──絶対に敵わない存在とか、温度とか。むしょーに腹が立つけど、絶対に必要だと思う。
耐久絵チャ同志に捧げる文「似非冬景」に続いて。 2本目「絶対温度」をアップです。
今度は、原作ベースの短文。
もっと書き込みたかったけれど、ぐっと我慢の子。 余白を想像して、楽しんでもらえたら、幸いです。
どっちの話も「寒さ、触れる、温度」と同じテーマで書いてみましたが。 二人の関係とか距離で、ガラリと雰囲気が変わる。 書いていて、面白かったです(笑)
話を書くきっかけになった、 (11) yako > 寒くなってきたので、寒さに震えるトグサをあっためるバトさんで!(笑)←お題 に、感謝です☆
最後まで羞恥プレイを強要(笑)
どんなに科学が発展しても。 季節は巡り、冬は来る。 寒さは人の身体を遠慮なく蝕むし。 その身をキリキリと凍らせもする。
結局、人間は自然には勝てないと言う事だ。 でも、それもまた、良いと思うし。 人間には、必要な事だろうと思う。
どんなに、人間が進化して。 どんなに、世界が変わっても。 自然だけは、変わらずに。 人間が勝てない相手として、存在し続けるのは。
絶対に、必要な事だから。
そう、絶対に勝てない相手がいる事は。 誰にとっても、必要なのだ。
「ざぶい」 雪が降ってくるんじゃなかろうか。 という様な、激しい寒さに震えながら、隣の男に訴えてみた。 「はぁ?なんだって??」 聞き取れなかったのか、男が首を傾げ、反問してくる。 その義体の大男が耳を近づけてくるのに向け、大声でもう一度、同じ言葉を繰り返した。 「ざぶいっでいっだの!」 大声を出すのも、寒さのせいで億劫だった。 今度こそ聞き取れた言葉に、男は呆れ顔だ。 「・・・お前ねぇ、どこまでマフラーで隠しゃ気がすむんだよ」 分厚いコート、その中にはハイネックのセーター。 襟元はマフラーで頑丈に塞ぎ、手袋は勿論、二枚重ね。 目元まで覆って、頭の一部分しか出てない完全防備を男の大きな手が剥ぎ取ろうとしたので、身をかわして避けた。 が。 無遠慮な手が一歩勝って、口が露わになるまでマフラーを引き下げられてしまった。 それに抗議する様に大きく、寒さに震えてみせて。 「バトー、目だし帽買って。ぬくい毛糸で出来たヤツ」 マフラーに阻まれてくぐもっていない、クリアな声で、男に話しかけた。 少しでも冷気を感じる面積を小さくしようと、背を丸めて、身を竦める。 「あほかー。行確対象を秘密裏に追跡せにゃならん奴が目立ってどうするー?そんなもん、却下」 あっさりと、却下された。 自分でもそう思うから、それに異は唱えず、もう一度。 「あーまじで、寒い」 とだけ、口にした。 さっきよりは控えめにマフラーを引き上げてから、溜息を吐いた。 吐いた息が、白くなって、消えた。 「まったく。生身はこれだから─」 「じゃあ、バトーも感覚切るのヤメロ」 「─可愛くってしょーがねえ」 ヤワで困る、という言葉を飲み込んで、とっさに変えただろう男の義眼を。 険のある眇めた目で見た。 すると、男の唇がニィと歪んで。 次いで、大きな手が自分に向かって伸びてきた。 「そんな、寒さに震える可愛い後輩クンの為に、俺の体温を分けてあげよう」 むやみやたらにデカイ掌が、冷えた頬に触れて、ゆっくりと押し当てられる。 自分の為に、高めに設定したのだろう、その体温が。 一瞬にして、寒さに凍えた身体を融かした気がして。 竦んだ。
「──よ、余計なお世話ッ!」
そう、何とか口に出して、男の手を振り払う。 遠慮すんなって、と笑う男の顔に。
むしょーに、負けた気分になった。
END
──それは、似て非なる冬の景色。
