ケイケイの映画日記
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2006年02月15日(水) 「ホテル・ルワンダ」


月曜日にとめさんと九条のシネ・ヌーヴォで観て来ました。この作品は地味で重たい内容が日本では向かないと思われ、日本公開がオクラ入りになったのを、ネットを中心に上映署名運動が始まり、やっとこ公開にこぎつけた作品です。昨年度のオスカー作品賞の候補作で、映画好きには名の通った作品であったことから、蓋を開けると各地で大ヒットの模様で、月曜日にも関わらずヌーヴォも大盛況でした。完成度云々を問う前に、実話という重みの前には、素直に真摯に作り手に拍手を贈りたくなる作品です。

1994年、アフリカのルワンダの首都ギガワ。ルワンダは多数派のフツ族と少数派のツチ族とが共存していましたが、内戦後フツ族有利に社会は動いていました。ベルギー系の4つ星ホテル・「ミル・コリン」の有能な支配人
ポール(ドン・チードル)は、ある晩我が家に帰ると、暗闇の中で妻子と隣近所の人々が集まり、息を潜めて一部屋に集まっていました。フツ族出身の大統領が暗殺され、それを待っていたかのように、フツ族によるツチ族の虐殺が始まったのです。ポールはフツ族でしたが、妻タチアナ(ソフィー・オコネド)はツチ族出身。フツ族のポールを頼ってみんな集まっていたのでした。外国資本であるため外国人が数多く滞在し、迂闊に手出しできない「ミル・コリン」へひとまず避難することに。「ミル・コリン」へは、同じ思いのツチ族の人々がやってくるのですが・・・。

ルワンダの内戦は、確かに10年ほど前テレビや新聞に報道されていて、私も記憶にあります。しかし当時はなんて悲惨なと思い報道を見ていましたが、何かリアクションすることもなく、忘れていました。そんな私を見透かしたように、ルワンダの内戦を報道が各国に流れるのを知ったポールが、「これで世界中の人が手を差し伸べてくれる。」と喜ぶのに対し、アメリカからやってきたジャーナリスト(ホアキン・フェニックス)は、「そう思うか?他の国の者はディナーの時に放送されて『まぁ可哀相に』と思うだけだよ。」と語ります。自分のことだと感じ、恥ずかしくなった人は私を含めてたくさんいたでしょう。

平和維持軍が現れ、やっとホテルに集まった人たちが救出されると喜んだのもつかの間、ルワンダに派遣されていた平和維持軍の大佐(ニック・ノルティ)は、外国人だけを救出し、ルワンダの人々を見捨てます。「我々は平和維持のためにきているのであって、平和の創設者ではない。君は白人でもないし、ニガーですらない。ただの黒人だ」というような言葉をポールに語ります。

ポールは今まで有能な支配人としてルワンダの将軍、各国の要人、平和維持軍の大佐などに如才なく接し、自分を冷静な目で高く評価していたでしょう。それは驕りなどではなく、自分の職業に対してのプライドだったように思います。それが力のある国からみると、ただの黒人、死んでも何ら問題ない人間、そういわれたも同然なのですから、ポールの忸怩たる思いや、いかばかりであったかと思います。自分だけ脱出する時、「自分が恥ずかしい」という言葉を残すジャーナリストに、責められない気持ちともどかしさとで、やはり自分も同じだろうなと感じました。

しかしこの後からのポールの行動は、実話という重みを最大限に生かす展開となります。ポールは、政府がいうところの「ゴキブリ」を匿う彼に反抗的な従業員に、種族に関係なく、滞在者は客としてきちんともてなし、自分の仕事をきちんとこなすように厳しく注文します。これがフィクションなら、出来すぎ、あざといという言葉も出ましょうが、これは実話。人間が土壇場になって出る行動は、その人の本質でしょう。ポールの高潔な行動が真実であるということに、心が揺さぶられない人はいないと思います。

そしてポールはお金や貴金属など、貢げるものは貢いで、巧みに話術を駆使し、なんとか脱出の糸口を見つけようとします。そんな彼に、人は清濁を併せ呑んで、清を取れるようになるのが大切なのだとも教えてもらいます。

日本で公開が危ぶまれていると聞き、感動はあっても映画的には面白くないのかと思っていましたが、とんでもない。ポールたちは?ツチ族は?ああ言いながらも何か方法はと考える大佐は?そしてルワンダという国はどうなる?と、次々サスペンスと言っても良いような息詰る展開で、娯楽色もたっぷり。行き詰る中感情も痛く刺激されるなど、社会派娯楽作として、一級品です。何故これがオクラ入りだったのか首を傾げると、とめさんとも語りました。

虐殺の様子は過剰に演出せず、たくさんの死体を見せるに留まり、流血は少なめです。しかし政府のラジオ放送で、何度も「ゴキブリのツチ族」と流され、冷酷で卑劣なこの言葉は、流血シーン以上の深々とした恐ろしさを感じさせます。しかし悲惨さばかりではなく、褐色の肌のルワンダの人々は、その容姿からひ弱さよりたくましさや力強さを感じさせ、観ながら希望が抱きやすかったです。これが白人だと、絶望的な気分が先に立つかと思いました。

私が中3の時の社会の先生は50半ばのはげ頭の先生でした。人種差別の話になり、「差別をなくすのは異人種での結婚を促し、混血の子供をたくさん作ること。」と授業中にお話されたのを思い出しました。その時はそんなものかと思った私ですが、ポールと妻は別の種族です。妻がツチ族でなかったら、彼は同じ行動を取ったかな?と思います。30年経って、やっと先生の
言葉が実感として理解出来ました。お元気なら、このことを伝えたく思います。公開の劇場は少ないですが、是非足を運ばれることをお薦めする作品でした。


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