ケイケイの映画日記
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2006年09月15日(金) 「マッチポイント」


う〜ん・・・。悪くなかったんですけど、面白かったんですけど、好きな作品じゃありません、と結論から言ってみる。ジョナサン・リース・マイヤーズの色男ぶりや、画像のスカーレット・ヨハンソンの妖艶さが大好評で、それは確かに上々でした。でもなぁ、私は監督ウッディ・アレンの無神経さというか意地悪さというか、そういうものを感じてしまって、だから後味悪かった作品です。

イギリスのロンドン。貧しい生い立ちからプロテニス選手になったクリス(ジョナサン・リース・マイヤーズ)は、今は引退して高級会員制テニスクラブのコーチをしています。そこへコーチを受けにきた上流階級の青年トム(マシュー・グード)に気に入られたクリスは、家族といっしょのオペラの公演に招かれます。そこでトムの妹クロエ(エミリィ・モーティマー)と出会います。クリスに夢中になるクロエ。上流階級の世界に入り込みたい野心の持つクリスは躊躇無くクロエを受け入れます。ある日トムの家のパーティに招かれたクリスは、トムの婚約者であるノラ(スカーレット・ヨハンセン)という魅力的なアメリカ人女性と出会い、一目で惹かれます。その後トムとノラは破局。クロエと結婚していたクリスですが、ノラとふとしたことから再会後、不倫関係に陥ります。

前半はとってもグッド。ジョナサンのハンサムだけどちょっと卑しさを感じさせる風貌やキャラは、確かに「太陽がいっぱい」や「陽のあたる場所」の貧しさから必死に成り上がりたい青年を彷彿させます。しかしどこか上流階級に溶け込めず、ノラに魅かれたのはその色香のせいだけではなく、同じ匂いのする彼女に、懐かしさや救われる孤独を見出したからでしょう。ノラに対する恋心に、純粋ささえ感じさせます。

スカーレット・ヨハンソンがもぉ〜。今21歳?ウッソー!30過ぎでも出せないような爛熟の色香を漂わせ、こりゃ男なら誰でもなびくわなと納得。「あなたは結婚まで漕ぎ着けるわよ。私とは違う」とクリスに語る姿は、捨て猫のようなほって置けない風情を醸し出し、ちょっとビッチな隙のある様子も含めて、あぁもう完璧。繰り広げられる数々のクリスとの痴態も、すごく刺激的でエロチックです。女の私でもいつまでも観ていたいような、クラクラ目眩がするほどの魅力が全開です。

妻の実家ヒューイット家の人々は、由緒正しき家柄なのでしょう。自分たちの財力と階級には、下々の者は誰でもひれ伏し憧れると思っていらっしゃる。それを無自覚に露にするのでいやみたらしいですが、アレンの皮肉り方が上手いので、滑稽にも感じます。ノラの言うクリスはOKで何故ノラはダメなのか?ノラは「嫁入り」する身分なので、ヒューイット家の一員として品性も家柄も問われますが(だから卑しき身分でビッチなノラはだめ)、クロエは一度パブのオーナーと駆け落ち騒ぎを起こしたいわば「傷物」。封建的保守的な上流社会の噂話に出ているはずです。いいところの結婚話は無理っぽい、そこへ現れた身分卑しき容姿端麗の青年は、如才なく自分たちにも溶け込めそうだ。自分たちが援助して大きい顔が出来るので、娘はいつまでも親の手元、願ったり叶ったり・・・。上流階級って案外スノッブなのねぇと、これも上手く皮肉って面白かったです。

しかし後半になると、そのウィットの富んだ皮肉が、私はには一気に悪意に感じられたのです。


以下ネタバレ













なかなか妊娠しないクロエが不妊治療に懸命な中、皮肉にもノラが妊娠します。しかしこの女二人がギャーギャーギャーギャー、鬱陶しいったらありゃしない。妻の頭は妊娠でいっぱい、子供さえいれば何となく鬱蒼とした、この家の空気も晴れるのよと思い込んでおり、夜は「もう一週間セックスしていないわ」だは、朝は朝で「今出来そうなの。出勤前にしない?楽しいわよ」って、アホかあんたは。夫はまるで種馬扱い。全くお嬢様ってやつは、何でも自分中心だね。対する愛人は、子供が出来た、あんたのせいだ、離婚して私と結婚するって言っただろう、あんたが言えなきゃ私が言うわよと、責めまくる。あのファム・ファタールぶりやいずこ、ただのおバカなあばずれに成り下がってしまいます。あのね、あんたが言ったんでしょう?「私と寝るようなヘマをしない限り、あなたはクロエと結婚出来る」って。そんなヘマするような男が、あんたのために今の生活を手放すわけないでしょう?クリスが両方から逃げたくなって当然よね・・・

あれ???

それっておかしくない?

どうして私は彼女たちに同情しないのか?良き家庭を夢見て、子供のいないわが身を嘆き、早く子供をと若妻が思うのはもっともなハズ。今まで男に程よく弄ばれ捨てられて、もう2回も堕胎しているノラ。可哀想なノラ、哀れなノラ、今度こそ絶対子供が生めますように。そう思って当然なのに、私が鬱陶しく彼女たちを感じるのは、妻と愛人の間でコソコソ渡り歩き、お里の知れる卑屈なな小心者さを感じさせるクリスを含め、この三角関係を意地悪く面白がってアレンが描いているからのような気がします。上流階級を描く時の皮肉は下々の目線が面白かったのに、男女を描く皮肉は、アレンの女修行がそうさせたのか?しかし私は無粋者で色恋沙汰の修羅場も経験ないので、このラブアフェアをスリリングだと楽しめる器量がありません。何か不愉快なのだな。

この後ノラの始末に困ったクリスは、ノラのアパートの隣の老女も巻き込んで、彼女を殺害します。しかし「運の良い」クリスは逃げ切ります。これからのクリスの人生は、罪の意識と妻の実家の重圧に押しつぶされる、辛い人生だと暗示していますが、これもどうも私は納得いきません。運だって金次第ってか?何もクリスが捕まればいいってもんでもないですが、もうちょっと捻らんかいという感じ。例えばですよ、クリスは間違ってクロエを殺した、目撃したノラは自分の産んだ子をクロエとの子ととして、クリスに育てさせる、そしてクロエの子は自分が育てる。これで一生ノラにとってクリスは金の成る木・・・ってのはいかがでしょう?なんか「氷点」とか吉屋信子の少女小説みたいかな?今の時代なら昼メロの「牡丹と薔薇」の世界かしら?

そういうすごーく俗っぽい内容を、グイグイ引っ張って見応えある作品にしたアレンの力量は素直に認めます。完成度は高し、でも私は好きくない作品なのでありました。


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