ケイケイの映画日記
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2005年02月11日(金) 「理由」

う〜ん。昨日観てきたこの作品、宮部みゆきの原作も読んでいます。原作の雰囲気もよく出ていたし、ピックアップしてクローズアップした箇所も、好みのシーンがありました。とても長尺の原作で、ストーリーも複雑に絡み、映画化には困難なところを、よくまとめてもいました。でもちょっとノリ遅れたというか、素直に面白かったと言えません。

東京荒川区の高級高層マンションで飛び降りがありました。そこの住人と思われる男性の部屋に入ってみると、3人の死体が。殺人でした。都会のマンション暮らしゆえか、隣近所はこの一家の家族構成すら知りません。やがてこの一家は、持ち主とは別の赤の他人達が暮らしていたと判明します。その頃この事件の重要参考人と思われる石田直澄が、簡易宿泊所である「片倉ハウス」の前に立っていました。

元々は、wowowの中の単発ドラマとして放送されたものが劇場公開されたそうです。出演者は総勢有名無名新人合わせて107人。顔の売れた俳優さんもワンポイントで起用したりして贅沢です。よく見かける顔が多いので、誰がどの役なのか覚えやすく、こんがらがることはありませんでした。中高生役の役者さんたちの素人くささに好感が持て、さすが昔から若いフレッシュな子を見出すのが上手い大林宣彦監督と言う感じです。

ドキュメンタリータッチで、多くの登場人物が取材を受けての受け答えと、その回想シーンで構成されていて、これは上手いです。素人さんがカメラ目線で話したり、芝居っけたっぷりに演じるのですが、全然違和感なかったのは、演出の力でしょう。役者さんには素の感じが出るよう、多くがノーメークで臨んだそうです。南田洋子などしわしわでしみだらけなのに、凛とした老婦人ぶりが美しかったです。原作より大きくなった管理人役岸部一徳が、狂言回しのように要所要所出てきますが、出すぎず引きすぎず心得た演技で良かったです。他には根岸季衣のパートが心に残りました。

しかし良くまとめているものの、私には演出で引っかかるところがチラホラありました。私は赤座美代子が子供の頃から大好きで、この作品でも塾講師の役で登場シーンも多く楽しみにしていました。素顔の彼女は今でも大変美しく、50過ぎくらいでこれは立派だなと思っていましたが、調べてみたら何と去年還暦!彼女には何も文句はないのですが、やたら下着姿が多いのです。確かに今も充分に美しい彼女ですが、元教師で現塾講師と言う堅い仕事の熟年女性の、意味ない下着姿を見せることに、私には違和感がありました。電話や家の構造、塾の教室など不必要にレトロで、それはストーリーに絡む物でもなく、こちらも違和感がありました。

風吹ジュンも私は好きですが、実年齢はやはり50過ぎなのに、一周りくらい若い役を何故当てたのか疑問。ドラマで高橋克典をとりこにする役も納得だった彼女の、毒々しい若作りはいただけませんでした。

でも一番疑問だったのは、一番重要に思われる石田役の勝野洋。これも彼が悪いと言うわけでなく、石田の造詣が雑なのです。原作は5年ほど前読んだので、だいぶ忘れていますが、彼の部分は映画独自のものもあったと感じました。例え田舎であっても、昭和の前半に婿養子をもらう老舗の饅頭屋が、一人息子である石田に、何も財産を残せなかったのは不自然です。子供達への哀しい見栄でもあった、家を買う理由にも絡んでくるわけで、饅頭屋を嫌って都会の出てきた理由とともに、不自然さがあります。そしてある約束のため彼は重要参考人として指名手配されるのですが、描かれる内容だけでは、ただの成り行きにしか感じられず、イマイチ理解出来ません。この辺が越えられなかったので、彼に感情移入が出来ませんでした。

原作は細部については忘れているもののなかなか面白く、そして土地家屋について勉強にもなった作品でした。石田は私が一番理解も共感も読みながら感じていた記憶があります。最後の方に監督が映画の中に出てくるのが蛇足。もっと気分を害するのは、エンドロールに流れてくる、「殺人事件が結ぶ絆〜♪」という歌詞の、信じられない悪趣味の歌。結局上手くまとまっているなぁだけで、大林監督の演出が私には合わなかったということです。この作品は段々解きほぐす謎が本当に面白いので、筋のわかっている緊張感のなさも悪かったようです。原作を知らない方は、また違った観方もあると思いますので、読むのは観てからをお薦めします。


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