ケイケイの映画日記
目次過去未来


2005年04月13日(水) 「コーラス」


2004年度フランス最大のヒット作。愛らしい子供達の笑顔のチラシに釘付けになり、絶対観ようと思っていた作品です。昨日は女同士の遠距離友情を育んでいる心の友のともこさん(名古屋在住)と、ほぼ同じ時間帯に鑑賞、終了後速攻で携帯メールで感想を語り合い、かしましくて楽しいひと時を過ごしました。二人とも感想はほぼいっしょ。穴もツッコミもあれど、心の底から好きだと言える作品です。

世界的指揮者のモランジェは、母の葬儀のため故郷に戻って来ていました。そこへかつて「池の底」と呼ばれる寄宿舎に、共に暮していたペピノが訪ねます。再会を喜ぶモランジェに、ペピノは一冊のかつての恩師マチューの日記を形見として彼に手渡します。時代は遡り、中年の教師マチューが「池の底」にやってきます。そこは親の亡くなった子や、素行の悪い子供達が集められた吹き溜まりのような寄宿舎です。体罰至上主義の校長の元、殺伐とした空気が学校を支配しています。しかし無秩序で悪さばかりの子供達の善なる心を信じたいマチューは、かつて自分が挫折した音楽で、子供達に目標を持たせられないだろうかと考えます。マチューは合唱隊を作ろうと決心します。やがて学校一手を焼かせる問題児モランジェが、天性の歌声を持つことを、マチューは知るのです。

もう子供達が可愛くって!年の頃なら7〜13、4才くらいまででしょうか。同じような境遇の子供達を描いたスペインの「デビルズ・バックボーン」は、スペイン内戦を描いていたためか、子供達には生きる執念と哀しさを感じましたが、この作品の子供達は折檻や体罰で支配しようとする校長何するものぞ、と元気いっぱいの明るさで悪さをします。合唱隊はレジスタンスと表現されるセリフが出て来ますが、権力に対抗するフランス人の気概は幼き時から、ということでしょうか?

日本でいうと管理作業員の存在の老いたマクサンスは、子供達のいたずらで大怪我をするのですが、「ここの子は可哀相な子ばかりだ。本当は皆良い子ばかりだ。」と語ります。この言葉に後押しされて、子供達の懐に入り同じ目線で物事を見ようとするマチュー。彼が子供達にしてあげたのは、かばうことと秘密を守ること。それは愛情と人格の尊重です。そして目的を持たせて達成させること。最初子供達に歌わせると、男女の愛や軍歌などで子供らしい歌は誰も歌えません。みなしごになったペピノなど、歌も知らない。彼らのいた環境がわかるというものです。

そんな彼らがマチューの指導の元、変声期前の少年でしか出せない澄み切った天使の歌声を聞かせてくれるのですから、以前との対比に、聞く者が胸を熱くするのは当然です。彼らの歌声を聞いていると、心が洗われる気がして自然と涙がこぼれました。ちなみにコーラスは残念ながら吹き替えです。リヨンに実在する「サン・マルク少年少女合唱団」の子供たちが歌っています。人生になげやりになっていたマチューが、子供達と出会い、本来の明るさや素直さ、子供らしい笑顔を見せるようになった時、マチューもまた人としての希望を取り戻します。同じようなシチュエーションは、他の映画の中でもたくさん観ましたが、何度観てもこの手の筋はやっぱり観る者の心にも希望と明るい光を届けます。

しかし最初書いたように脚本が甘く、演出も雑な場面が見られます。モランジェがソロを取り上げられて、また与えられるシーンなど理由が説明不足で唐突過ぎるし、モランジェの母にマチューが恋心を抱く寅さん的場面は不要、途中から登場する粗暴なモンダンの扱いも、子供性善説的なこのお話にしては不可思議な扱いですし、子供性善説なら大人たちも皆良い方向に変化して欲しいものですが、校長の扱いが終盤ドタバタして消化不良でした。そして一番気になるのは最後の紙ヒコーキ。ここは全部拾わなきゃ。これでカクンとなりました。

文句もあるのですが、それが愛すべき未熟さに見えるのですから不思議。これが長編初監督の脚本も担当したクリストフ・バラティエは、この作品のプロデューサーで指揮者となったモランジェを演じたジャック・ペランの甥だそうです。自分も両親の離婚で親元を離れた時知り合った、一人の音楽教師との出会いをモチーフに作ったそうです。だからでしょうか、自分の人生に光を射した事柄を誠実に心暖まる作品にしたい、そんな気概が伝わってきて、大変好感が持てます。次が本当に楽しみです。

主演のジェラール・ジュニョは風貌こそ冴えませんが、愛嬌と誠実さを醸し出し、子供達から慕われるマチューになりきっての好演。モランジェ役を演じたジャン=バティスト・モニエは、実際に現在も同合唱団のソリストを務めているそうです。美しい容姿と澄み切った歌声は神々しささえ感じました。そして私が一番愛してしまった可愛い可愛いペピノを演じたマクサンス・ペランは、何とペランの実子とか(孫にあらず)。こんな素直に作った作品がフランス史上に残る大ヒットになるとは、辛口で厳しいという私のフランス人感が覆ってしまいました。人の善なる心は万国共通、映画を観て幾度も感じたことを、また改めて感じた作品です。






ケイケイ |MAILHomePage