先+先日の耐久絵チャで頂いたお題、を書いたSSの1つ目。 ほんとならば、昨日の内にアップしなきゃだったのですが(汗) 本日にずれこむ罠。←日付は30日ですが、実は31日だったり 遅くなって、すみませんでしたーー((orz
犬ベースで短文。
あの素晴らしき空間を共有した同志(笑)Aさん、Kさん、Sさん、Hさん、Yさんに捧げます。 でも、NOTエロですので、アシカラズ(笑)
どんなお題かというのは、 (11) yako > 寒くなってきたので、寒さに震えるトグサをあっためるバトさんで!(笑)←お題 原文をそのまま引用するという羞恥プレイを強いてみる罠で告知。
わはは。
また、冬が来た。 灰色の冬が。
卒塔婆の群れに、沈む北端。 灰色に、染まる択捉。
あの時と同じ、冬が。
「・・・寒」
どんよりと淀む曇天を仰ぎ、溜息と共に吐き出した言葉は、今の状況を簡潔に表していた。
寒空の中、車も使わずに街をさ迷い歩く男の行確。 それをするのに、これほど厄介な季節もない。 これが春だったならば、気を散じることもなく、男の追跡に集中出来たろうに。
溜息がまた、口を吐いて出る。
その吐く息は白く、首筋から忍び込む冷気は、刺す様に冷たい。 どれほど着込んでも、身の内に染み込んでくる様な寒さに、身震いしてしまう。 自分が吐き出した白い息を眺め、無駄な努力だが、手袋をはめた手でコートの襟を掻き合せた。
「生身は柔だな」
その瞬間。 隣を歩く男の低音が鼓膜を撫で。 次いで、手の甲が、頬を撫でた。 普段はその体温を消し去っているはずの男、その、微かな温もりに。
触れた途端、寒さが、消えた。
また、冬が来た。 灰色の冬が。
卒塔婆の群れに、沈む北端。 灰色に、染まる択捉。
あの時と同じ、冬が。
けれど。
あの日、あの時とは。 似て非なる冬が、来たのだと。 その温もりに触れて。
気付いた。
END
2006年10月24日(火) |
鬼の守人 ─嚆矢─ <十> |
鬼の続きをアップです。
やはり、ずるずるのびる罠発動中。 十四も、突破しそうな勢いですよ・・・? あわわ(;´Д`)
あれもこれも書こうとするから、こうなるわけで。 ごちゃごちゃして、読みづらくなるから、いけない。 と、分かっちゃいるんですがねぇ(笑) 書いちゃうんだなあ。 困ったもんです。
もう少し、文に余白を作らねば。 想像する余地が、必要だもの。
十、渇望
淀む気を纏いながら飛ぶ、黒い鳥に視線を流し、 「ま。お前らにとっちゃ、迷惑な話だろうが。あいつも生きていくのに必死なのさ」 馬濤はぼそりと言葉を吐いた。 その言葉に、兎草の足が止まった。
戦乱の時代を生き、そして死に。
その後に鬼喰いになった馬濤は、元は人間であっても、限りなく妖しに近い存在だった。 だから、妖しの心の在り様を、容易に想像することが出来たのかもしれない。 「妖しも、人間と同じ。生きる為には、喰わなければ、死ぬしか道はない。確かに己が在るならば、死という無は、途轍もなく恐ろしいものだ」 兎草に語り聞かせるようでいて、独白のようにも聴こえるその言葉。 それに、鬼喰いの主と幼い見鬼は、静かに耳を傾けた。 「だから、生きる為に、喰う」 「─────」 黒の衣を纏い、傍らに浮かぶ馬濤を兎草は、ただ見つめた。 かける言葉が、見つからない。 低音の柔らかいはずの声が、硬く冷えた音を含んで聴こえるのが。 無性に、哀しかった。 「生有る者は、己が永らえる為の、餌。妖しが人間を喰うって行為は、お前達が生きる為に米を食うのと、大差ない行為なのさ」
暗がりから見える光は眩しく、目の毒だが、それ故に。 恐ろしく、甘い匂いがするのだ。 まるで誘うように。 それは、抗いがたい欲求を心の奥底から、呼び起こす。
己の中の虚空を、満たしたい。 闇の住人ではなかった頃に、戻れるかもしれない。
そんな欲求を。 そんな渇望を。
