♀つきなみ♀日記
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2001年06月17日(日) 「陰陽師第10巻発売」「知ってるつもり放送」記念(?)清明さまふたたび

4月5日は二十四節季の清明でしたね。以上<=しつこいよ!

それはともかく、陰陽師@夢枕獏&岡野玲子さん版第10巻も発売され、そして「今日の知ってるつもり」で安倍清明さまが取り上げられるんで、どんな内容か楽しみなんだよね、ワクワク。

コミックスの「陰陽師」はかなりの前提知識を要求される。NHKの吾朗ちゃん版は、一般視聴者にそんな事は要求出来ないんで、登場人物の設定だけを借りたまったく別物になっちゃった訳なんで、これを見て原作やコミックを買った方は結構困惑してるような気もするよね。平安時代の香りはほとんど無かったし、原作の底辺を流れる、「霊」の存在はまったく無いし。

「尊卑分脈」によれば、実像の安倍清明は「天文博士」であった。じゃ、天文博士ってのはなんじゃろって言うと、勿論今の天文学とは違っていて「天に誌された文字を読む」事を本源とする。五行説をはじめとするこの知識は、大陸から順次伝わってはいたのだけど、推古天皇10(602)年、百済から観勒が、歴本、天文、地理、方術、遁甲の書を献じたのがその後の日本の陰陽道の基となった。下って、天平7(735)年、手塚治虫さんの火の鳥(鳳凰編)にも出て来る、吉備真備が遣唐使から帰朝する際に「大唐陰陽書」を持って帰って、これが日本の陰陽道、暦道、天文道の基本となった。

天文博士は清明の時代には、「陰陽寮」に所属していて、その上は「中務省(なかつかさ)」で、この役所は詔勅の文案を作成したり、上奏を受けたりするのが仕事で、陰陽寮は言わば「天下国家を占う」役所だったんだよね。ちなみに定説ではないけど、師匠は賀茂保憲でその実子、光栄は清明と同時代の「暦学博士」となる。そのお父さんの賀茂忠行が清明の師匠というのは、年代的にちょっとなさそうなんだよね。今昔物語集ではそうなっているんだけど。

清明の伝説は多々あるけど、最も有名なのは関白・藤原道長邸で献上された瓜に、蛇が封じ込めてられてるのを見抜いた話か、広沢の遍照時へ寛朝僧正という僧を尋ねた際、若い公達に「式神を使って人を殺したりも出来るのか」と問われて、草の葉を投げかけて、蛙を潰しちゃった話かもしれない。

瓜の話は「古今著聞集」(1254年成立)に載っている。登場人物は有名人ばっかりなんだけど、道長が関白になった時には清明は死んでいるし、源義家に至っては道長没後14年して生まれている。蛙の話は「今昔物語集」(1120 年以後の成立)所載だけど、勿論これは説話の先駆を為す物で、様々な話に著名な名前を借りて来ている事が知られている。早い話が、どちらもほとんど清明さんの事跡とは直接の関係は無いんだよね。

清明の名が現在まで伝わるもう一つの大きな鍵は、「三国相伝陰陽管轄内伝【ホキ】・金鳥玉兎集 」(【】内は該当漢字表記不能)にある。これは「続群書類従」の雑部に「【ホキ】内伝」として所蔵されていて、原本の作者は「天文司郎安倍博士吉備後胤清明朝臣撰」となっている。

この本は陰陽家の虎の巻っていうか、ネタ本とも言えるもので、現在の「暦本」へも伝わっている。「日本版五行&暦&易歴のバイブル」と例えてもあながち的外れじゃないくらいの物だ。しかしこの本は南北朝から室町時代に成った事はほぼ定説となっていて、少なくても清明が著した物でない事だけは間違いない。

逆に言えば、室町期において最も有名であった陰陽師は清明であったとも言える訳で、作者か編者は自分の名前をあえて伏せても、「安倍清明」の名前を冠する事で内容の権威付けを行ったとも思われる。(付記:この本の作者は5巻中1-2巻と3巻以下は別人で、室町時代に一部としてまとめられたとの説が有力)

説教節「信太妻」では、清明の父は安倍保名となり、浄瑠璃の「保名物語」「芦屋道満大内鑑」と共に、信太の森の狐である母との子であると市井の人々へは伝わってゆく。これは鎌倉期の説話集「古事談」にある清明が花山天皇の頭痛を治した話とも関連付けられている。

蝉丸について書いた内容と一部重複しちゃうんだけど、実在した人物が伝説化する過程に私は強く惹かれる。

恋しくば尋ね来てみよ和泉なる 信太の森のうらみ葛の葉

母である狐はこの歌を置いて、少年清明のもとを去る。そして尋ねあてた母から水晶の玉を与えられ、それに耳をあて鳥獣の声を解する処から、天才陰陽師清明の歩みは始まってゆく。

もちろんそれはフィクションなんだけど、民衆の胸に生きる清明像はそこを基点に広がり、今また夢枕獏&岡野玲子版陰陽師で新たなイメージを与えられた。

吾朗ちゃん@NHK版を見たぐらいじゃ、本物の清明さんはきっとちっとも驚いたりはしないんだろうなぁ、なんて思いながら、今日の番組の感想はまた後日。

ってことでまたね!


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