ケイケイの映画日記
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2004年10月12日(火) 「ヘルボーイ」

こういう作品で当たりに出会うと、本当に男の子を生んで良かったと思います。「デビルズ・バックボーン」が思いの外良く、同じギレルモ・デル・トロ監督と言うことでどうしようかと思っていたこの作品、末っ子の「観たい」の一声で決定しました。

ヘルボーイ、あるいはレッドと呼ばれる彼は、一言で言えば化け物です。それも本来はナチスと妖僧ラスプーチンによって、人類を破滅させるために作られました。生業は、FBI管轄の組織での”魔物退治”です。もう60歳なのに老化が遅く、心は思春期の若者のような反骨心に溢れ、乱暴で粗野です。自分を見つけ出し赤ちゃんの時から限りない愛を注いで育ててくれたブルーム教授に、本当の息子のように反抗し、少年のようです。決して「妖怪人間ベム」のように、”早く人間になりたい!”など思わず、人間の僕になって友好関係を結ぼうなどどは、思っていません。

では彼は本当に孤独をきどって不遜に生きているのか?それは違います。本当は恋心を持つ女性に気持ちを伝えられず、愛らしい猫をたくさん飼うことで自分を癒し、醜い容貌にコンプレックスを持ち、自分の身の回りの世話をしてくれる人々に愛情を持ち、ブルーム教授を父として愛し、教授の自分への愛情が無くなる事を、一番恐れています。

まるでツッパリ不良少年の素顔です。劇中「どんな出自に生まれても、生まれ方や育ち方が重要なのではない。大切なのは、人生において何を選択するかだ。」と語られます。何故地獄の申し子として生まれた彼が、地獄からの使者達を葬ると言う「正しい選択」が出来たのか?

人間関係に疲れると、人は一人で生きて行こうと考え勝ちです。でも本当はそれで良しとは思っていないはず。孤独でいいと思いながら親との絆を信じ、人を愛すると言う気持ちを抑えきれない。自分とかかわる善良なる人全てに、情を持ってしまう。異形のダークヒーロー・ヘルボーイを通じて、デル・トロ監督は普遍的な人の純粋な心の中を透けて見せます。

人は色々な自分ではどうにもならない物を背負って生まれてきます。それを負や重荷と思わず、個性としてとらえたらどうか?彼以外にも、発火念力を生まれ持ったヘルボーイの愛する女性・リズのか弱さと強さ、半漁人ながら博識で教養があり、身のこなしまでエレガントなエイブ、監督は暗く哀しくなりがちな異形の彼らの孤独と純粋さを、深みのある愛情を持って描いています。

キャスティングがドンピシャです。監督がコミックの「ヘルボーイ」に容貌が似ているため、主人公に熱望したロン・パールマンが素晴らしい!
(←素顔はこんなです元々アウストラロピテクス系の進化の遅い顔です。













ヘルボーイ姿はこれ↓  隣は心優しき発火少女を演じるセルマ・ブレア






















ブルーム教授にジョン・ハート。彼が「エレファントマン」だったなぁと知る人は、この異形の息子に注ぐ愛に、感じるものがあるはずです。
敵役のラスプーチン、クロエネンも魅力的。特にクロエネンのスマートなカッコ良さは、破壊力のあるヘルボーイとの対比になっています。

自分でもどうにもならない感情を持て余す反抗期や、色々なコンプレックスに悩む小・中学生必見の作品。それに手を焼く親にも必見。もちろん単純に娯楽作を楽しみたい方にもお薦めします。どうして吹替え版がなかったんでしょう?異形の善玉・悪玉だけでなく、FBIの面々も一人一人キャラが立って、丁寧に描いていました。お子様向けの声も聞きますが、私には構成から脚本、CG,撮影まで、手抜きなしの確かな手応えの作品でした。


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