ケイケイの映画日記
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2004年06月07日(月) 「21グラム」

初作・「アモーレス・ペロス」が高評価を受けた、メキシコのアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督のハリウッドで撮った2作目が、今回の「21グラム」です。前作は脚本の練り方、CM出身らしい撮影の構図の妙、人物の掘り下げ方などたいそう完成度が高く、とても新人監督とは思えぬ出来でした。

にもかかわらず私の感想は、イマイチ何か足りない、何故だろう、映画館ではなくビデオだったので、集中力が欠けたせいかと思っていました。その謎は昨年観た、同じラテンのブラジル映画、「シティ・オブ・ゴッド」を観て解けました。

「シティ〜」はフェルナンド・メイレレス監督の2作目、はちきれんばかりの若さと勢いがありました。計算されていたのかも知れませんが、好感の持てる荒削りさもありました。「アモーレス・ペロス」には、それがなかった。余りに巧く出来すぎて、高なり名を遂げた老練な監督が撮った作品と、同じ香りがしたのです。本作でも、そのような違和感はぬぐえません。

見応えは充分にあります。麻薬中毒から立ち直り、現在は幸せな家庭を築いていたのに、交通事故により一瞬にして、愛する夫と子供達を失う妻(ナオミ・ワッツ)。その夫の心臓を移植してもらい、命がながらえた大学教授
(ショーン・ペン)。荒んだ生活をしていた前科者だが、信仰により立ち直り、貧しくとも妻や子供たちを懸命に養う交通事故を起こした男。(ベニチオ・デル・トロ)

それぞれオスカーにノミネート、及び受賞した3人の演技は素晴らしいです。ワッツは美貌をかなぐり捨てて、生きる目的を失った疲れきった妻を熱演、アップやヌードでも、シミも皺も目のクマも写し、根性ある演技派ぶりです。ペンは「ミスリバ」より、私にはこちらの方が好きな彼でした。ベニチオは言わずもがな。甲乙付けがたいけど、彼が一番良かったかな?

しかし時間が入り乱れて描かれていて、感情移入しようとすると、全然別の場面に飛んでしまい、気がそがれます。臓器移植がもたらす両方の側の葛藤、立ち直りたい前科者の苦悩、ワッツを含む3人の妻の愛してやまない夫が、自分から遠のいていく哀しさなど、真正面から描くに充分な素材及び俳優陣だと思うのですが、どうも凡人の私には、この演出の意図が、最後まで
掴めませんでした。

ラストの持って行き方も、希望が見えて余韻もあるのですが、その希望が、家庭の絆や新しい命の誕生を示唆するという平凡なもので、決してそれらを否定するつもりはありませんが、数ある生きる希望の内の一つだと思うのです。斬新な演出方法で見せるなら、ラストも新しい価値観を付け加えて欲しかったです。

私はお酒は飲めませんが、すごーく高い上等のウィスキーを、お話に夢中になって飲むのを忘れていたら、氷が溶けて薄くなっていた、そんな感じの作品です。




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