ケイケイの映画日記
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2004年11月12日(金) 「笑の大学」

昨日観て来ました。三谷幸喜の作品と聞いて、彼の監督・脚本だと思っていましたが、原作と脚本だけで監督は星譲。映画は初めてですが、長く「古畑任三郎」や「いい人」など、ドラマを手がけています。元は東京サンシャインボーイズの舞台劇で、検閲官・向坂に西村雅彦、「劇団・笑の大学」の座付き作家・椿に近藤芳正だったそうです。

第二次大戦の開戦も近い浅草。軽演劇の盛んな当地で上演される作品の台本は、警視庁によって内容が検閲されます。削除を飲めば「許可」のはんこが押され、抵抗すれば「不許可」のはんこが押され、上演出来ません。ただの検閲で終わるはずだった検閲官・向坂と「笑の大学」の座付き作家・椿の、意外な方向へ転ぶ楽しくも考えさせられる7日間が描かれます。

役所広司が演じる向坂は、今までお腹の底から笑った覚えがないという人物です。普通のスーツがよく似合う俳優NO.1だと、私が勝手に思っている彼は、実直さと仕事に対する優秀さが伝わってきます。鉄仮面で冷静に仕事をこなしていく彼が、椿の脚本の才能に触発され、段々「笑い」に楽しく翻弄されていく姿を、おかしみのある絶妙の演技で見せてくれます。役所広司の作品は色々観ていて、いずれも文句なく上手ですが、近寄りがたかった向坂が段々観客に近づいてくるのを感じ、私は今回が一番上手に思いました。

評判はイマイチの椿役・稲垣吾郎ですが、私は良かったと思います。スマップの中で気がつけば一番後ろに下がった感のある彼ですが、人気のキムタクより役者としてのイメージは、彼が一番に思います。座付き作家として演出家としての苦労を表に出さす、一人飲み込んで仕事に励む椿の、気弱な善人ぶりと反比例のように見える「笑い」に対する熱い情熱は、私にも届きました。

難点はラストに向かうに従ってくどくなること。二転三転する展開は、一度で良かったと思います。その分削れば時間も1時間45分で済んだはず。浅草のレトロでモダンな当時のセットや雰囲気は、心を弾ませました。

笑うことのなかった向坂が、笑わせることに使命感と喜びを感じる椿との出会いで変貌していく様に、笑うとは心を潤すこと、心に余裕を持たせること、そして生きるエネルギーをも得ることなのだと感じました。

私が観たのはナビオTOHOです。この劇場は大阪市内ではここでしか上映しない作品を観るために行くだけなので、いつもは単館系の作品が多く、100席あまりのスクリーンばかりで観ていましたが、今回は450ほど座席のあるスクリーンでびっくり。木曜日初回に入りは1/3と上々のようです。関東と関西は笑いが違うと言われますが、場内は爆笑とクスクスの連続でした。今から50年以上前が背景なので懐かしさのある笑いで、私が特に気に入ったのはエロでもなく、誰かを貶すのでもない、上品な気持ちの良い笑いだということ。それでいてきさくでわかり易い。そしてオチにしみじみ暖かい感情が優しく心に広がっていく、ちょっとチャップリンを彷彿させる作品でした。

可哀相なのは星監督。きっと観た人は「やっぱり三谷幸喜って才能あるなぁ」と、思うのでは?実は私もです・・・。


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