澱み
 由緒正しい旧家とやらの流れの中で澱みに澱んだ重い思考と歪んだ行動。
 また僕の中に黒く重い塊が増えました。

 あの澱みに填まった侭、叔母達は放り出されぬ様必死で己の居る世界にしがみ付き続けている。
 きっと彼女達はたった一つでも事実を認めたら己の世界に異質が入り己が世界から排除されると思っているのでしょう。

 「死ぬ迄に一回は誰かに云おうと思っていました。死ぬ迄私は此の事を云わ無い心算でした。」
 お母様が感情を出来るだけ抑えてなされた告白、同じ内容を僕は叔父や叔母達から聴いて育ちました。彼等が無意味な優越感に浸る為だけに僕に其れを云い続けていたのだとお母様に知らしめはしません。是以上彼女は重荷を背負うべきじゃ無い。

 「あの人は私より可哀想なのだから。私より辛い思いをしてるに違い無いのだから。」とお母様は祖母の事を仰いました。僕も同じ言葉を心の中でお母様に謂い続けてました。
 僕にしか謂え無いのだと判ってますから、幾らでも僕に貴女の闇を流し続けて下さい。僕の中にどれだけ此の澱みが溜まろうと僕は澱みの所為では歪まぬ様に心掛けますから。
 「あんな莫迦共の為に死な無くて良かった。」と言える内はきっとまだ僕も貴女も歪んでおりませんから。

 一つだけ謂いたくて謂えませんでした。
 僕もお母様の決意と同様に己の此の秘密を死ぬ迄自分の中に抱えて生きていく心算でした、と。
 死ぬ迄秘め様と思う体験をしたのは貴女達ばかりでは無く僕もです、と。
2001年12月30日(日)


 色々留言
 殆ど聞えて無い左耳に鈴を付けるのは少しでも左耳から音が聞えていると安心するから。
 二階の高さから飛下りた若者の日記を未だに見続けるのは僕も実家の屋根から飛下りた事があるから。
 首に醜い痕がついても首輪を外せずに居るのは僕が其れに何かを託して身に付けているから。
 携帯に未だにあの番号が残っているのはまた掛かってくると僕が思いたいから。
 死んだ人間の事ばかりを思い出してしまうのは彼等はもう二度と僕を裏切れ無いから。
 誰かの家の鍵を持ち続けているのは僕がまだ忘れ切れて無いから。
 己の画像を正視出来無いのは僕が父親に似ているから。

 「如何してアンタはまだ生きてるの?」笑顔でそう訊かれた。其処だけ笑わずに居た眼は何か訴えている気がした。
 「同情引きたくて言ってる?」病気についてそう問われた。声が震えている気がした。

 僕は彼の人の如く、己の病を言訳に発作が起きた振りをし同情を引いて傍に居続けて貰おうとはし無い。
 其の厭らしい器用さは僕には遺伝し無かったと思いたい。
2001年12月28日(金)


 想像図
 考えたく無かったから考え無い様にしていたんだが…。

 二十を過ぎた息子が晩御飯食べに帰る時間に遅れる度に、やきもちめいた詮索の文章を息子の携帯にメールする母親と其の息子の関係…其れ、普通なのか?てか、「何処の女と一緒なの?」なんてメール送ってくる、其の人は本当に母親か?彼女では無くて?
 其の息子は普段友達と遊ぶ時も六時や七時の晩御飯に間に合う様に実家に帰っている様だが…本当に其の関係は普通なのか?
 此、考え無い様にしてました。突き詰めて考えると怖い想像に繋がって行くので。

 僕の実家は個人行動優先で、晩御飯食べる時間迄に帰ら無いと誰かが怒り出すなんて事は無かったからそんなのが普通だとは信じられ無い。
 如何考えても怖い想像図が浮かぶのは…現実もそうだからだろうか。
2001年12月20日(木)


 お気楽人間
 何も考えてないお気楽人間、そんなのが本当に居るなんて思っちゃ居無い。
 時々「こっち向く度に笑顔作るな!」と周りの人間に叫ぶのは笑顔の奥のものが怖くて仕方無いから。お気楽そうだから何言っても大丈夫だろう、そんな事思って言ったのでは無いが、そういう風にしか思われ無い。