だから。 妖しは、清浄な魂を持った者を喰らいたいのだ。 幾つも、幾つも。 数多の命を喰らい尽くしたい。 己でさえも抑えきれない、癒えぬ渇きを潤す為に。
それは、妖しの者達にとっては、純粋な衝動なのだ。 人間にしてみれば、勝手な衝動以外の何者でもないだろうが。
馬濤は桜の内で眠りにつくまで、そんな都合の良い事を思うモノ達を腐るほど、見てきた。 そして、いつまでも、暗い場所に居る哀れなモノ達の末路を知ってもいた。 幾ら、喰らおうとも。 元に戻れはしない。 一層、深みに嵌るだけだ。
馬濤は、すぐ傍に潜む、無常の闇を思った。
自分がこの闇に嵌らなかったのは、ほんの少しの弱さが、心に在ったからだと。 馬濤は良く承知していた。 光を捨てる事は出来なくて、それに縋る事を選んだ、その弱さを。 知っていた。 そして。 それが間違いではなかったと、馬濤は傍らの子供に触れて、思ったのだった。
黒い布に覆われた、その奥の目が、ひたと自分を見詰めていることに気づいた兎草は、 「餌と言われて、大人しく喰われるヤツなんて居ないからな」 慌てた様に、むっとした顔を作った。 心の中の戸惑いや、言葉をかける事の出来ない無知な自分を、馬濤に知られたくなかったからだ。 そんな兎草に、馬濤はニヤリと笑う。 「そりゃそうだ。イツの世も、喰うか喰われるか、だ。喰われるのが嫌なら、知恵を絞って戦うのみ。人じゃないモノと戦うために、人間は知恵を絞り、生まれたのがお前達のような異能だからな」
キィイィイイ。
空から、妖しの咆哮が降ってきた。 乾いたその叫びは、身の内に水を湛える人の心に、波紋を生じさせる。 止まっていた足が、動けと命じた。 兎草が目を向けると、馬濤は妖しを仰ぎ見ながら、行けという様に顎で先を指し示した。 再び、兎草は階段を駆け上がり始めた。
ふわりと宙を舞いながら、馬濤はまた話し出す。 「人が在り、妖しが生まれた。人は妖しを畏れ、妖しは人を喰った。妖しが跋扈し、人は妖しと戦う術を得る為に、世の理を識った。お前達の祖はあらゆる知識を得、それを心で使い、血に染み込むまで昇華させた。そして、新たに生まれる魂、お前達に継がれる力が生まれたんだ。それぞれの異能の力は、そうやってお前達に宿っている」 妖しと異能の者達の、対のような関係を馬濤はそう語った。 「互いが、互いに、生きる為に戦う事は悪い事じゃない。世の常、理だ。だから、お前達は気兼ねなく、あいつを倒していいんだ」 あいつらも、気兼ねなく、お前達を喰おうとしてるんだから。 馬濤はそう言って、笑った。 「そんで、戦うのは俺の役目だ。だから、俺が戦う。お前の命を狙うなら、俺が暴れてもいいってことだからな。なぁ、兎草?」 先程まで纏わりついていた影を払った馬濤の言葉に、兎草は困った様な笑みを浮かべた。
2006年10月14日(土) |
鬼の守人 ─嚆矢─ <九> |
鬼の続編をアップ。 いまだに、逃避行中。
予定では、十で終わるはずだったんですが。 (↑鬼が十だったからお揃いにしたかった)
どうやら無理の模様。
十三か、十四くらいになりそうですよ。 あわわ(;´Д`) ずるずるとのびていく長文の罠発動。
九、衝動
美希の父が所有するビルに辿り着くと、兎草は裏に回り、外付けの非常階段を駆け上がった。 馬濤は階段脇の宙を、禍々しく舞う黒い鳥を警戒しつつ、流れる様に移動している。 「あいつ、諦める気はさらさらなさそうだなぁ」 「諦める気があるような妖しなら、最初から、人間のこと狙わないよ」 ふわりふわりとついて来る馬濤に、兎草は弾む声で応えた。 すると、道理だな、と笑い声が返ってくる。 「それにしても。美希ちゃんがこうやって外に居るってことは、姉さんが着く前に、事態が悪化したってことだよな?」 