける様子は教育熱心ですが、父親として向かうベクトルが少々間違っています。これでは妻に愛想を尽かされても当然の気が。

研修生になっても、子供を抱えて寝る場所にも困る生活にはハラハラさせられるのですが、イマイチ彼が大企業に選抜されるような優秀さが感じられません。ちょっとしたきっかけで数々の契約を結ぶのは理解出来ましたが、それも苦労があったはずなのに、台詞だけで終わらせます。ここはもっと有能な働き振りを見せるべきでは?そして一番疑問なのは、時代が1981年にしては、全く黒人差別を感じさせません。実話が元ですが、この辺は多分だいぶ脚色しているのでしょう。でないといくらアメリカンドリームと言っても、これでは世の中甘すぎです。

しかし視点を変えて、父と息子の愛情物語と観ると、このお話は大変丁寧に二人の心のひだを描いていて、秀逸です。クリスは父親を知らずに育ち、お手本がありません。溢れ出る父としての愛情を息子に伝えるのは、何が何でも一緒に暮らすことだったのでしょう。車を失おうが家を失おうが、妻が去ろうが、彼は子供だけは頑として手放しません。生活が安定するまで福祉施設に預けるとか、当面は妻に息子の面倒を頼むとか、色々出来るのにそれもせず。気持ちはわかるけど、少々頑固すぎやしないかと思っていた私に、クリストファーの台詞が全て解決させてくれました。

たくさんのホームレスを無料で一晩泊まらせてくれる粗末なベッドの上で、息子は父に「いいパパだ」とにっこり笑って語りかけます。私は胸が詰まりました。5歳の子が、全く自分以外の世界を知らないことはないでしょう。暖かい布団も清潔なシャワーさえない浮き草以下の自分の境遇に、薄々感じることはあったはず。その前に「ママは僕のせいで出て行ったの?」と、クリスに尋ねます。

クリスはずっと息子の手を離しませんでした。リンダも息子と暮らしたかった。でも彼女は結局息子の手を離したのです。クリスもリンダも子供を愛していました。しかし愛以上に、クリスは息子がいなくては生きていけない人なのです。依存という言葉が最近あまりよくない使われ方で表現されますが、必要という言葉に置き換えるとどうでしょうか?クリスが生きていくのには、息子が必要だと。自分の存在が、父から愛され必要とされているという喜びが、過酷な境遇をこの健気な5歳の男の子が受け入れ頑張った理由だと思います。親の愛とは、お金や物ではないのですね。

サクセスストーリーとしては物足らず描き足りませんが、父子愛として観れば、心温まるお話です。映画的にもそちらへ力点を置いて描いていたと思います。その辺がヒットの理由でしょう。オスカーにノミネートされたスミスの演技では、寝るところがなく、駅のトイレで息子を抱きながら一晩明かす時の涙が良かったです。親としてこんな情け無いことはなく、その気持ちが充分伝わってきました。ジェイデンはとにかく可愛い!天真爛漫で無邪気、偉大な父に一歩も引けを取らず、というより、実の親子が醸しだす自然で暖かな雰囲気は、ジェイデンが引き出したと思います。次はパパ抜きで出演するかな?

簡単にクリスがその後、会社を作って成功する字幕が出ますが、私はそれより、就職が決まったクリスが息子を連れ、NYに旅立ったリンダを迎えに行って欲しかったです。実話が元なので無理なんでしょうね。


ケイケイ |MAILHomePage