「君との付き合ひは長く保つ心算だから。」
　そんな言葉を云つては駄目ですよ。

　「君とは…」「君との…」そう云ふには云つた相手とは別の對象が必要なのです。
　貴方は複數の對象を比較しつつ複數との關りを斷たずに居た事實を自ら顯にしてしまつたのです。

　そうして貴方は次々己の愚かさを露呈してゆく。

　「もう厭だ。」
　そう何度も何度も彼女は繰り返した。
　己に絡み付く男女の縁に振り回されて。

　「如何して私がこんなに惱まなくちやならないの？」
　そう彼女は獨白した。
　腐つた縁を抱え込んで更に腐り果てやうとする女に侵食されながら。

　「あ゛ーーーー。」
　そう叫んで彼女は机に臥したのだ。
　結末の看えて居る戀物語の脇役となつた己を忌々しく思ひながら。

　「離れて行かないでくれ！」
　自分から離れる原因を作つておいて、そう泣き叫ぶんだ。
　愛し合つてゐたのは遙かな昔の事では無いのに。
　愛しい人にはまだ手が屆く筈なのに。
　いくら縋り付いても引き止める事は出來無くて、涙に暮れるんだ。

　決して彼女と僕の影が交わらぬ樣に注意しながら、泣き叫ぶ女性に何も出來無い僕は見守り續ける。

　櫻は儚く散りはし無い。
　見苦しくアスフアルトに花瓣をこびり付かせ、逞しく新たな若葉を繁らせるのだ。