ケイケイの映画日記
目次過去未来


2006年04月21日(金) 「寝ずの番」


監督のマキノ雅彦とは、俳優の津川雅彦のこと。母方の祖父であるマキノ省三の苗字を取り、初監督作品にクレジットしたという訳です。上方落語の噺家の世界を描き、艶笑話の小ネタの中に、師匠と弟子の親より深い絆を絡ませて、下ネタ満載なのにクスクス笑えてやがてしんみり、上々の出来に仕上がっていました。

上方落語会の重鎮・笑満亭橋鶴(長門裕之)の通夜の「寝ずの番」をする弟子達(笹野高史、岸辺一徳、中井貴一、木下ほうか、田中明)や女将さん(富士純子)、弟子の妻たち(土屋久美子、木村佳乃、真由子)の様子を、たっぷりのユーモアとさらっとした情感で描いた作品。

もういっぱい笑いました。上方落語はあまりわかりませんが、そこは土着の大阪生まれの私、子供の頃から米朝、松鶴、文枝の落語は、テレビで何度も目にしていますし、タレントとしてテレビ出演する噺家もたくさん見ています。名前からして橋鶴なる人物、亡くなった6代目笑福亭松鶴がモデルでしょうか?弟子の鶴瓶の番組に出る時は、この爺さん、こんなにモウロクして落語出来るんかいな?の、お年寄りの愛嬌振りまくりだったのが、高座に上がると一転、貫禄ある姿との落差に感激したものです。うんうん、雰囲気出てるー。

奥さんもこの作品同様、元芸者さんで後妻さん、弟子たちから「あーちゃん」と慕われてたところも一緒。あーちゃんとは、お母さんという意味の幼時言葉ですが、関西だけかな?でも松鶴の息子は噺家は廃業したはず。ほな息子で弟子の岸辺一徳のモデルは、この作品でも協力をしている米朝一門のぼんぼん・小米朝かな?などなど、思い巡らしながらの鑑賞も楽しいです。

性器の俗語がいっぱい出てくるし、子供が好きそうなトイレネタも満載で、艶笑話としてそれらが小ネタで故人の思い出としてつながれますが、下品な感じは全然しません。これは出演者のキャラクター、演技によるところが大きいかと思います。若手と言えるのは監督令嬢の真由子くらいで、他は年齢も中年から熟年といえる芸達者ばかりで、かつては濃く暑苦しい演技だった人も、適当に油が抜けてとっても良い感じ。現場は楽しかっただろうなぁと思わせるほど、皆さん嬉々として演じているのが、見ている方も楽しくて。人間幾つになっても、考えることは若いというか、成長しないというか。私も中年といえる年になっても全然成長がないのを自覚してしるので、ちょっとホッとしたりもします。

全く問題なし、と言いたいのですが、残念ながら全体に作品を包む「粋と艶」は、どうも上方の色もんの世界が舞台なのに、江戸前に感じるのです。出演者の関東出身組も上手に大阪弁を喋り、京都出身の長門裕之の方がおかしく聞こえたくらいなのですが、どうも私には違和感がある。何かと言えばたとえ難いのですが、私が子供の頃からラジオやテレビで慣れ親しんだ、芸人さんたちとは違うのです。それを一番感じたのは、芸達者の誉れ高い堺正章が、作品から浮いていたことです。

お芝居が悪いというよりも、あれは尼崎のタクの運ちゃんでは絶対ないです。元工場の社長も違うなぁ。尼崎は私の住む生野と雰囲気の似た猥雑なバイタリティーのある町ですが、あれではちょっと綺麗にまとまり過ぎ。桂ざこばなんてキャスティング、ダメかしら?ほんまもんの噺家に素人の役なんて、これも粋ですよね?

本物の芸人・田中明がいい味出しているのはともかく、木下ほうかの突っ込みの間合いの絶妙さや、普段使わない芸人言葉の大阪弁を滑らかに操り、出色でした。大阪の人なんかしら?と検索すると、吉本新喜劇にも出ていたとか。やっぱりなぁ、肌で覚えるんですよね、こういう間合い。今では名優として名高い岸辺一徳も、そうやこの人は京都出身、元タイガースのサリーなんやわと思い出させる楽しさでした。でもなんと言っても、見ものは長門裕之の死体の演技だと思います。

師匠に続き、高弟、おかみさんの死去など、次々笑満亭一族を襲うのですが、みんなみんな明るく楽しく故人を冷やかしながら、いっぱいの感謝に溢れていたのが、胸にじーんときてホロッとします。師匠の時よりおかみさんの方がお弟子さんたちが泣くのも、なんかわかるなぁ。ただずっとおかみさんは、「ねえさん」か「あーちゃん」と呼ばれていました。「ねえさん」は自分の兄弟子の妻や女性の先輩芸人につく言葉で、上方の世界でも、師匠の妻は「おかみさん」ではないのかしら?この辺がずっと疑問に残りましたが、私の認識不足かもしれません。

原作は故中島らも。さすがは灘中灘高出て、某大阪の私大に進んだ人だと思える面白さです(褒めている)。らもさんの頃の某私大のレベルは、「東大に合格するより、その大学を落ちるほうが難しい」レベルだったと思います。今はトンデモないみたいですが。そそ、ちゃこなど、地方によって女性器の俗称は違いますが、大阪の誇る女優さんに「紅萬子」という方がおられます。そのまま読んでね。ちなみに東京やNHK出演時は、「くれないまこ」と呼称されるのだとか。そのままでええやんねぇ〜。その昔のプロレスラー、ボボ・ブラジルは、九州ではどう呼ばれたんでしょ?


ケイケイ |MAILHomePage