弾む鼓動の中、冷静に状況を考える。 退魔の術を完璧に扱う素子が、敵と対峙して獲り逃がすなど有り得ないのだから、そう考えるのが当然だ。 兎草は、階段を踏み外さぬよう気をつけながら、腕の中の美希に問うた。 聞きたい事があったのだ。 これを聞けば、どういう経緯が流れたか解るに違いない、そういう問いだ。 大人しく兎草にしがみついていた美希が、耳を澄ます気配がした。 「美希ちゃん、あのさ、さっき言ってたおじいちゃまって──生きてる人だった?」 普通の人が聞けば、おかしな問いに聞こえるかもしれないが、兎草は至極まじめに訊いたし、美希にはそれで通じた。 「・・・それがね、よくわからないの。いきてるようなきもするし、ちがうようなきもして」 自分を逃がしてくれた”おじいちゃま”のことを思い出しながら、美希は首を傾げた。 自分の視たモノ、その感覚を言葉で伝えようとするが、上手く言えないらしい。 美希にとっては、それだけ、不思議なおじいちゃまだったのだろう。 その様子にニヤリと笑いながら、馬濤が兎草を見遣る。 「そりゃあ、間違いなく、家長の護法だ。なぁ、兎草?」 「うん。祖父さまの護法の助けがあって、この子は逃げてきたんだ」 目の端を掠めるように飛ぶ、黒い鳥。 キィキィと耳障りな鳴き声が、兎草の鼓膜を震わせた。 空を舞う、黒い妖しは。
ただただ、ひたすらに。
喰いたい、喰いたいと叫んでいる。 「いやなこえね。とっても」 美希は兎草の首筋にぎゅっとしがみついた。 なだめる様に、その小さな背を叩いてやる。 腕の中の小さな異能者は、鳥の叫びを嫌なものだと感じる事は出来るが、その内容までは解らないようだ。(美希の能力はどうやら、視る事のみが特化しているらしい) でも、今はその方が良いと、兎草は思った。 壊れた様に喰いたいと繰り返す妖しの声を聞かせたくはなかったからだ。 が。 そんな気遣いと無縁の馬濤が、 「あの鳥、お前らの事、早く喰いたいってよ」 暢気に、黒い鳥の叫びを通訳し、最悪の事を口にした。 美希の体がびくりと竦むのを感じ、兎草は思いっきり、非難の視線を馬濤に浴びせた。 「・・・・・」 兎草の口元は、への字に曲がっている。 しかし、馬濤はそんな視線を物ともせず、 「相当、腹が減ってるみてえだなぁ。あの鳥」 と、更に言葉を継ぐ。 「いっぺんに、二匹喰えるって、大喜びだもんよ?」 妖しの狙いは美希だったはずなのだが、いつの間にか、兎草もそこに含まれてしまったらしい。 まあ。 己が喰おうとしている子供に、どこからか現れた異能の者がくっついて来たら、そりゃあ、棚から牡丹餅、据え膳食わぬはなんとやらだ。 妖しとしては、喰わない手はないだろう。 デリカシーのない鬼喰いは、妖しを仰ぎ見、にやにや笑っている。 美希がまた怯えたように身じろいだのを感じて、兎草は今度は、盛大に顔を顰めた。 「余計な事、通訳するな。馬濤」 これ以上、変な事を言わせて、美希を怖がらせてはいけない。 兎草は強い口調で言った。 「あ?俺が居るんだから、アレがなんて叫ぼうが、怯える必要なんてねえだろ」 そんな兎草に、馬濤は不服そうに鼻を鳴らす。 俺が信用できないのか、とでも言いたげだ。 兎草は、尊大に言い切った傍らの鬼喰いに、小さく溜息を吐いた。
2006年10月10日(火) |
BT30題「30) 花に譬えるなら」 |
BT30題のラストになります。
気がつけば、一年以上、かかっての終幕・・・みたいな? ワァー凄い遅筆っぷりです(笑) ですが、30題、楽しんで書き続ける事ができました。 この場を借りて。 お題を作って下さった朝乃さんにお礼を。 素敵お題をありがとうございました!!(深々と礼)
それから、読んで下さった方々にも、ありがとうを!!
