トーキョー・ハッピーデイズ
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2002年02月08日(金)  「カワイイ」の境界線

 静ちゃんがミスをした。
 彼女がこのミスを侵すのは初めてではなく、同じことを5回も6回もしているのだ。
 ちょっと気を付ければ絶対に起こらないことなのに。
 3度までは仕方ない。
 でも4回を越えるとちょっとどうかと思う。
 彼女ももう2年もここにいるのだ。
 後処理が大変なのはわかってたけど、今回は助けずにおこうと思った。
 いつも誰かが助けてくれるものだという意識をもたれると、この先困るのは彼女自身なのだ。
 だから彼女が騒いでいるのを横目に、私は黙って自分の仕事を続けていた。
「市川さん、大丈夫? おれも手伝うよ」
 私と同期入社の加藤くんが、静ちゃんに助け舟を出した。
「加藤さーん。ありがとうございますー」
「うわ、こんなにあるのか。大変だなー。一人じゃとても終わらないよ」
「そうなんですよー」
 甘いよ、もー。
 静ちゃんの甘えた声を耳障りに思いながら、私は人知れずため息をつく。
「浅井ー、お前も手伝えよ。冷たいやつだな」
「冷たいやつで悪い?」
「かっわいくねー」
 どうせかわいくなんかないわよ。
 心の中でそうつぶやきながら、仕方なく手伝うことにする。

 静ちゃんはかわいくて、おまけに要領がいい。
 彼女以来、不況で新入社員は採用していない。
 だから彼女はいつまでもこの部署の中で一番若くてみんなにかわいがられている。
 私にも周りにかわいがられてた時期はあった。一応。
 だけど、いつまでも「かわいいから」「若いから」で許されることはありえない。
 そのことに彼女は気付いているんだろうか。
 こんな風に思う私はいかにも年くってるみたいですごくイヤなんだけど。

2002年02月06日(水)  思い出すのは

 今日、取引先に向かうのに西武新宿線を使った。
 この電車に乗るのは本当に久しぶりだ。
 学生の頃付き合っていた人が「下井草」に住んでいて、彼とうまくいっていた時には何度も通ったトコロ。
 考えてみたら別れて以来、なのかな。
 電車が「下井草」の駅に止まると、つい振り返ってホームを見てしまった。
 今更一体誰を探すというのだろう。
 いつも彼が待っていたベンチには、誰も座っていなかった。
 ちょっぴり胸が痛いのは、あの頃を思い出してしまうから。

2002年02月02日(土)  美里のお宅訪問

 美里の新居に初めてお邪魔する。
 新居とはいっても、もう結婚して一年経ってしまった。
 美里と会うのも実は結婚式以来だったりする。

 都内の3LDKのマンション。
 行くなり家中を見せてもらう。
 美里は仕事を続けているしダンナさんも忙しいみたいだけど、それでもちゃんとここには二人で生活している空気がある。
「料理してんの?」
「んー、一応ねー。早く帰れた方が気が向いたら作るって感じ」
「ダンナさんも作るんだー」
「うん。彼の方が一人暮らし歴長いから、家事は得意なんだよねー」
「いいね、それ」
「助かるよー」
「洗濯や掃除も?」
「うん。してくれるよ」
「理想の夫だねー」
「紺野くんも家事はするんでしょ?」
「まあねー。でも一緒に住んでるわけじゃないからさ」
 キッチンでコーヒーを入れる美里の横顔を見ながら、彼女の顔つきが前と変わったと思う。
 もちろん悪い意味ではなく、いい意味で。
 太ったわけではないし、結婚したからってメイクや服装に手を抜いたりしていない。
 一体何が違うんだろう。
「どうぞ」
「ありがとう」
 美里がコーヒーカップを運んできて、椅子に座った。
 彼女が自分のカップにミルクをたくさん入れているのを見て、私はびっくりした。
 学生の頃から彼女はコーヒーが好きだった。
 絶対にミルクや砂糖は入れず、ブラックじゃなきゃダメ、というこだわりがあるはず。
「それ、ほとんどコーヒーの色してないじゃん?」
「うん、そう。最近はカフェオレにしてるんだ」
 そう言って笑う美里の顔を見た時、すぐに私はピンときた。
「……もしかして、できた?」
「なんでわかるの?」
 美里は目を円くした。
 やっぱりね。
「そりゃわかるよ。だてに長く付き合ってないもん」
「そっか」
「何ヶ月?」
「今、5ヵ月入ったとこ」
「お腹わからないね?」
「まだそこまで大きくないもん」
「コドモ、当分作らないって言ってたじゃん」
「あはは。まーねー」
「とにかく、おめでとう」
「ありがと」
 そうか。コドモか。
 結婚して、家を買って、コドモを産む。
 順調な流れに乗ってるんだ。
 私が立ち止まっている間に。
 彼女は元々私や明子よりも大人だったけど、今は更に大きな余裕みたいなものを感じる。
 逆に私は不安定で落ち着かないってことなのかな。


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