日々の泡

2005年10月26日(水) 「ヘイフラワーとキルトシュー」(ねたばれ)

最後にヘイフラワーが学校へ出かけていくところで
思いがけず涙が出ました。
(日本とは違って、現代でも
初めて学校へ行く日に親がついていったりはしないのかな?と
そのへんのリアリティは知らないのでさておいて。)
明るくさわやかな旅立ちなのに
まるで今生の別れのような寂しさがあるんです。

もしかしたらヘイフラワーの「学校へ行く」は
『クマのプーさん』の最後にある「学校へ行く」に
最も近いのかもしれない。
ちょっと、いやかなりずっこけてるパパとママや、
最愛のわがままな妹や
いかにもファンタジィなお隣の姉妹を相手に
せいぜいお隣までの空間で閉じていた美しい暮らしは
「百ちょ森」に住むとぼけたぬいぐるみの仲間たちとの
終わることのない楽園をちょっと思い出させる。
そこで今までみんなから頼られていた
ヘイフラワーやクリストファー・ロビンは学齢を迎えて
一人の子どもとしてこちら側の世界に旅立ってくるのかなぁ、と。

‐‐
大人たちの描写、とくに
リアルとデフォルメの間を怖いくらい絶妙に行き来する
パパとママの駄目っぷりとか、
超わがままな妹を決して怒らない
「いい子」というよりは聖女のようなヘイフラワーも
なんだか象徴的というか妖精レベル。
(このヘイフラワー役の女の子がシーンごとに
全く違う年齢に見えて凄いの。ほんとは8才だった筈だけど
6才から12才までいろいろに見える。
もちろんまだ胸ぺったんなのに髪を下ろしてると綺麗なお姉さん。)
ムーミンの国の作品だけあって、
まだ近くに妖精が住んでいそうな愛らしくへんてこなお話です。
リアルなお話だと思えば思える、ファンタジィだと思えばそうである。

先日のトーベ・ヤンソンとやなぎみわのときのように
孤独ですがすがしい旅立ちのようにも見えました。
ヘイフラワーの家族はおとぎの国の住人のようでもあり、
しかしまた彼女が心から愛している生身の人たちでもあり
いろんな見方ができそうな映画でした。



2005年10月09日(日) やなぎみわin原美術館

「砂女」になんか心ひかれて珍しく高輪まで行ってきました。

エレベーターガールは知っていたけど
この人の作品をちゃんと見るのは初めて。
メルヘンのシリーズは「ほんとは怖い大人の童話」みたいで
女性週刊誌のグラビアで連載したら黒く笑えそうな感じ。
私は「野の白鳥」が好きかなあ…元のお話が魅力的なのかもですが。

‐‐
少女と表裏であったり対立したりする老女は
「砂女」になると
荒野をゆく孤独で自由な魔女、少女を後継者とする魔女
といったイメージになってきます。
「エレンディラ」を動機にした作品とあって
特にショートフィルムは
ラテンアメリカの小説や映画を思い出させました。

ずっと前にボリビアの映画でしたか
「地下の民」という作品を観たことがあって
仮面・放浪・孤独・運命などといった要素が
高地の澄んだ冷たい大気のなかで、観るものの心を掻きむしる
そんな切なく激しい刺激があったのを覚えています。
よくわからないけどこれがラテンアメリカの
雰囲気の一つなのかなあ…と。

‐‐
前夜に偶然NHKBSでトーベ・ヤンソンの特集を見たのですが
晩年を孤島の小さなコテージで過ごした作家と
最後に住み慣れた家を後に旅立ってしまうムーミン一家に
これまた風邪をひきそうなくらい寂しく爽快なものを感じました。

やなぎみわの作品のように「女性」を主題としてはいないのだけど
ここにも「魔女」が似合う世界があります。
ムーミンの国もラテンアメリカも、
風変わりで頑固で我が道をゆく魔女や妖精や
それに近い人間たちが住んでいそうな土地でした。



2005年10月05日(水) 長新太さんとゾウアザラシ

雑誌の表紙に「追悼」と書かれてあるのを見てどきりとしたのは
私はもしやこの訃報を見落としていたんだっけと
次には、いや知っていた、覚えはある、でもその時何かに取り紛れて
忘れてしまったんではないかと二度目のどきりが来ました。
少し後に亡くなった串田孫一の訃は覚えているのに
こんなことってあるだろうか自分のアタマは大丈夫かと
悲しく少しひんやりした思い。

絵本もまんがも挿絵も大好きでした。
20年くらい前、講演(この方のはかなり珍しい)
に行ってサインを貰ったこともありました。
作品について語るなんて不可能、とにかく見ろとしか言えません。

まんがの語り口調が東京っ子のおじいさんらしいノラクラぶりで。
よく出てくるゾウアザラシが、ちょっととぼけてて怖い神秘的な
御本人のポートレートに本当に似ていて。
あんな方はなかなか出現するものではないと思っています。

‐‐
そんなことを思っていた矢先に、
水族館の人気者だった象あざらしが
まだ若いのに急死したという悲しいニュースを聞きました。
実は数日前にその水族館に初めて行って、
件の「みなぞう君」の元気な姿を見てきたばかりだったのに。
彼のファンや、水族館の人たちはどんなにか悲しいことでしょう。

鼻を伸ばしたときのみなぞう君を見て、
長新太さんのまんがのゾウアザラシはリアルなんだと思ったのです。
お得意のポーズをとっているときのみなぞう君は
彼のテーマ曲?を歌ったというKONISHIKIさんに似ていました。
体だけでなく、目がとっても大きいところが。

‐‐
天国を信じない私ですが、今回は
長新太さんとみなぞう君が同じ天国へ行って
気が合ってたらうれしいな、と少しだけ思いました。


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蟻塔

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