 祖母の事・財産の事・叔父の事・後継の事・母様の事、母方の伯母達と話す度に鬱積するものが在る。
 毎回、怒鳴って叫んで目の前の老婆達の首を掴んで引き摺り回したくなる衝動を抑え、引き攣った笑顔を無理矢理浮かべて冷静に話そうと心掛けている。叔母達が視界から消える度に僕は苛立ちを抑え切れずに傍に在る物を一つずつ壊してしまう、其等の物に何も非は無いのに。

 「自分達が今何を言っているのか、意味を判って言ってますか?」
 祖父と薫さんの威光に縋り続ける叔母達には全く言葉が通じ無くて、話せば話す程哀しくなる。頑迷な老女達相手に通じる言葉を話そうと、努力する僕自身を客観的に見る度に虚しくなる。

 何かある度に伯母達への溜まりに溜まった思いを母がつらつらと僕に語る。彼女が其れを言えるのは僕しか居無いと判っているから、どれだけ僕の中に黒いものが溜まっていこうとも引き攣った笑顔を顔に貼り付かせた侭黙って聞き続ける。
 僕は此の思いを誰にも語れ無いから、此の黒いものはもう他には流れて行か無いんだ。

 何も考えてないお気楽人間、そんなのが本当に居たら、其れが僕だったら、僕は引き攣らずに笑える様になるだろうか。
2001年12月19日(水)


 我要回家去了
 京都出る前に、秘密を話し前髪を切った。

 昨晩、約半年間黙っていた事をやっと先輩に言った。
 僕の事を何もかも知っている気で居た先輩は可也苦々しい表情をしたが苦言を呈しはし無かった。
 実はまだまだ君に黙っている事があるのだ、とつい他の事まで口に出しそうになったが何とか堪えた。僕は余計な事を言うべきじゃ無かったから。
 今迄も是からも僕の全部を知っている心算の人に本当に全部を曝け出す事は無いだろう。

 今朝、三ヶ月以上伸ばしていた前髪をばっさり切り落とした。
 伸ばし続けた侭の前髪を真中に分けていると僕は誰かに更に似るから。少しでも多く彼との共通点を無くしてから実家に帰りたかった。
 「其の髪型の方がずっと似ている」なんて死んでも言われたく無かった。

 京都から離れ実家に帰れば京都で僕に押し付けられた役割期待の一部を忘れられる。
 しかし、実家に居ればより強い役割期待を感じる羽目になる。
 判っていたけど、僕は実家に後1ヶ月以上居なければならない。
2001年12月14日(金)


 裏表
 僕が己の裏の面だと思っていた僕の面は、僕の親族にとっては表であり、其れのみが僕。
 大人しくてしっかりしていて無口でいつも口を開かずに引き攣った笑顔を浮かべる僕が彼らにとっての僕。

 僕が己の表の面だと思い始めた僕の面は、僕の親友達にとっては裏であり、いつも虚栄を張る僕の臆病で気弱い一面。
 騒がしくて地声が大きく低く、強がってばかりの僕がいつも彼らが見ていた僕。

 僕がずっと表だと思っていた僕の面も、僕の新しい知人達にとっては裏であり、大人しそうに見えた僕の怖い性格を顕にした面。
 いつもぼんやりし真面目な僕が彼らにとっての僕。

 どれも裏であり表で、どれも僕だ。誰にだって色々な面がある様に僕にもあるだけの事。見た目が違うだけで人間を構成するものなんて同じ様なものばかりなのだから。
 本当の意味ではどれも僕の裏面なんかでは無い、本当に「裏」という表現に相応しい僕の面は僕が独りで居る時の僕だと思える。
 独りで無表情に無言で考えて居る僕が全ての僕においての「裏」なのだと思える。
2001年12月06日(木)


 月が無い
 「月が見れ無かったから。」こんな譫を言い訳にする位、僕は愚かな生き物だ。
 虚しさに身を蝕ませてしまったのは僕自身の過ちなのに何かの所為にするのは本当に愚かな行為だ。

 ずっと比較し続ける僕が虚しくて哀しかった。
 ずっと考え続け乍相手を眺めて居た。

 努力してくれていたのだと判った。
 気遣ってくれていたのだと悟った。

 「それでお前は何をした?」
 僕の頭の中で鳴り響く此の台詞に答えようとする度、泣きそうになる。
2001年12月04日(火)
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