で。 30題のラスト話は。 犬ベースの話が少ないかなーと思えたので、犬ベースで締めました。 事件その後、のイメージで書きました。
これは先月末、風邪引いてたにもかかわらず、のりのりで夜更かし絵茶をした際。 ダブルYさんのお色気満載の絵&トークに触発されて、ネタだししたものだったりします。 確か・・・白シャツがどうとか、白が云々とか、萌えツボの話をしていたと思うんですが。 何故か、その絵茶の後、寝ずに一気に書き上げた話は。 一切お色気成分なし、方向違いの話に出来上がったのでした。
───アレ?オカシイナァ??(;゜∀゜)
いや、まぁ。 いい感じに書けたと思っているので、ヨシとします(笑)
私信;Yコさーん、Yーこさーん、ごめんなさいね。 お色気物をあとで持ち寄りましょうネ!と言ってたのに、お色気一切なくて(笑) ホラ、私は「お色気なし文」がデフォだから。 ←反論は一切、受け付けませんョ☆
不意に、鼻腔を擽る、何か。 久しく嗅いでなかった、その人工物でない本物の匂いに、バトーは立ち止まった。 数回、鼻をひくつかせ、その匂いを分析し、天然だと確認する。
無色透明の人の群れが行き交う、雑踏の中。 灰色の高層ビルが林立する、新都心の一角で。 総ての感覚を鷲掴みにする様な。 傲慢で鮮やかな、その存在感。
百合か。
匂いの元を辿り、義眼が捉えた物体に、バトーは眉間を寄せた。 通りに面して、硝子戸を開放した花屋から、それは香る。
店内で、ぽつりと佇む、一輪。
しかし、それは無機質の建物の中から、恐ろしく有機的な香りを放っていた。 他の花を圧倒し、己だけが花であるかのように。
擦り抜けていく人の合間から、バトーは無機の義眼で、その百合を見つめた。 あの人形の髪にも、まるで簪のように挿されていた、白い花。 過ぎ去った択捉の情景がそれにだぶり、脳裏を掠めていく。
凄烈な白。 咽るような芳香。
聖女の花。 純潔の象徴。
聖域に咲き誇る、絶対不可侵の女神。
電脳の海に融ける事を選択した女の姿が、自然に浮かび、バトーは内心で自嘲の笑みを漏らした。 しかし。 花開き、少し首を俯けた様に咲く、その姿に。 バトーは、何故だか、あの男を思い出した。 言葉少なに、歩み。 目を伏せながらも、決して、見つめる事を止めない。 柔な見てくれを裏切る強靭さで、現在を、未来を捉えようと足掻いていた、あの生身の男を。
女が拾い上げ、遺していった男。 背中合わせの真実が、一瞬、バトーのゴーストに繋がりかけた。 けれど、バトーはそれから意識を逸らした。 振り払うように、
「馬鹿らしい」
自嘲の言葉を吐き、止めていた歩みを再開させる。 百合の白い姿を電脳から消し去るように、一歩ずつ、離れていく。 しかし、その匂いだけは。 離れていくごとに、強く。
ゴーストに纏わりつく様に、香った。
花は、佇み続ける。 枯れるまで。 枯れる、その最期の瞬間まで。 鮮やかに、誇らしげに。
花に、譬えるなら。 人間という器は、儚さの花弁。 柔らかで在りながら、侵されない魂は、美しさの芳香。
花に譬えるなら。 それは、生まれ、死する、連鎖の蕾。 鮮やかに咲き誇る、永遠の種子。
END
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