ケイケイの映画日記
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2005年03月21日(月) 「カナリア」

オウム真理教の事件が起きて10年。親といっしょに入信していた子供達はいったいどうなっただろう?という疑問をモチーフにして作られた作品。同じように子供を通しての、現実にあった事件をモチーフにしたフィクションということで、随所に「誰も知らない」を彷彿させる作品ですが、完成度と言う点ではいささか落ちるように感じ、焦点が定まらず散漫に思いました。一言でいうなら、とても惜しい作品です。今回ネタバレです。

無差別殺人事件を起こしたカルト宗教集団・ニルヴァーナに、母道子に連れられて集団生活をしていた12歳の光一(石田法嗣)は、警察の摘発により教団が解散後、妹とともに児童相談所で暮しています。母は事件を起こし逃走中の中、母方の祖父が妹だけを引き取り、光一はそのまま相談所に置いていかれます。再び母と妹と暮すことを夢見る光一は相談所を脱走。途中父に虐待されながら援助交際を繰り返す同じ年の由希(谷村美月)と出会い、二人で妹を取り戻すべく、けんかしながら助け合いながら、遠く離れた祖父宅に向かいます。

光一・由希の描き方が素晴らしいです。共に正常な親の愛を受けたといい難い二人が、12年間生きた中で得た、精一杯の正義を実行する様子に胸がいっぱいになります。子供ながらしたたかに大人を手玉に取ろうとする由希が、「あんたと一緒に妹を探すわ。私も人の役にたちたいねん。」と、光一にすがる時、必死に自分が生きている意味を感じたい由希がいました。そして二人は幼いながら、驚くほど「男と女」なのです。知らない者同士、お互いの距離がわからなくて寡黙な光一、饒舌な由希。けんかを繰り返し、片方が歩み寄れば片方は逃げを繰り返すうち、お互いなくてはならない存在になって行きます。

特にまた援助交際で資金を調達しようとして、男の車に乗った由希を光一が走って追いかけ、男の車のガラスを粉々にするシーンは、たとえどんなにお腹がすいても、自分の愛する女が性を売り物をすることを絶対許したくない男のプライドを感じました。いっしょに必死で逃げる由希には、どんな先行きが待っていようと、信じた男について行く女としての意思を感じました。コインランドリーの片隅、光一に寄り添いうたた寝する由希に、ほのかな女としての幸せを見たのは、私だけでしょうか?

しかしまだまだこの年では、知らなくて良い愛です。そんな彼らの「世界で二人ぼっち」を見ている私たち大人は、これは彼らの親だけの責任ではないのだ、世の中のたくさんのこの子たちの事は、社会が考えていかなくてはいけないことなのだと、彼らの心の痛みから教えられます。

子供達二人を入念に描きこんだ前半は見事なのに、後半、教団の施設で光一たちを世話していた井沢(西島秀俊)らに出会ってからが、映画は失速します。施設内でどのように彼らが暮していたかが出てくるのですが、教祖を無条件に信じる純粋さと、狂信的・盲目的に教義を信じる恐ろしさとが描かれています。これはいいのですが、事件発覚後、教団に残った者、脱会した者の差は何だったのかが見えてこないです。立場を相対するもの同士が語り合う場面も出てきますが、観念的なセリフで表現され、本音がわかりません。

脱会したある者が、「あの時はいったい何を考えていたんだろう。」というセリフ出てきます。洗脳状態が解かれたように感じましたが、脱会した者同士、ひっそり助け合って生きていますが、彼らは信じていた者に裏切られた被害者でもありますが、多く犠牲者を出した事件に間接的に携わっていた加害者でもあるはず。教団にいた老婆や光一など、同じ立場の犠牲者には償おうとするのに、世間に対して罪の意識の葛藤がないので、彼らに感情移入しにくく、光一達を応援する様子にも軽率さを感じます。

母が教団の人間と自殺したと知って、光一は自暴自棄になります。やっと探し当てた祖父にまず由希が先に会いますが、祖父の語る光一の母が泳げるようになるまでの子供の頃の話を聞き、娘のように孫(妹)では失敗しないと語る姿に、「あんたは私の父親といっしょや!」と由希は叫びますが、この事柄で由希に祖父をモンスター扱いして叫ばせるのには無理があります。そして祖父と対面する光一の頭は真っ白になっています。これは母の死を知って一瞬の内になったと解釈しましたが、これは思いっきりはずしました。苦悩の表現というより、やりすぎ。一瞬にして、私は冷めてしまいました。その兄を見て、妹は何の疑問もなく抱きつき、3人一緒に手を携えて生きていこうとするラストは「誰も知らない」に似ていますが、最後に生きる希望を感じさせた「誰も知らない」に比べ、こちらは収集がつかなくなって尻すぼみになった感があります。


途中に出てくるレズビアンカップルは意味不明。オウムの件はまだ生々しい記憶が世間にもあり、デリケートな問題なので切り込み方に躊躇してしまうのはわかりますが、それなら中途半端にあれもこれもと手を出さず、光一と由希二人の心にだけ焦点をあてて描けば良かったと思います。出演者は総じて好演ですが、特に子供二人が良いです。谷村美月は、幼い中にハッとするほど女心を滲ませるかと思うと、また思春期の少女に戻っていき、光一にとって母となり恋人となり友人となる由希をこれ以上ないほど熱演しています。観て損をする作品ではありませんが、本当に惜しい出来ではあります。


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