ケイケイの映画日記
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2005年12月20日(火) 「キングコング」


面白ーい!最高!ハリウッドの娯楽大作と言えば、最近は大味と相場が決まっていますが、それを覆す中身の濃さです。美女と野獣を題材に、伝統的なアメリカ映画の楽しさとヒューマニズムを表現しながら遊び心もしっかり加え、今の時代感もスクリーンから香らせています。やっぱりピーター・ジャクソンはただもんじゃないなぁ。

1930年代ニューヨークの初頭。未だかつて観たこともない冒険映画を取りたいカール・デナム(ジャック・ブラック)は、撮影クルーを連れ危険な航海に出ます。そこには見出した新人女優アン・ダロウ(ナオミ・ワッツ)と、半ばだますようにして連れてきた実力のある脚本家ジャック・ドリスコル(エイドリアン・ブロディ)も加わっていました。デナムの目指す「髑髏島」に着いた一行は、そこで巨大なゴリラのような生物に出くわすのです。

最初長尺の3時間15分と聞き、一瞬ひるみましたが(長い作品は嫌い)何の何の、作品の雰囲気を1時間ずつ変えて、三部構成のように作ってありますので、飽きずに集中力も減りません。

最初のパートでは恐慌のニューヨークの、華やかさと貧しさが混濁した時代をしっかりした撮影と美術で表現し、主要三人のキャラを深く印象付けさせます。ナオミ・ワッツは最初彼女が演じると聞き、アンには少々年がいきすぎ(37歳)ではないかい?と危惧しましたが、申し訳ありませんでした!売れない新進女優のアンには若さが取り得。ハツラツと志高い様子を、快活に時には幼さを見せるなど見事に表現。食わんがためなら何でもする女性ではないというのも、純粋に芝居の舞台に立つことが好きなのだと印象づけます。アンのそういう清らかさと、ワッツの持ち味である美しいだけではない、生身の女性の暖かさが香る部分がマッチして、魅力溢れる女性に仕上がっています。

デナムは、野心家で映画の入場料で誰も観たことのないものを見せるというのが信条の男。自分勝手で良い映画を作るなら、法を犯しても平気であるなど相当困った人なのですが、自分の信条に対する執着は、単に富や名声を求めている以上に、こういったショービジネスの世界に生きる人の業のようなものを感じました。誰よりも自分が世界をアッと言わすのだという野心です。その気持ちが段々と過激で見世物的なショーに目を向けさせてしまうのは当たり前で、監督ジャクソンは、そんなデナムを暗に肯定しているように思えました。観客が求めている以上、デナムのような気概があったればこそ今のハリウッドがあるんだよと、私は受け取りました。コメディ演技の印象が強く愛嬌のあるジャック・ブラックのキャスティングは、観客にデナムを受け入れやすくしていたように感じます。

ジャックは才能溢れる劇作家ですが、お金儲けになる作品でなく、自分の納得出来るものを書きたいと言う人。演じるエイドリアン・ブロディはハンサムではありませんが、高貴な雰囲気のある人で尚且つお金にも縁が薄そうに見えるのが役柄にマッチし、ジャックの高潔さを印象深く演じていました。アンを思う一途さも、たった一夜限りでも彼なら納得出来ます。導入部をじっくり描いたことと、ちょっぴり華には欠けるけど実のいっぱい詰まったキャスティングは、観た後上げ底感のない大作であったと感じるポイントだったと思います。

以下はネタバレ(終了後に文章あり)***********










髑髏島に到着してからの中盤は、CGを使って壮大かつ秘境の地のおどろおどろしさを表現しながら、大作感を維持。原住民の踊りや容姿も不気味でリアリティを感じさせ、ちょっとヤコペッティの「世界残酷物語」を彷彿させ本物感満点。それが徐々にお話は「ジュラシック・パーク」へ移行。ここからコングが捕まるまでは、恐竜大暴れです。見飽きたCGのはずですが、新鮮味はないけど手に汗握る場面の連続で、時折ユーモラスな場面を交えながら、まだまだCG活劇も工夫次第で楽しめるのを実感します。何故アンのお化粧が剥げないとか、あんなにジェットコースターのようにコングに振り回されているのに、骨折打撲ゲロ吐きしないのはおかしいではないか?などどは、決して言っちゃぁいけません。ヒロインの美女が何が起こっても美しくあり続けるのがこの手の作品の昔からのお約束。島を出るときのアンはシュミーズ姿だったでしょう?あれはデナムのスポンサーの一人が言った、「冒険モノは、美女が乳房を出してこそ値打ちなのだ。」とかぶると思います。こちらB級ではない健全娯楽大作のため、下着姿までというわけで。こういう遊びの部分も面白かったです。

後編コングがニューヨークを連れて来られてからはダイナミックなコングと人間の攻防戦が始まり、目にはアクションを堪能、心は切なさでいっぱいになります。必死でお互いを守ろうとするコングとアンの姿は、もちろん人間の男女の愛ではないですが、愛の形もそれぞれ。人間と動物、人種差別など色々置き換えて見ることも出来ます。氷の上を楽しく滑るコングの手の平のアンは、ジェットコースターのようだった島の時とは違い、まるでメリーゴーラウンドに乗っているかのような楽しさです。心が打ち解けあった後を対比していたと思います。

軍に追い詰められて、エンパイアステートビルの屋上で雄たけびを上げなら胸を叩くコングには、哀しさが溢れていました。何故生きることを拒まれるのか?密林に生きる自分を勝手に連れて来た文明人に対しての非難を感じます。そしてデナムの業は肯定しても、暴走することを非難しているようにも感じ、やはりコングの姿に、勝手に自分の国を荒らされる人々の哀しさに置き換えられても見えるのです。












ネタバレ終了***********************


船の船長にトーマス・クレッマン。子供の頃船の檻で野生の動物のような姿で見つかり、そのまま船員になった少年にジェイミー・ベル。彼を父のように厳しく暖かく見守る機関士の黒人との交流も、物語に深みを与えています。その他デナムに振り回されるアシスタントにトム・ハンクスの息子のコリン・ハンクス。渋好みのキャスティングで、往年のハリウッド大作へのリスペクトも感じられる、とても立派な「娯楽作」です。是非ご覧あれ。







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